TPP著作権合意をどう処理するか

TPP合意は評価しているんですが、著作権分野は懸念大です。

TPP著作権分野の合意内容は、アメリカが望む保護期間延長、非親告罪化、法廷損害賠償の3点セット。いずれも提供側の保護強化を意味します。

これは、利用側の効用を下げることにつながります。

これまで日本は、提供・利用のバランスをとって著作権制度を積み上げてきました。アメリカなどに比べると、利用者・消費者の利益に配意する仕組みでした。これが崩れます。

この決着は権利者にとってよい方向とみるむきもありますが、提供と利用のエコシステムが崩れると、長期的な文化の弱体化につながりかねません。提供側にとっても果たして朗報なのかどうか。冷静な分析が必要です。

そして、崩れるバランスを、国内制度で改めてどう調節できるか。重大な事態です。

ぼくはこれまで、保護期間延長より、非親告罪化のほうがクリティカルだと表明してきました。

保護期間延長は、コンテンツ業界を利すると言っても、いま売れているマンガ・アニメ・ゲームの作者が亡くなってから50年先の話で、当面の利益に乏しい反面、過去から売れているアメリカの業界を利する。いずれにしろ利用者にとって利益は見当たらない。ただ、経済的にみてさほどインパクトはあるまい。

でも、この数年、ヨーロッパやアメリカの国家的なアーカイブ戦略が激しさを増していて、そこでは保護期間の長さがマイナスに働くという認識が明らかになっている戦線に、日本の条件を不利にするという点で、ヤバい話だと思い直すようになりました。

他方、非親告罪化は、プロとアマが文化を共有して表現する暗黙裡の土壌が日本のポップカルチャーを支えてきた実態からみて、そのエコシステムを壊すことは、根本的な問題だと考えてきました。この考えは今も変わりません。

TPP合意において、非親告罪化には一定の配慮も盛り込まれましたが、さて、国内制度としてどうセーフガードを設けるか。

さきごろ官邸で開かれた政府・知財本部の席上、安倍総理だけでなく、島尻知財大臣、馳文科大臣も揃って著作権に関し「「二次創作への萎縮効果を生じないよう」対応すると表明しました。

私も出席していましたが、この発言は予期しておらず驚きました。TPP知財交渉に政府が真剣に取り組み、重い決断をしたことを表していました。

本件は既に文化庁・著作権審議会で検討が始まっており、私が座長を務める知財本部の委員会でもその後の方向性を議論します。

セーフガードにとどまらない、ダイナミックな制度論議や政策が求められます。今回の決着を奇貨として、より大きな知財の制度論を展開したいものです。

この論議で求めたいことが2点あります。

まず、「データに基づく分析」です。

著作権の制度論が文化庁で論議される場合、データに基づく科学的な分析が乏しく、権利者と利用者の綱引きをにらみつつ法学者が断ずるケースが多く、問題を感じています。

制度を動かすことによって、著作物の生産量や流通量はどう動くのか、経済的なインパクトはどの程度か。他の行政分野と同様、そうしたシミュレーションやアセスメントを踏まえて、政策プランを論じていただきたい。

もう1点。「プレイヤー」です。

今回は、これまで築いてきたシステムを壊す課題への対応です。これまでの制度構築にあたってきた法学者や事業者の世界にとどまらない論議を要します。コミケ関係者、ネット関係者や経済学者など 広い分野の英知を活かしてもらいたいと思います。