IT、利用政策への転換を

世界経済フォーラム(WEF)によれば、消費者洗練度(新たな商品開発のニーズ等を引き出し得るユーザーの能力)で日本は1位。これが日本の強みです。シスコの調べによれば、日本のモバイルユーザが発信する1人当たり情報量は世界平均の5倍でダントツ世界一。若い世代を中心に、情報を生産し、発信する国なのです。日本は、ユーザのリテラシーに着目して政策を考えるべきです。

課題は3つあります。1) ITの公共利用が低いこと、2) 企業経営の認識が低いこと、3) 社会の認識も高くないこと。

IT利用に関し、シンガポールと日本とを比較すると、電子商取引や交通・物流の分野ではひけを取らないものの、教育、行政サービス、企業経営の分野では大きな差がみられます。昨年度の情報通信白書でも、公的機関とのネットやり取りの点で日本は調査18か国中最下位でした。

しかも、マッキンゼーによれば、この10年間に蓄積された情報量は、日本は北米の1/9に過ぎません。一人当たりの発信量が多くても、社会として貯めていない。だからビッグデータも活かせない。若いユーザは進んでいるのに、社会全体の認識に問題がある、ということです。

政策の切り替えが必要です。これまでは提供政策が中心でした。ぼくが役所に入った30年前は、通信自由化まっただ中、ニューメディアブームでした。毎日、通信業に関するニュースが紙面を飾っていました。以来、IT政策は通信ネットワーク整備、地デジ整備、競争環境整備が中心課題でした。そして、それはほぼ達成されました。

このところ新聞を読んでも、そういうニュースは目立ちません。ある一週間のIT関連の記事を取り出してみると、教育情報化、コンテンツ転送の著作権問題、ネット選挙、医薬品ネット販売、ネット通販、といったネタばかり。

ITの提供問題ではなく、すべてITの利用問題です。いかに「整備」するかから、「使える」ようにするか。重点はこちらにシフトしました。役所や病院や学校で新しいメディアが使えるようにする。全ての子どもがデジタル環境で学べるようにする。ネットやケータイで安心して商品やサービスを買えるようにする。つまり、提供政策から利用政策への転換。

それは、IT「を」どうするか、ではなく、IT「で」社会や経済をどうするか、の視座。産業政策でみれば、IT産業85兆円をどうするか、よりも、それを使って、GDP 470兆円をどう拡大するか、という問題となります。

これに対し安倍政権は、世界最高水準のIT「利活用」社会を旗印に、規制・制度改革、オープンデータ、人材育成・教育:1人1台の情報端末配備、といった政策を掲げるようになりました。

ぼくが担当している内閣官房・知財本部の政策メニューも、1) クラウドサービスなど新産業形成に向けた制度整備、2) ビッグデータビジネスの振興、3) 文化資産のアーカイブ化、4) 教育情報化の推進、という具合に、ネットを利用した知財戦略が中心となっています。全体の方向は合っています。

問題は、それらはまだ実現していないということです。政策は実行されて初めて政策になるのであって、発動されなければアイディアにすぎません。ぼくが携わるデジタル教科書もオープンデータもまだまだ道半ば。

利用政策で言えば、ネット選挙の拡充、医療情報化、炎上問題への対応、ソーシャルゲームの健全化・・・ メニューはいくらでもあります。いま一度、IT政策のプライオリティーを上げること、特にIT利用政策の重要性を認識することが大事です。