国際討論:ネットは何をもたらすのか

先日、京都でStanford Trans Asian Dialogueが開催されました。青木昌彦先生はじめスタンフォード大学のみなさんと、中国、インド、シンガポール、マレーシアらからの参加を得て、デジタルメディア、 特にインターネットが国際社会に与える影響について議論しました。ぼくもスタンフォード日本センターからのご縁でテーブルに着きました。

円卓会議や公開シンポで、ぼくも質問を浴びました。お題は「ネットのもたらしたもの」。ビジネス論に傾く東京と異なり、実に京都らしい会議でしたが、英語だったのでヘロヘロ。やりとりをメモします。

○IT政策の変化は?

30年前に担当した通信自由化以降、IT政策は市場競争や電波配分など「提供」政策が中心だった。通信・放送会社やメーカなど提供側が主要な行政客体だっ た。国内政策が中心だった。だが、デジタル通信・放送網の整備が完成し、「利用」政策にシフトしている。セキュリティ、プライバシー、電子商取引、著作権、教育・医療・行政。しかもそれらはボーダレスな国際問題。根本的に変化している。

○個人番号制度への不安は?

日本はようやくマイナンバー制度を2016年に開始する。アメリカは社会保障番号を民間活用しており、さらに北欧は個人年収までオープンだが、ド イツは行政の利用さえ厳しく管理するなど、さまざまなモデルがある。日本はドイツに近いモデルから始めると考えるが、長期的にどの線に落ちつくかは不明。 世界標準はないのだが、どこに線を引くかは利用者主導で考えたい。

○ネットは誰の味方か?

為政者の 味方であり、テロリストの味方でもある。ナイフのようなもので、メスにもなればドスにもなる。グーテンベルクの活版印刷が産業革命・市民革命をもたらすまでに3世紀かかったが、グーテンベルクは自分の発明がもたらす未来を空想はしていなかっただろう。われわれは空想すべきだ。ただ、ITの空想は3世紀は必要あるまい。ただ、落ちつくまでに1世代、30年はかかるだろう。ネット出現から20年なので、どこに落ちつくかを見通すまで、あと10年いただきたい。

○日中韓への影響は?

尖閣、竹島問題はネットで加熱し、互いに愛国心の増殖炉になった面はある。一方、中国でも韓国でも、日本のアニメ、マンガ、ゲームなどのファンが増加し、それもネットで育っている。尖閣問題に揺れるころ北京大学を訪れ、博士課程の学生たちに、知っている日本人は誰かと聞いたところ、三位宮崎駿、二位ドラえ もん、一位蒼井そら、であった。二位が日本人かどうか釈然としないが、ここに政治家や経済人や学者の名前が登場しないことが問題。ネットの問題ではない。

○メディアがあふれる汚染問題は?

デジタルサイネージが空間を覆っていく。サイネージの公共空間への設置制限には、日本は中国や韓国より厳しい面があるが、タクシーやデパートなど私設空間 は自由。将来、メディアがあふれることへの規制論はあり得るが、あふれると広告効果も下がる。規制よりも経済が解決するだろう。それよりも、消費者の情報 リテラシーが問題となろう。

○新たな国際問題は?

著作権にしろ青少年保護にしろプライバシーにしろ、問題は国家間の対立ではなく、国家vsグローバル企業の対立。日本など国家がグーグルやアップルを規制 できず、それを国家間で調整できなければ、新たな調整スキーム作りに汗をかくか、回線をブチ切るか、ということになるのでは。

○新聞とネットの関係は?

学生が新聞を読まずテレビも持たないというビックリ話はもう飽きた。ぼく自身、メディア接触態度が変わった。10年前は朝起きたら、1.新聞を開き、2.テレビをつけ、3.PCでニュースをチェックした。今は、1.フェイスブックで友 だちを確認し、2.ツイッターで追いかけ、3.ウェブサイト、4.テレビのニュースを見て、5.新聞を読む。全く逆になっている。

以前は、信頼性の順に見ていたということだろう。今は身近な順、速報性のある順、そして信頼性の逆順で、最後にゆっくり確認する感じ。そう考えれば、どのメディアもぼくには存在価値があるけど、それは紙とかメディアとかの媒体の問題じゃないということだ。