MIT発世界を変える100ドルPCプロジェクト

ウォルター・ベンダー他「ラーニング・レボリューション」。副題「MIT発世界を変える100ドルPCプロジェクト」。

大プロジェクト遂行の汗と涙が詰まった好著。パソコン本でも教育本でもなく、社会起業本であります。

ネグロポンテ師匠を継いで2代目のMITメディアラボ所長となり、苦労していたウォルターをよく知るだけに、すっかり肩入れして読んだのですが、ぼくの所属するKMDが求めるTテクノロジー、Dデザイン、Mマネジメント、Pポリシー、の4つの力がまぶされているのも、惹かれた要因です。

100ドルPCの設計はTテクノロジーとDデザイン。コンソーシアムを作って企業に製造させるのはMマネジメント。各国に働きかけて購入・普及・利用させるのはPポリシーの役割。

本書は、高速、無線、耐久、省電力のマシンを作るというT+D以上に、契約、販売、資金管理というM+Pを記述しているところが新鮮です。

教育向けPCを作る、というアイディアがステップ1とすれば、それを設計・製造し、販売・普及させる道程と苦労が9ステップ。本書はその9を説きます。ぼくが授業でかねがね話している、「WhatよりHow」の実践例。PCや教育ではない、あらゆるプロジェクトについて共通する教えを包み込んでいます。

イノベータと起業家は違う、と本書は説きます。そのとおりです。イノベーションは発見レベルでもよいが、起業はリスクを伴う実践です。ぼくらはコンサルではいけない。実践しなければならない。そんな話をウォルターとしたことはなかったけど、そう考えていたのか。

西和彦さんやぼくがメディアラボに対し、元になった構想を提案したのは2001年7月。MIT・ネグロポンテ師匠はそれを直ちにプロジェクト化しました。ノートPCが1000ドルだったころの構想にはインパクトがありました。コレがその最初の構想図です。

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ぼくらの提案は1のアイディア。Whatにすぎません。これを即座にプロジェクト化し、企業コンソーシアム「OLPC」を2005年に形成し、多くの国を巻き込んだ9の実践=Howが事の本質です。

メディアラボは世界的にも有名です。が、アウトプットは?と問われると案外乏しい。批判を受けつつも、40か国に250万台を普及させたことは大変な成果と思います。100ドルPCが最大の成果ではないでしょうか。

1人1台PCは当然。議論の余地なし。だから本書は教育情報化の意義には触れていません。信念に基づき一途に行動しているのです。デジタルが有益かどうかでグズグズする日本の教育情報化関係者にも読んでもらいたい。

ただ、その教育論の根本には、問題解決、批判思考、革新行動の能力を育むというMITシーモア・パパート教授による「教授主義から構築主義へ」が横たわります。弟子のミッチェル・レズニック教授に連なるチームによるLOGOとScratchは、100ドルPC構想のソフト面のインフラです。

もちろんハード面の基本構想には、アランケイのダイナブックがあります。パソコンの父は、子供向けタブレットをPCの元に据えていました。

本書は、アメリカで1971年には13%の高校がPCを導入していたが、40年たっても教育法は不変としています。うん、19世紀の外科医がいま手術室に来たら立ち往生するが、当時の教師が現れても躊躇せず授業を始めるだろう、とかつてパパート教授が言っていたな。

ぼくらが子どものデジタル創造力を高める活動=CANVASを立ち上げたのは、100ドルPC構想から1年後の2002年。以来14年、民での活動を続けています。

デジタル教科書教材協議会を立ち上げたのは2010年。日本も学校の情報化を放っておけず。100ドルPCがウルグアイの全ての子どもに行き渡ったという2009年のニュースに触発されたことが大きかった。負けずに、がんばります。