Yahoo!ニュース

まだ「引退決定」でないトッティは、ローマ愛を貫くための道を選ぶのか

中村大晃カルチョ・ライター
ローマの本拠地オリンピコで掲げられたトッティのバナー(写真:ロイター/アフロ)

フランチェスコ・トッティが今季で引退――3日から4日にかけ、世界をめぐったこのニュースは、細かく言えば正確ではない。彼がスパイクを脱ぐかどうかは、決定事項ではないからだ。

◆「引退決定」ではない

ローマのモンチ新SDは3日の会見で、選手としては今季がラストシーズンであり、来季からはディレクターに就任することでトッティとの合意があると語った。これを受け、各国メディアが「トッティ引退」と報道。ヘルタ・ベルリンなど一部クラブからもオマージュのメッセージが寄せられた。

だが、モンチSDのコメントは昨年の契約延長時にローマが発表した内容を繰り返したに過ぎない。2016年6月7日の声明で、ローマは今季が「選手としてのトッティのラストシーズン」になると発表している。本来であれば、この時点で「2017年夏の引退」が決まっていたはずだ。

ジェームズ・パロッタ会長を筆頭とする首脳陣は、昨年すでにトッティの引退を“計算”していた。だが、背番号10はシーズン終盤戦に驚異的な活躍を披露。チームをチャンピオンズリーグ(CL)出場権獲得に導いた。そのため、世論を考慮せざるを得なくなったクラブは、契約を延長したうえで、今季こそはラストシーズンになると強調したのである。

それから約1年が経ったが、結局、今季もトッティの進退をめぐる騒動は続いた。本人が引退を表明していないからだ。常に確執が囁かれるルチアーノ・スパレッティ監督のもと、出場機会に恵まれていないトッティだが、ハイレベルなプレーを見せる自信を失っていないとの報道は絶えない。

つまり、全盛期のような常時の試合出場が不可能なのは自覚しつつも、トッティは現役続行への未練を残しているということだ。実際、4月30日のラツィオ戦でも、彼は「これがラストダービーと言っているのは他人であり、オレじゃない」と発言している。

そのため、トッティが他クラブで現役を続ける可能性もゼロではない。ローマを拠点とする『コッリエレ・デッロ・スポルト』などのイタリアメディアも、それが「選択肢」のひとつだと伝えている。「トッティが引退」と断定的に報じるのは間違えているのだ。本人がそう宣言しない限り。

◆自らの口で発表できず

とはいえ、ローマ一筋だったトッティがほかのユニフォームを着る姿が想像し難いのも事実だ。そしてローマでの現役続行がない以上、クラブに残ることを優先するのであれば、引退するしかない。ファンは本人のコメントを聞き、その考えを知りたいと望んでいるだろう。だからこそ、トッティ自身による発表でなかったことは残念だ。

実際、実質的にモンチSDが「ローマの選手トッティ」の終わりを告げたことへの反発もある。『スカイ』のマッテオ・マラーニ記者がそのひとりだ。「ローマが望むように強いクラブになりたいのなら、就任会見でモンチにトッティの件を委ねてはいけない」と不快感を隠さない。

マラーニ記者は「ローマとイタリアサッカーの歴史における有数の選手で、唯一無二の背番号10」であるトッティだけに、モンチSDではなくパロッタ会長が責任を負うべきと主張。ユヴェントスを率いるアンドレア・アニェッリ会長のアレッサンドロ・デル・ピエーロに対する手法を見習うべきとした。

しかし、裏を返せば、ユーヴェで19年を過ごしたデル・ピエーロも、自らの口で「今季がラストシーズン」と発表することはできなかった。トッティが彼の後を追うことになり、一抹の寂しさを感じるサポーターは少なくないのではないか。

◆“新参者”モンチの効果

ただ、セビージャでの華々しい実績を手土産に、ローマへとやって来たばかりのモンチSDだからこそ、長年にわたるローマの悩みの種であったトッティ問題に終止符を打てたとの見方もできる。

デリケートなテーマだけに、モンチSDもトッティに最大限の敬意を払ったようだ。4日付の『ガゼッタ・デッロ・スポルト』は、トッティが事前に同SDから説明を受けており、その姿勢を称賛したと報じている。モンチSDが「トッティをやめさせたディレクター」と扱われる恐れはないとも断じた。

また『ガゼッタ』は、モンチSDが今後のトッティの役割を明確にしたことも大きいと伝えている。すでに引退後のディレクター契約を結んでいるトッティだが、役職は不明だった。モンチSDは会見で「できる限り私の近くにいてもらいたい」と発言しており、『ガゼッタ』はトッティが「テクニカルディレクター」になると報じている。

トッティとパロッタ会長の関係は決して良好ではない。それだけに、尾を引かない形で幕引きを図ることが重要だった。だからこそ、モンチSDの手腕を評価する声もあるのだ。

◆待たれる「その瞬間」

レジェンドの引退後の扱いは極めて難しい。パオロ・マルディーニは2009年の引退以降、ミランから遠ざかったままだ。今夏、レアル・マドリーに復帰するというラウール・ゴンサレスも、退団からすでに7年が経っている。

だが、トッティに用意されているのは、『ガゼッタ』の報道が事実であれば、テクニカル部門の要職だ。役割こと異なるが、ユーヴェやインテルで副会長を務めるパヴェル・ネドヴェドやハビエル・サネッティのように、今後も愛するクラブに貢献し続けられる。

モンチSDも現役時代からセビージャ一筋で、引退後にディレクターとしてクラブに黄金期をもたらした人物だ。トッティはそのモンチの右腕として、新たな人生を歩み始めるのだろうか。それとも…やはり、トッティが口を開くのが待たれる。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

中村大晃の最近の記事