未来のイノベーターはどう育つのか

トニー・ワグナー著「未来のイノベーターはどう育つのか」。

ハーバード大学テクノロジー起業センター初代フェローが親の教育方針と大学の果たす役割を説く。好著です。

本書はSTEM(科学、技術、工学、数学)系教育の重要性を説きます。批判的な思考力、クリエイティビティ、コミュニケーション、コラボレーションの力を育む方策を提示します。

リーマンショック後の米経済を支えるのはイノベーションであり、アメリカはイノベーターを渇望している、イノベーターは偶然の誕生を待つのではなく、生むものだ、という見地が背景にあります。その激しい政策マインドに、揺さぶられます。

これに対し、本書はこうしたイノベーター教育に関してアメリカの大学の質が低いことを痛烈に批判しています。日本の大学人として、コメントがはばかられるほど、考えこみます。

こうした授業は、19世紀末ハーバード発のカリキュラム単位システムに基づく点数型・知識型の授業とは対立して、創造・機会を重視するスタイルを教員が孤立して独創するしかない、としています。これはハーバード大のひとが語るから説得力があるんでしょうね。

筆者は、大学改革が必須、無料オンライン教育コース「MOOC」が衝撃を与えたとおり、知識・情報の価値がゼロに近づいている、といいます。ぼくもMOOCに出講して思うに、従来型の授業はもう大学の価値ではない。創造・機会の場としてのモデルを作ることを早めるのか、従来モデルを守ろうとするのか、それが問われています。

MITメディアラボの例が登場します。メディアラボは成績がつかず、授業の取り方も自由、必修もなく、ただ創造すればよい。授業は今日性と実用性に富み、ビジネスや社会的行動に直結する、としています。ぼくもそのビジョンがスキで、メディアラボに身を置いていました。日本でも、そういう環境を作りたい。

MITメディアラボは、授業料免除で、さらに給料がもらえ、必修も成績表もない。という指摘。

だから世界から人材が集まる。そのモデルを日本の大学院でも作りたい。アメリカの大学との競争なんて、それからの話だと思います。

Dケリーさんがスタンフォード大のdスクールを作った時、ビジネス経験のある教員がアカデミズム教員より地位が低いことから苦労したが、SAPのプラットナーさんの寄付で実現したという話。大きなカベを動かすには、得意技(ここでは資金集め)で勝負すべきは、どこも同じですね。

クリエイター教育には、型破りなメンターの存在が大きい。教えるより、機会を与えて、やらせて、あとおしすべし、としています。ぼくはMITでも、スタンフォードでも、教育ではなく研究(というかプロジェクト作り)一本で過ごし、今ようやく教育にも携わっているのですが、産学プロジェクトという機会を与えて、実践の中で学ぶスタイルです。

本書とは考えが一致するものの、実行できてはいません。「イノベーターを生む」という政策マインドが不足しているからだと思います。育てるより、育つように整える。では足りない何か。でもそれはぼくの場合、プロジェクトを通じてひねり出すしかない、と感じています。