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ミュージカル界を牽引する三人が、自分たちの感性で創り上げた舞台『あいまい劇場 其の壱「あくと」』

中本千晶演劇ジャーナリスト
左より)城田優、尾上松也、山崎育三郎  ※記事内写真 撮影:宮川舞子

 山崎育三郎、尾上松也、城田優によるユニット「IMY」は、ミュージカルでの共演を機に「自分たちの感性で、オリジナル作品を製作したい」との思いが三人の中で生まれ、2019年に始動したプロジェクトだそうである。

 その思いが結実し、『あいまい劇場 其の壱「あくと」』が11月20日、EXシアター六本木にて開幕した。

 それは、とにかく楽しい舞台だった!

 スタッフ共々一丸となって「面白いものを作ろう」という熱が伝わってくる。楽しんでいる三人に触発されて、観客席のこちらまで明るく解放された気分になった。大舞台でのメインキャストとして二枚目役を務めることが多い三人だが、いつもとは一味も二味も違う様々な顔が見られるのも新鮮だ。

 全4話のオムニバスで構成される2時間。1・3・4話の脚本を、衝撃のミュージカル『衛生』が最近では印象に残る福原充則が手がける。2話は城田優が脚本に初チャレンジした。そして演出は、これまた初挑戦の成河である。

 女性キャストとしてキムラ緑子、皆本麻帆、清水美依紗が加わる。また、音楽監督を桑原まこが務め、生演奏が全編を彩る。

 それぞれに色の違う4話はどれも密度濃く、違う面白さがあった。

 第1話「朝ドラオーディション」は即興劇だ。お題はTwitterで募集したものから選ばれ、役者力が試される趣向。キムラ緑子の存在感が「スパイス」的にピリリと効き、三人の息のあったコンビネーションに即座に引き込まれてしまった。

 客席が大いに沸いたところから一転、第2話「Lateral thinking」では、密室でのスリリングでちょっとホラーな謎解きゲームが展開される。こちらが城田優の脚本だ。

左より)山崎育三郎、尾上松也、城田優
左より)山崎育三郎、尾上松也、城田優

 3話「1996年の鳥山明」は、かつて漫画家になるという夢を抱いていた男たちの、ちょっとしょっぱい物語。カタギの仕事についた二人(城田・山崎)と、アルバイトをしながら未だに夢を追い続けている一人(尾上)が、居酒屋で遭遇する。身につまされながらも、じんとさせられる話だ。

左より)城田優、清水美依紗、山崎育三郎、尾上松也、皆本麻帆
左より)城田優、清水美依紗、山崎育三郎、尾上松也、皆本麻帆

 そして4話「EXシアターのジャン・ヴァルジャン」は、今や日本のミュージカル界を牽引する三人の真骨頂ともいえそうだ。『衛生』でも感じられた福原充則の鋭い観察眼も冴えわたる。ネタバレは避けるが、私には「彼ら自身」の物語のようにも見えた。

 福原の脚本は世の中へのクールな目線と皮肉に満ちているようでいて、最後は生きること、夢を追うことの素晴らしさ、そして、「どこまで行ってもやっぱり舞台が好き」という三人の原点に戻ってくる展開がこの作品らしい。

 その福原脚本の味わい深さが、テンポ良く遊び心あふれる芝居からビシバシと伝わってくる。これが、成河演出の成せる業だろうか。「あいまい劇場」というネーミングが謎だったが、これも最後にはしっくり来る仕掛けになっている。

 三人が出演する舞台はこれまでも色々なものを観てきたが、こんな風に肩の力を抜いて楽しめたことは、これまでになかった。三人それぞれのこれからの舞台も、これまでとは違った視点から新たな気分で楽しめそうな気がする。

囲み取材時の様子。左より)清水・皆本・山崎・尾上・城田・キムラ・成河
囲み取材時の様子。左より)清水・皆本・山崎・尾上・城田・キムラ・成河

演劇ジャーナリスト

日本の舞台芸術を広い視野でとらえていきたい。ここでは元気と勇気をくれる舞台から、刺激的なスパイスのような作品まで、さまざまな舞台の魅力をお伝えしていきます。専門である宝塚歌劇については重点的に取り上げます。 ※公演評は観劇後の方にも楽しんで読んでもらえるよう書いているので、ネタバレを含む場合があります。

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