「イマーシブシアター×オンライン演劇」が生み出す新体験、「泊まれる演劇 In Your Room」

『ANOTHER DOOR』では参加者は好きな「部屋」に入室してみることができる

 イマーシブシアター(没入型演劇)という様式が巷で話題になっている。客席に座って舞台を鑑賞するのではない、観客が建物の中を自由に動き回り、まるで作品世界の一員となったかのような感覚を味わえるというものだ。

 私も、ニューヨークのブロードウェイで『Sleep No More』という作品が話題になっているという噂などを聞いていて、日本でイマーシブシアターが実現したときには一度体験してみたいなと思っていた。

 

 「泊まれる演劇」もまた、イマーシブシアターの試みである。観客は実際に「HOTEL SHE, KYOTO」に宿泊して演劇体験をするはずだった。

 ところが、この度のコロナ禍でホテルでの開催が難しくなってしまった。そこで実現したのが、自宅にいながらまるでホテルにチェックインして宿泊客の一員になったかのような感覚が味わえる「泊まれる演劇 In Your Room」だ。

 5月に上演された『ROOM 101』はチケットが1時間で完売するほどの人気で、7月17日からも再演された。続く『ROOM 102』と『ANOTHER DOOR』(現在上演中・8月23日まで)に、参加させてもらうことができた。私のイマーシブシアター初体験はオンラインになった、というわけだ。

参加者が力を合わせて謎を解く『ROOM 102』

 『ROOM 102』の幕開けは、1通の「秘密の案内状」が我が家に届くところからだ。封筒には「指示があるまで、どうかこの封は開けないでください」との記載がある。

 本編はZoomのミーティング機能を活用して行われる。入室してみると俳優たちも含めてわずか40名。この少人数での場が、劇場では味わえない特別感を感じさせてくれる。

 あるホテルで、ある映画のロケハンが行われる。我々はエキストラの一人という設定で、事前に決められたニックネームに名前を変更してからの参加となる。長髪の監督や気取った主演男優、やけにかわい子ぶっている女優、そして、やたら愛想のいいホテルのスタッフなど「いかにも」なキャラクターが次々と登場する。

『ROOM 102』の一場面
『ROOM 102』の一場面

 物語の前半では、Zoomの機能を駆使した参加型の試みが色々と織り込まれていて楽しい。投票機能を使って参加者のさまざまな嗜好や経験を確認してみたり、「トランシーバー機能」を活用して参加者みんなで声を出してみたり。それにしてもZoomに「トランシーバー機能」などというものがあることは初めて知った。

 

 やがて、ホテル内である事件が起こる。その謎を解く鍵が「秘密の招待状」にあるらしい。ということで、参加者が皆、目を皿のようにして招待状を必死で眺める作業が始まる。謎解きのためにスマホで電話をかけてみたり別の部屋に走って行ったり、アクティブに動き回らねばならない。

 気付いたことはチャット欄に書き込んで、みんなで推理を推し進めていく。参加者の善意の協力があって初めて成り立つ演劇だ。それが「成り立つ」こと自体にも感動がある。謎が解けて事件が解決できたときには観客の間にも一体感が生まれる。これも「参加型」演劇の魔法なのだろう。

参加者と共に物語を紡ぐ『ANOTHER DOOR』

 いっぽう『ANOTHER DOOR』は同じ「泊まれる演劇 In Your Room」ながら、まったく違う趣向の作品だった。「恋愛リアリティショー」という触れ込みで、登場人物はあるホテルの出会い系イベントにやってきた6名の男女だ。それぞれ意中の人があるが、その矢印は複雑に交錯している。

 参加者は自由に移動して6名のうち気になる人の部屋を覗きに行って良い。といっても、この作品もZoomを使っての上演だから、実際にはミーティングルームを出たり入ったりということになる。6名は、チャット欄を使って自分の部屋に来てくれた参加者とコミュニケーションして、自分をアピールする。

出会いを求める6人
出会いを求める6人

 やがて、男女カップルでの会話も始まる。これまた参加者は好きなカップルの会話を覗きに行って良い。全ての参加者の部屋をまんべんなく巡回するも良し、「これぞ」という人を決めて、その人を中心に追いかけるのも良し、である。

 つまり、参加者が目にすることになる物語はそれぞれまったく違う。誰を主人公に据えるかも参加者に任されているとも言える。ところがこの作品、「あらかじめ決められた運命はひとつ」(公演サイトより)、つまり基本的な筋立ては存在するのだ(その点が昨今話題のTV番組とは異なる)。

 脚本・演出を劇団『悪い芝居』の山崎 彬が担当している。振り返ってみれば、6人の男女の切なくも心温まる恋愛物語としてちゃんと成立している。それなのに、参加している最中はやきもきしながら友だちの恋愛を見守り、その行く末に手に汗握っていたのだから不思議だ。

 こちらは「イマーシブシアター」と「オンライン演劇」という2つの掛け合わせに加え、リアル劇団の経験値も加わった、新たな世界という気がした。

『ANOTHER DOOR』出演者からのメッセージ ※記事内画像は筆者撮影
『ANOTHER DOOR』出演者からのメッセージ ※記事内画像は筆者撮影

 

新たな観客層を開拓する「オンライン演劇」

 「泊まれる演劇 In Your Room」はイマーシブシアターならではの没入感を、Zoomの機能もうまく使いつつ、自宅にいながらにして最大限に体感できるよう工夫された作品だなという感じを受けた。

 もちろんリアルな「泊まれる演劇」ではもっと作品世界に没入できるのだろうし、いつか体験してみたいと思う。だが、制約の中で工夫を凝らしたオンラインバージョンならではの面白さもあるような気がした。

 

 HOTEL SHE,では8月1日から31日まで、リアル宿泊版『STRANGE NIGHT』を上演している。これと並行して、オンライン版『ANOTHER DOOR』を7月24日から8月23日の各週末に上演する。こちらは2500円と、気軽に参加できる料金設定だ。

 

 気軽なのは料金だけではない、自宅にいながら参加できるのも気軽さの一つだ。このところのオンラインでの演劇や各種イベントの普及の中でしばしば耳にするのは、全国各地に住んでいる人たちの「リアルな舞台はたいてい東京や大阪でしか上演されないから、なかなか観に行けないけれど、オンラインなら全国どこからでも参加できるから嬉しい」、あるいは、家庭の事情などで自由な外出がままならない人たちの「オンラインなら自宅にいながら参加できるからありがたいし気晴らしになる」といった声だ。

 

 こうしたオンラインの催しは、夜の20時や21時からといった具合に、比較的遅めの時間から始まり、1時間前後で終了という場合も多い。夕食後、ほっと一息つけるときに開催されるありがたさもある。

 

 劇場での上演ができない今、Zoomなどを活用したオンライン演劇への挑戦が増えた。果たしてこれはリアル演劇の単なる「代替手段」なのだろうか? 

 どうやらそうではないらしい。これはこれで別の価値があり、新たな観客層を開拓している。どうやらこれは「代替手段」では収まらないようだ。「泊まれる演劇 In Your Room」の試みはそんなことを考えさせられる。