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アストーリの腕章を守れ! セリエA新ルールに批判殺到 「魂も羞恥心もない」

中村大晃カルチョ・ライター
7月のプレシーズンマッチでのペッセッラ。左腕には「DA13」の腕章(写真:Maurizio Borsari/アフロ)

スポーツにおいてルールを守ることは絶対だ。だが、ルールそのものの妥当性が疑問視されるケースもある。今季のセリエAで議論の的となっているキャプテンマークの件も、その一例だ。

8月、リーグは今季から指定の腕章を使用するように通達した。プレミアリーグのようにリーグのロゴが記された、白地に青い線と「Capitano(キャプテン)」の文字が入った腕章だ。

◆指定腕章に反発する主将たち

だが、これまで独自の腕章を使っていた一部のキャプテンは、この決定に反発している。

すぐに不満を表したのは、これまで試合ごとに異なる腕章を使っていたアタランタのアレハンドロ・ゴメスだ。彼の腕章がいかにバリエーション豊富だったかは、リーグの決定に落胆して投稿したインスタグラムの写真を見るだけでも分かるだろう。

ゴメスはこの投稿で「残念ながら今のサッカーにおいて、選手はどんどん重視されなくなっている」と怒りを隠していない。

声を上げることはなかったが、リーグの決定に従わなかったのが、ローマのダニエレ・デ・ロッシだ。彼の腕章には「君は唯一の伴侶、唯一の愛」と、ローマへの愛情を表す言葉が記されている。開幕戦から、デ・ロッシは昨季までのようにこのキャプテンマークを腕に巻いた。

翌日、アタランタの開幕戦で、ゴメスもデ・ロッシに続いた。試合前のロッカールームの様子を伝えるテレビカメラに映ったのは、リーグ指定のキャプテンマーク。だが、実際にゴメスが試合で巻いたのは、独自の腕章だった。試合後、ゴメスは「リーグの腕章は大きすぎた」と“釈明”している。

ジェノヴァで起きた痛ましい高架橋崩落事故の影響により、開幕戦が延期になったフィオレンティーナの主将ヘルマン・ペッセッラも、第2節からリーグ通達を無視して独自の腕章を巻いた。

今季からキャプテンになったペッセッラの腕章は、今年3月の試合前日に急逝した元主将ダヴィデ・アストーリにささげるものだ。アストーリが纏っていた背番号とイニシャルを組み合わせた「DA13」が記された腕章は、フィオレンティーナの人々にとって特別な意味を持つ。

◆相次ぐリーグ批判の声

“造反”が相次いだことで、リーグは9月4日、今後の違反に処分を科すと発表した。

だが、逆にリーグを批判する声は絶えない。とりわけ多いのが、フィオレンティーナのケースは認められるべきという意見だ。クリスティアーノ・ビラーギも「罰金が科されるなら僕らが払う」と、チームとしてアストーリにささげる腕章を使い続ける考えを強調した。

メディアからも、リーグの方針を疑問視する声が上がっている。

『コッリエレ・デッロ・スポルト』のイヴァン・ザッザローニ編集長は、自身のツイッターで「多くの無意味な発案の一つ」と、指定腕章の強制を批判。ジャンニ・カロテヌート記者も『ジョルナーレ』で「レーガ・カルチョのバカげた改革運動」と批判記事を書いた。ステーファノ・スカッキ記者も『レプッブリカ』で、少なくともフィオレンティーナのケースは例外にすべきと主張している。

『Calciomercato.com』では、ステーファノ・アグレスティ記者が、ユヴェントスがスタジアムにはく奪された2つのスクデットも含めて掲げていることを指摘。その是非はさておき、現状黙認されている中で、アストーリにささげる腕章が認められないのは矛盾と批判した。

「アストーリ(にささげる腕章)が消えなければならず、取り消されたスクデットは残ることができる。魂も羞恥心もないカルチョだ」

『ガゼッタ・デッロ・スポルト』のルカ・カラマイ記者も、「ダヴィデは健全・潔白で子どもたちに教えるべきサッカーのシンボルに選ばれた」とコメント。アストーリの存在と、その彼にささげる腕章の意義を強調している。

「アストーリが神聖なものと大切にし、試合前に仲間に誇らしく見せていたあの腕章をチームメートたちが巻くことを、どうして禁じられるだろうか。フィオレンティーナにキャプテンをたたえさせることは、リスペクトのあり方だ。サッカーも時には情に屈しなければならない」

パオロ・コンドー記者はツイッターで「うまく共有できなかったアイディアを取り消せるかどうかも、一人の人間、あるいは一つの協会の知性を示す」と、リーグに撤回を呼び掛けた。

「キャプテンマークの問題は尊い感性の問題に触れた。レーガは取り消すのが良いだろう」

◆希望の光に期待

9月7日付の『ガゼッタ』によると、リーグは来週の会議でアストーリのケースについて話し合うという。未定ではあるが、何かしらの形でアストーリへのオマージュを認める方法を模索するようだ。

報道によれば、指定腕章と独自腕章の同時使用の許可や、ユニフォームに背番号13を織り込むなど、様々な案があるとのこと。いずれにしても、リーグが検討の余地を認めたのは朗報だ。

凋落が叫ばれ続けるなか、ワールドカップ出場も逃したイタリアは、クリスティアーノ・ロナウド到来を機に、クラブレベルでも代表レベルでも復権を目指している。キャプテンマークのことより、もっと議論して修正すべき課題はたくさんあるかもしれない。

だが、たとえ商業面の重要性が増していく一方でも、人々の感情は無下にすべきでないはずだ。また、アストーリにささげる腕章は、他国でも話題となっている。ブランド力復活を願うカルチョ界にとって、軽んじるべきではない問題だろう。リーグがどのような結論を出すのか、注目される。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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