「スーパーヒューマン誕生!」

稲見昌彦著「スーパーヒューマン誕生!」。

KMDから東大教授に移った著者が、人間拡張工学、つまり機器や情報システムを用いて、人の運動機能や感覚を拡張することで超人を作る研究を説きます。

義手義足に代表されるこれまでの技術が、身体の欠損を「補綴」するものだったのに対し、身体をより「拡張」する。人機一体となる。その技術とデザインを描きます。

現実感をつくる技術としてのヴァーチャル・リアリティとテレイグジスタンス。分身となるロボットやヒューマノイド。ポスト身体性を展望します。

ぼくと稲見さんは「超人スポーツ協会」の共同代表を務める同僚で、仲間をホメるのは趣味ではありませんが、この本はぼく的には今年のベストになるでしょう。

研究の系譜をタテ糸に、内外のSFやポップカルチャーをヨコ糸に紡いで、MITはじめ内外の研究・発明を引き合いにしながら難解な先端工学をグイグイと解説していきます。

SFはWhat(つくりたいもの)を描き、研究はHow(どう実現するか)を求める、と稲見さんは言います。そこで日米のSFやポップカルチャーを丁寧に合わせ読んでいくことがこの本の魅力です。これはぼくが憧れる筆致。新しい書き手が登場しました。

2001年宇宙の旅、ザ・フライ、インビジブル、ジュラシック・パーク、マルコヴィッチの穴、マトリックス、リアル・スティール、トータル・リコール、サロゲート。やはりこれらは押さえておかなければなるまい。

ドラえもん、パーマン、攻殻機動隊、エヴァ、サイボーグ009、コブラ、ジャンボーグA、鉄人28号、寄生獣、ゴルゴ13、アンパンマン、デモクラティア。工学の研究者がこれらをつぶさに追うのは大変なことです。

本書では、刺激的な知見も数多く得られます。

例えば、思考は身体に規定される。頭の中で早口言葉を10倍の速度で言うことはできない、という指摘。

--確かにそのとおりです。

ピンク(マゼンタ)は物理世界には存在せず、赤と紫という両端の波長を同時に見ることで脳が感じる色である。人間の感覚は視覚より聴覚のほうが速いのだが、光速と音速の差を脳内で同時になるよう補正している。

-- そうだったんですね。

ジョンソン大統領が専用機の温度変化にうるさいので、大統領の手元にニセの温度調節つまみを作ってやったら文句を言わなくなった、自分が調節したら温度が変わらなくても納得したというエピソード。

-- シアトルの航空博物館に現物を見に行きたい。

ヒト型ロボットの開発に重点が置かれるのは、人がロボットにしてほしいことを追求するには人が活動する環境に機能を合わせるためだという指摘。

-- なるほど、ヒト型の開発には、需要面からの必然があるんですね。

ここで本書は、ウェアラブル機器に電流を流して人の身体を操る研究や、頭にカメラをつけて遠くにいる人がその映像を追体験する身体シェアの研究を紹介します。肉体を遠隔操作し、体験をシェアする。稲見さんは、身体は一体誰のものなのかと問います。面白い。

玄関の自動解錠、ピアノの自動演奏や空腹時の自動調理などIoTが空想する多くは、透明ロボットの自動操作のようなものだ、と言います。稲見さんは光学迷彩で透明人間を実現したことで有名ですが、身体・感覚の拡張とIoTとがここに帰結するんですか。面白い。

スマート革命の次に来る、IoT・AIでいま世間は騒がしい。だが、VRやヒューマノイドで身体と感覚とが分離し、人の存在が問われる近未来は、それ以上にゾクゾクするではありませんか。稲見さんの続編を待ちます。いや、けしかけます。