吉本興業、反社対策とガバナンス

著者撮影
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 吉本興業の騒動に端を発する第三者による「経営アドバイザリー委員会」が設置され、8月8日に第一回が開催されました。

 https://news.yahoo.co.jp/byline/nakamura-ichiya/20190810-00137770/

 委員会の提言を迅速に実行していくよう、橋渡しをすることがぼくの役割となります。

 そのうえでぼく個人の見解を示しておきます。

●反社対策

 まず、敵は反社であるということです。反・反社ファーストです。反社が喜ぶ解決策は取るべきではない。結果として親・反社となる意見には反対です。反社との決別は、当社は厳しいコンプライアンスを敷いてきており、評価もいただいていますが、それでもこのような騒動を引き起こしたことは、なお課題があるということです。

 今後、反社チェックを一層徹底するとともに、タレントと反社との決別を明確にする共同確認書を交わし、無届け営業を禁止してもらいます。警察等との連携も強化します。

 ただし、吉本が進める反社対策は並のプロダクションでは不可能なレベルのものであり、お笑いだけでなく、音楽や映画などを含め、よしもとほどの体力がない事務所は大変です。個社の努力には限界もあり、会社を免責する条件の明確化など政府等の対応強化も求めたいところです。

●契約書の全面導入

 次に、吉本興業の特殊性を尊重しながら、芸人への対応を進めたい。107年かけて培われた芸人6000人の共同体という他に例のないLaugh & Peace集団が持つインフラとしての意義を評価し、その価値を社会に還元することに努めます。その上で組織の近代化を図ります。

 長年の歴史の中、芸人ファーストで続けてきた契約書のない「諾成契約」。むろん弁護士など専門家の意見も聞いて、続けてきた形式です。ただ今回、公取が新たな解釈を示したこともあり、全面的に見直す方向です。

 まず、全員と共同確認書という書面を交わします。これに加え、希望者とは専属マネジメント契約書や(日本初となる)専属エージェント契約書を交わしていく。ギャラの料率なども含め、どの契約形態とするかは個々のタレントとの話し合いで決めていく。100年の方法を変える、大きな方針転換です。

●他社への波及

 諾成契約だったことで、芸人ともめたことはないそうです。ギャラ上げろという芸人には、リーズナブルであれば上げている、という実態もあるからでしょう。一方、契約書を望まない芸人もいるだろうと思います。縛られることへの拒否感です。だって、ぼくがそうでした。

 ぼくは以前10年間ある芸能プロの所属タレントでした。契約書を交わしていましたが、実は交わしたくなかった。その芸能プロを信頼していたし、所属として縛られることで他ルートからの仕事を断ることもしたくなかったから。直営業をしなきゃいけない売れない芸人ほどそうだろうなぁ。そういう芸人をどう扱うかがポイントです。そしてこの件は吉本よりも、ヒップホップなど他の音楽プロダクションへの波及が大きそうです。ミュージシャンは基本、いやがる。

 吉本と提携するNPO・CANVASは500名のフェローがワークショップを提供する公益的な共同体で、そこから上がる収益を分け合う。フェローとは契約書などない。ボランティア仕事もある。吉本に似ています。そして政府や自治体などとも仕事をしています。CANVASはこれが適切だと考えてきました。ただ、今回の件がこういうNPOなどにも波及するかもしれません。ゆるくやってきた日本のマネジメントへの劇薬となり得ます。

●基本保障

 芸人に基本保障をという声もあります。先日、芸能界のドンの一人が「よしもとは他のプロダクションと違って、小屋をたくさんもつメディア。タダでもいいから出してほしいというタレントが集まる。他社と同列に扱うことはできない。」と言っていました。そのとおりです。

 基本保障をするとなると、他のプロダクション並みに芸人を絞ることになりましょう。6000人のうち5500人はクビでしょうね。ぼくには反・芸人ファーストの提案に見えます。

●経営のあり方

 社内にパワハラ的な言動が残るという点は、ファミリー意識であっても反省せざるを得ません。組織文化として、芸人との関わりかたやコミュニケーションの在り方を見直す必要がありましょう。芸人ファーストの取組には芸人さんたちからの提案を期待します。有益な提案の実現に取り組みます。一層の風通しの向上を図ります。

 経営としては、売上・利益、投資・事業開拓など特段の問題はなく、先般の株主総会で外部から副社長を2名迎える等の体制強化を実施したところです。この特殊な共同体を構築し、事業を発展させ、SDGs、地方創生、教育などの新規事業を開拓してきた経営陣の手腕は評価すべきと考えます。

 政府との距離の近さへの反発もあります。政府や自治体など公的セクターから認められ、正式で透明な手続きを経て仕事を受注し、公益に資する事業を展開する。いいことですよ。インフラ企業、重厚長大産業、金融、シンクタンク、広告・・。吉本よりうんと巨額の政府仕事を請け負う会社は多いけど、吉本が批判される理由は何なのでしょう。

 それよりも、107年かけて培われた芸人6000人の共同体というインフラとしての価値を社会に還元すべく、SDGs、地方創生、教育といった公益事業に力を入れてほしい。

 反社問題から広がった今回の騒動は、吉本興業が次の100年に向けて新たに発展するための成長痛だと考えます。ファン、芸人はじめ関係者がより笑顔になれるよう、会社経営に対し微力を尽くす所存です。