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内紛も噂のミラン、避けたい負のスパイラル 団結で悪夢再来を阻めるか

中村大晃カルチョ・ライター
4月2日、ウディネーゼ戦でのガットゥーゾ監督。ミランは復調できるか?(写真:ロイター/アフロ)

「ロストフの14秒」を思い起こさせるカウンターだった。

4月2日のセリエA第30節、本拠地サン・シーロにウディネーゼを迎えたミランは、1点リードで迎えた後半64分、CKのチャンスを得た。ハカン・チャルハノールが蹴ったボールは相手選手に当たり、こぼれたところにクシシュトフ・ピオンテクが反応するが、必死の守備陣に阻まれる。

ピンチをしのいだウディネーゼは、ステーファノ・オカカがこぼれ球を拾うと、一気にハーフラインまで持ち運び、左に大きく空いたスペースを走るセコ・フォファナにパス。ボールを受けたフォファナが、ペナルティーエリアに進入してから折り返すと、中央に飛び込んだケヴィン・ラザーニャが押し込んでネットを揺らした。

オカカがボールを拾ってから、わずか10秒でのゴール。まさに電光石火の一撃で追いつかれたミランは、再び勝ち越すことができず引き分けた。2連敗に続くドローで、3試合白星なし。おまけに、ジャンルイジ・ドンナルンマにルーカス・パケタという攻守の要を負傷で失った。

◆5連勝後に3戦白星なし

1カ月前、ミランを取り巻くムードは最高だった。冬にピオンテクとパケタが加入してから調子は右肩上がりで、5連勝を記録してインテルを抜き、3位に浮上。チャンピオンズリーグ(CL)出場権獲得に向け、チームとファンは高揚感に包まれていた。

流れが変わったのは、下馬評で有利とされていたインテルとのダービーだ。マウロ・イカルディを巡る内紛騒動とヨーロッパリーグ敗退で失意の底にあった宿敵に、ミランは2-3と敗北。連勝を止められ、嫌な雰囲気のままインターナショナルウィークに突入する。

仕切り直しとなるはずだった3月30日のサンプドリア戦も、見る者が目を疑うようなドンナルンマのミスで開始早々に先制点を献上し、そのまま追いつけずに連敗。そして前述のウディネーゼ戦だ。

◆避けたい昨季の二の舞

ミランが3試合で勝ち点1しか挙げられなかったのは、2017年12月以来となる。『ガゼッタ・デッロ・スポルト』電子版は、「2017年の悪夢に再び生きるガットゥーゾ」と、就任直後に苦境に陥った指揮官が再び危機を迎えていると伝えた。

恐れるべき「悪夢」の再来は、もうひとつある。ミランは昨季、2月から3月にかけて5連勝を記録したが、インターナショナルウィーク明けにユヴェントスとの大一番を落とすと、そこから6試合白星に見放されているのだ(4分け2敗)。

筆者作成
筆者作成

ミランは6日の次節で首位ユヴェントス、続く13日の第32節でCL出場を争うラツィオと対戦する。ビッグマッチを続けて落とし、昨年のように不振が続けば、今季の絶対命令であるCLが遠のく。欧州最高峰の舞台を逃せば、財政面で大きな痛手なのは言うまでもない。ファイナンシャルフェアプレー(FFP)違反で補強資金のやり繰りが制限されるだけになおさらだ。

ライバルのインテルはCLに6年出られず、その間にFFPの影響で苦しんだ。彼らがCL出場権を取り戻したのは、蘇寧グループがオーナーになって2シーズン目の昨季。エリオットが経営権を握って1年目のミランだが、「負のスパイラル」を避けるためにも4位以内を確保したいところだ。

◆パケタを失って相性の悪い王者との対戦

だが、道のりは険しい。まずは次節の相手がユヴェントスだからだ。すでに8連覇はほぼ確実だが、モチベーションには事欠かない。ユーヴェはミランに勝ち、翌日ナポリが負ければ、直接対決の成績で上回るため、今節で優勝を決められるのだ。

加えて、ガットゥーゾは就任してからユヴェントスとの4試合で1得点10失点と全敗しており、チームも2011年を最後に敵地でユーヴェに勝てていない。まだユヴェントス・スタジアム(現アリアンツ・スタジアム)ができる前のことだ。当時得点したのが、現役時代のガットゥーゾだったのは数少ない吉兆かもしれないが…。

そして、データ以上に懸念材料となるのが、パケタの戦線離脱だ。右足首の挫傷で最低でも20日以上は復帰に要するとみられる。

ウディネーゼ戦ではトップ下のパケタがピオンテクとパトリック・クトローネの2トップを支えるシステムを初採用し、期待を抱かせる場面も見せていただけに、パケタ負傷のダメージは大きい。スソやチャルハノールをトップ下として2トップを続けるのか、クトローネをあきらめて4-3-3に戻すのか、指揮官の決断が注目される。

◆最も恐れるべきは内部の混乱?

そして、その決断をガットゥーゾが思うように下せるかどうかも不安なところだ。直近では指揮官とレオナルドとの確執の噂が再燃。2トップへの変更も、“上”からの指示だったとの見方もある。ガットゥーゾ監督はウディネーゼ戦の試合後、短期間でシステム変更を機能させるのは難しいと話しており、この発言は“上”へのメッセージだったという見解だ。

クリスティアーノ・ルイウ記者は『Calciomercato.com』で「悪い結果に終わったら、直近の内部対立は本当に許されないものだ」と記している。

カルロ・ペッレガッティ記者は、自身のYouTubeで「クラブが監督を信頼していないとチームが気づいたら、監督にとっては終わり」というアルベルト・ザッケローニの言葉を紹介。「こういう噂が始まるとどこにも行けない」と、負傷より心配すべきで、「混乱が訪れれば結果は逃げる」と訴えた。

イカルディ問題を抱えるインテルは、CLという共通目標のためにそれぞれが手打ちし、3日のジェノア戦で白星を取り戻した。トリノ遠征に臨むミランは、どのような戦いを見せるのか。アンドレア・ディ・カーロ記者は、『ガゼッタ』で「突然消えてしまったスピリットと活力を取り戻す必要がある」と記している。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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