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補強止まらぬミラン、「優勝に値する」との声も ボヌッチ獲得は「Win-Win-Win」?

中村大晃カルチョ・ライター
5月のCL準決勝モナコ戦でのレオナルド・ボヌッチ(写真:Maurizio Borsari/アフロ)

4月13日にミランの買収が正式に決定したとき、このような夏になると想像した人は少ないだろう。新生ミランの補強攻勢が止まらない。王者ユヴェントスの主軸、レオナルド・ボヌッチの引き抜きにも迫っている。そしてついに、「スクデット(優勝)に値するチーム」との声も聞こえ始めた。

◆ミランの新戦力は何人に?

ミランはマテオ・ムサッキオ、フランク・ケシー、リカルド・ロドリゲス、アンドレ・シウバ、ファビオ・ボリーニ、ハカン・チャルハノール、アンドレア・コンティと、すでに7選手を獲得している。大騒動の末に守護神ジャンルイジ・ドンナルンマとの契約延長にもこぎ着けた。

さらに7月13日、ミランはラツィオとルーカス・ビリアの移籍で合意に達し、ボヌッチ獲得も秒読みと報じられている。『コッリエレ・デッロ・スポルト』や『メディアセット』によれば、ミランは「新時代の象徴」としてボヌッチにキャプテンマークを託す考えのようだ。

しかも、ミランはさらなるストライカーの獲得も噂されている。“夢”はボルシア・ドルトムントFWピエール=エメリク・オーバメヤンやトリノFWアンドレア・ベロッティといったビッグネーム。両選手を逃した場合の“保険”は、フィオレンティーナのニコラ・カリニッチだ。

『ガゼッタ・デッロ・スポルト』が14日付の紙面で紹介した新フォーメーション(3-5-2)のスタメン候補で、昨季のレギュラーだったのは、ドンナルンマとアレッシオ・ロマニョーリのみ。イレブンのうち9選手がニューフェイスになると伝えている。

これだけの大改革だけに、疑念の声が上がるのも避けられない。すでに加入したメンバーの中に、セリエAで一定期間にわたって大きな結果を残した選手がいないというのも、そういった懐疑的な見方をする理由のひとつかもしれない。

◆ボヌッチ移籍は「Win-Win-Win」?

だが、そんな声も吹き飛ばすほどのインパクトを与えるのがボヌッチ獲得だ。近年のユーヴェとミランを考えれば、信じられないという声が少なくないのも当然だろう。元ユーヴェのアレッサンドロ・デル・ピエーロも、「冗談と思っていた。とても、とても驚き」と述べている。

ユーヴェは前人未到のリーグ6連覇に加え、マッシミリアーノ・アッレグリ監督が就任してからは3年連続で国内2冠と圧倒的な強さを誇ってきた。一方で、買収前まで経営難にあえいでいたミランの近年の低迷は周知のとおりだ。

当然、ボヌッチがミランに移籍するのは「ステップダウン」という見方も少なくない。だが、『スカイ・スポーツ』のリッカルド・トレヴィザーニ記者は、「Win-Win-Win」の取引だと主張した。

同記者は、ボヌッチが新たな刺激を必要としており、「ユーヴェ復活」の象徴のひとりである彼が、ミラノで同じ役割を担うようになる可能性を指摘。選手にとってもミラン移籍は「Win」だとしている。

また、ユーヴェはダニエレ・ルガーニ、マッティア・カルダーラ(新シーズンはアタランタにレンタルで残留)と、すでに後継者候補を確保している。さらに、指揮官との緊張関係が噂されてきた30歳の選手を売ることで4000万ユーロ(約51億8000万円)を手にし、4年総額5200万ユーロ(約67億3000万円、税込)のサラリー負担も軽減。ユーヴェにとっても放出は「Win」というわけだ。

ちなみに、『スカイ』の「ボヌッチ抜きでもユーヴェはやれるか」とのアンケートで、約6割前後のユーザーは「イエス」と回答している。

そしてもちろん、ミランにとってもボヌッチ獲得は「Win」だ。トレヴィザーニ記者は、技術とカリスマ性を兼ね備えるリーダーであるボヌッチが、あと5年は一線級で戦えると太鼓判を押した。経験と技術のほかに情熱ももたらし、新シーズンのミランに対する期待を高めるとの見解を示している。

◆ボヌッチ加入でスクデット候補に?

実際、ボヌッチ加入ならミランの評価はさらに高まるだろう。『スカイ』のアンケートでは、「ボヌッチ獲得でミランはスクデットに値するか」との質問に、約6割のユーザーが「イエス」と回答している。

『ガゼッタ』のウンベルト・ザペッローニ記者も、14日付のコラムの中で「CL出場にふさわしい、おそらくはスクデットにまで値するチームが生まれつつある」と称賛。あとは大物ストライカーの獲得を決めれば、「ミランがスクデットも競えるということに疑いはないだろう」と評価した。

OBでもある元イタリア代表のアルド・セレーナも、ミランを高く評価しているようだ。14日付の『コッリエレ』で、優勝候補ユーヴェの対抗馬はナポリとしつつ、「ボヌッチとビッグなストライカーが加われば、ミランも…」と、スクデット争いに加わる可能性をほのめかしている。

もちろん、大量補強とボヌッチ獲得ですべてがバラ色になるとは限らない。同じミランOBでも、ジョヴァンニ・ガッリは「新戦力が多いからといって、すぐに勝つという意味ではない」とコメント。かつてミランを率いたイラーリオ・カスタニェールも、「多くの新戦力が監督のやり方を吸収しなければいけない」とし、すぐにユヴェントスを脅かすのは難しいとの見解を示した。

◆期待大=重圧への懸念も

そもそも、7月も半ばに差しかかったばかりで優勝候補を論じるのは無意味と言わざるを得ない。しかも、いくら大量補強をしているとはいえ、ミランは昨季、王者ユヴェントスに勝ち点28差で6位に終わったチームである。

ただ、近年見られなかった大量補強で、チームへの期待が高まっているのも確かだ。始動初日に5000名とも言われるサポーターが駆けつけ、エールを送ったのもその一例だろう。ミラニスタだけではない。ミラン復活を望む声は、世界的にも決して小さくないはずだ。

ただし、期待値の大きさはプレッシャーとイコールであることも忘れてはいけない。ミランにとって、CLへの切符につながるトップ4入りは至上命令。さらに優勝争いも求められれば、大きな重圧がのしかかることになる。

ヴィンチェンツォ・モンテッラ監督と新チームは、それに耐えられるのか。プレシーズンから、彼らに対する目が厳しくなることは確かだろう。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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