クリストファー・スタイナー「アルゴリズムが世界を支配する」

クリストファー・スタイナー著/永峰涼訳「アルゴリズムが世界を支配する」。

ITはおろか、金融も音楽も医療もアルゴリズムが支配する時代の到来をエンジニアでありジャーナリストである筆者が丹念に描写します。

コンセプトをアルゴリズムに転用する「ハッカー」が新しい帝国を建設する。ビジネススクールの人びとではない。そのパワーシフトを描きます。芸術やデザインなどクリエイティブクラスが携わる領域も安泰ではなく、アルゴリズムが浸透しつつあるとします。

まず、音楽。ディヴィッド・コープが開発したアルゴリズム「アニー」の作り出した楽曲がクラシック音楽の教授の作品を凌駕し、バッハの曲なみに評価された事例が生々しい。ウォールストリートのトレーダーたちがアルゴリズムを敵視し、クラシック音楽界がアルゴリズム作品を拒絶する模様もうなずけます。

ダニエル・スパイヴィはシカゴの先物とNYの現物との情報の速度を千分の4秒縮めるため、160km短いルートに光ファイバーを通し、他社の十倍に当たる年300万ドルの通信料金を提示。超高速アルゴリズムの世界も物理的なハードウェアに規定されるという話。

SUNの共同設立者ビノッド・コースラは、医療ニーズの90~99%はアルゴリズムを使った正確・安価な医療に置き換えられ、ごく普通の医師は必要なくなるといいます。

2008年には、全米株式市場の取引量の60%は自動化されたアルゴリズムによるものに達していた。金融業界はあらゆる優秀な理数系人材を大学院からかき集めていた。MITの大学院卒業生の1/4がウォールストリートに就職したといいます。

リーマンショックにより事態は一変、優秀な理系人材が金融を目指す時代は終わり、シリコンバレーに向かったそうです。高給な仲介業者よりも、リスキーでも建設的・創造的な仕事を目指すようになったということでしょう。

90s後半に西海岸に向かった人材が2000年のネットバブル崩壊で東海岸に向かい、リーマンショックに西海岸に戻り、現在のスマート化・脱スマート化を支える。改めてアメリカの振り子のようなダイナミズムを想います。

筆者はGoogleカーに関し、年3万3千人に上る米交通事故死のほとんどが人的エラーによるものとし、アルゴリズムが運転するようになれば事故死をほぼなくすことができるかもしれないと説きます。

MITのブリニョルフソン教授の書いた「機械との競争」は、多くの仕事が機械に取って代わられると警告するが、筆者は弁護士や物書きも例外ではないとします。

これに対し筆者は、敵対するのではなく、「慣れ親しむ」ことを説きます。そして、理数系の教育が逆に不足しているとし、全高校生が一度はプログラミングできるカリキュラムを組め、としています。賛成です。