第二、第三の初音ミクを

初音ミク様。呼び捨てにするのがはばかられる偉人です。もう5年も前に誕生した音声合成DTMソフトが3万6000曲の作品を生み出し、10万を超える作品の動画がアップされ、再生回数が数百万回にのぼるという、世界最大の持ち歌を誇る歌手に育ちました。

今年1月、ロンドン五輪のオープニングを歌って欲しいアーティスト投票で、並みいるアーティストを抑えて1位を獲得、それも海外のサイトからの投票が多かったといいます。アメリカで初音ミクのライブを開くと、ほとんどの客が日本語でミクの曲を合唱するといいます。

初音ミクのパワー源は「技術、ポップ、みんな」の3点だと思います。

まず、ボーカロイドという「技術」。誰もが専属歌手を持つことができるようにした技術。作詞・作曲から演奏への壁を取り除き、一流のプロも使う歌唱クオリティを開放したわけです。

そして、カワイイ「ポップ」なキャラクターという身体性を与えた映像表現。16歳、158cm、42kg、これぞ萌え、という要素を盛り込んだコンテンツです。ものづくり力=技術と、表現力=コンテンツという日本の2大強みをドッキングしたところに実像を結んだのです。

さらに、「みんな」が作る産業文化の形成。ニコ動やYouTubeといったソーシャルメディアで二次創作、n次創作と曲や映像の連鎖が広がりました。作詞・作曲する人もいれば、映像を作る、歌う、演奏する、コスプレ、踊る、さまざまな様式での参加が許され、奨励される。ユーザによる創作、共有、拡散の文化です。

ソフトウェアのオープンソースは、技術の増殖でした。初音ミクはコンテンツのオープンソース。文化の増殖です。誰もがマンガを落書きし、誰もがタテ笛を吹くことができる「みんなの表現力」がクールジャパンの源。初音ミクの産業文化が日本から生まれたのは必然です。

すんなり海を渡りました。J-Popとアニメの組み合わせが国境を越え、伝搬力、発信力を発揮しました。初音ミクの発声技術は日本語を前提にしているのですが、それがかえって日本語の魅力を発信するのに役立っています。

いまやミクは国際アイドル。これから世界的にスマホやソーシャルサービスの利用が本格化していきます。世界市場でのコンテンツビジネスも期待できます。「リアル」の市場も期待できます。既にオモチャやお菓子などのグッズが販売されています。ライブやコスプレイベントを展開するなど、ユーザの「もりあがり」をビジネスにしていく路線も広がります。

ユーザみんなが自分で作品を作る、という新しいビジネス。みんなで1人のキャラクターを使って作品や商品を生むというのは、これから発展が見込めるビジネスモデルでしょう。

課題もあります。次々とユーザが作り、ビジネスが生まれていく、その権利や処理ルールをどうするのか。さまざまな企業が関連してくることにより、係争も発生するかもしれません。

さらに大きな課題は、第二、第三の初音ミクをどう生んでいくのか、長期的な環境の整備です。たまたま生まれ、みんなで育てた初音ミク。大人から見たら眉をひそめるような文化かもしれませんが、それが日本を背負って海外で日本の評価を高めてくれている。こうした創造性あふれるよい子を、もっともっと生み続けたい。そのメカニズムを今のうちに築いておきたいものです。