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CL敗退で19億円失ったローマ、PK判定は「恥」? 敗因は70年代のイタリア気質?

中村大晃カルチョ・ライター
3月6日、CLポルト戦でPKを献上したアレッサンドロ・フロレンツィ。試合後に涙も(写真:ロイター/アフロ)

戦前の予想を覆すフォーメーション変更は、昨季の奇跡の再来にはつながらなかった。

ローマは3月6日、チャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメント1回戦セカンドレグで、ポルトを相手に延長戦の末に2試合合計3-4と敗れ、大会から姿を消した。

◆窮地の指揮官が選んだシステムは…

ホームでのファーストレグで2-1と勝利していたローマだが、チームを取り巻く雰囲気は重かった。セリエA前節のローマダービーで宿敵ラツィオに0-3と完敗。経営陣からの信頼低下が以前から噂されていたエウゼビオ・ディ・フランチェスコ監督は、負ければ解任濃厚と言われていたのだ。

一蓮托生を強調してきたモンチSDも退団が報じられ、崖っぷちに立たされたディ・フランチェスコは、予想されていた4-2-3-1ではなく、今季初めてとなる3-4-2-1のフォーメーションを採用した。

昨季のCL準々決勝、バルセロナにファーストレグで1-4と大敗したディ・フランチェスコは、ホームでのセカンドレグで3バックを採用。バルサを驚かせ、3-0と快勝し、ベスト4進出を果たした。見事な逆転劇に大きな賛辞が寄せられたのは記憶に新しい

だが、ポルト戦でのシステム変更は、2年連続のヒットにはならなかった。3バックというよりも5バックに近いカウンター狙いの作戦は、逃げ切ってのラウンド突破という目標達成に至らなかった。

◆19億円を左右した判定に激怒

試合後、ジェームズ・パロッタ会長やコスタス・マノラスは、終盤の判定に怒りをあらわにした。ビデオアシスタントレフェリー(VAR)の介入により、アレッサンドロ・フロレンツィのファウルがポルトのPKとなったのに対し、パトリック・シックが倒された場面でローマにPKが与えられなかったからだ。

フロレンツィのファウルは、VAR介入で主審がオンフィールドレビュー(OFR)をしたうえでPKに判定が変更された。一方、シックが倒れたシーンでは、主審のOFRがなかった。その是非はさておき、映像確認がなかったことで、ローマ陣営を感情的にさせたことは確かだろう。

もしもシックに対するプレーでPKが与えられ、それを決めていれば、終了直前という時間から、ローマが2試合合計でタイスコアとし、アウェーゴールの差で準々決勝への切符を手にしていた可能性は小さくない。

『ガゼッタ・デッロ・スポルト』は戦前、ベスト8に進めば、UEFAからの賞金や準々決勝のチケット売上など、最低でも1500万ユーロ(約19億円)の収入につながると報じていた。一つの判定で、それだけの金額が動いてしまうのだ。

もちろん、金銭面だけが理由ではないだろうが、だからこそ、パロッタ会長は激怒した。イタリアメディアも、ローマにPKが与えられなかったことを「誤審」と位置付けている。特に、ローマを拠点とする『コッリエレ・デッロ・スポルト』は、一面で「恥」と大々的に批判した。

同紙のグイド・ドゥバルド記者は「ローマは主審にも罰せられた」とし、「90分間で枠内シュートはPKの1本だったが、最後までラウンド突破のゴールを求めて戦った。涙と悔いの中で終わった夜」と記し、ローマの戦いぶりを評価している。

「困難にある指揮官に背を向けず、苦しみながら気持ちを込めて戦った難しい試合の最後に、ローマは(2試合合計で)引き分けるにふさわしかった。いくつかのミスが結果に重く響きはしたが、とても守備に気を配った試合をした」

◆イタリア気質こそが敗因との指摘も

しかし、ローマの敗因を判定だけとするのは性急だろう。『ガゼッタ』のサンドロ・ヴェルナッツァ記者は、ディ・フランチェスコが「最も難しい時にイタリア気質に隠れた」と評している。

ファビオ・リカーリ記者はもっと辛らつだ。「PK以外に真の枠内シュートが1本だったチーム」は、シックが倒れた場面でのOFRにも値しないと主張。3バック採用を「最初の間違ったメッセージ」とし、「我々は恐れ、守ることだけを考え、そして罰せられる」と、イタリア的な守備志向を非難した。

「またも国外でのイタリア的姿勢が失望させた。ミランのサッキ革命より、バリケードとカテナッチョで守っていた1970年代を想い出させる。ガスペリーニのような監督たちが働きかけているトレンドの変化がない限り、我々は精神的な限界の高い代償を払うことになる」

◆結果とメンタリティーの均衡

勝負に「たら・れば」は禁物だ。それでも、もしもローマが勝ち上がっていれば、苦しみに耐えての逃げ切りを評価する声もあったかもしれない。

実際、『レプッブリカ』のファブリツィオ・ボッカ記者は、「最終的に3-1というスコアは試合展開を反映している」と指摘し、ポルト攻め立てられたことを「この上なく長いむち打ち刑」と表現したうえで、ローマが延長終盤まで持ちこたえたことにも言及している。

結局のところ、結果で評価が変わる可能性は常に存在する。特にカルチョではそれが顕著だ。だからこそ、結果を追い求めることを第一とする指揮官がおり、クラブがある。一方で、「結果がよければすべてよし」のメンタリティーでは勝てないことも近年で示されてきた。

イタリアのクラブを率いる指揮官たちは、その永遠の問いに答えるためにバランスを取り続けなければならない。ディ・フランチェスコにそれだけの時間が残されているかは分からないが…

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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