松本人志さんのワイドナショー、宮崎駿監督の発言捏造について危険な前兆はすでにあった。

松本人志さん「今度同じような事があれば番組を降りる」とコメント。(写真:MANTAN/アフロ)

先日、フジテレビのバラエティ番組・ワイドナショーが放送内容に誤りがあったと謝罪した。5月28日に放送された映画監督・宮崎駿氏の発言として紹介した引退宣言のコメントに間違いがあったという。

騒動の発端は「この引退発言の一部は自分が何年か前にツイッターでネタ(冗談)として書き込んだ内容である」と放送された番組について指摘した人が現れたことから話題となっていた。

番組スタッフはおそらくネットで情報収集をしているうちにこのつぶやきにたどり着いたと思われる。ネットで偶然見つけた情報を確認もせずに使っているのか?と騒動は拡大し、番組HPで謝罪、そして番組内でも翌週には謝罪と早期の対応になった。

今回のトラブルは偶然起きたモノなのだろうか。自分にはそうは見えない。昨年にはすでに危ない兆候があったからだ。それが石原さとみさんの炎上騒動を取り上げていた事だ。

昨今ニュースの信頼性については度々話題になることも多い。ウェブメディア編集長として今回の騒動に言及してみたい。

■発言捏造の前兆はすでにあった。

昨年の10月、「松本人志さんへ 石原さとみさんの「干されたら看護師」発言は炎上していないのでご安心を」という記事でも書いたが、石原さとみさんの発言が炎上しているとワイドナショーで取り上げたことがあった。

元々は他局のバラエティ番組で「仕事を干されたら看護師になる」と発言したことが発端となっているわけだが、看護師を馬鹿にした発言で炎上しているとネット上のニュースサイトで報じられ、それをワイドナショーで取り上げる、という流れだった。

しかしこれは記事でも書いたように、石原さんの「干されたら看護師になる」という発言への批判はほんの数件見つかる程度で、その他の多くは石原さんの発言を肯定していた。

このニュースを事実として取り上げた番組は、炎上している状況を実際に確認したのか?と記事では書いたが、今回のトラブルと全く同じ構造となっている。つまりネット上で見つけたニュース、あるいは情報の確認を全くしていないということだ。

テレビ番組の内容を文字お越ししているような自称ニュースメディアを鵜呑みにせず、批判コメントが何件あるのか、どのようなコメントがあったのか、当然確認すべきだろう。

今回の宮崎監督の引退コメントも、番組で紹介されたコメントはツイッターに冗談で書いたというつぶやきが一言一句変えられずに使われている。

つまり、番組スタッフが情報をネットでリサーチしている最中に見つけたであろう引退コメントについて、いつ、どの媒体で、どのような意図でなされたものなのか、一切確認していない事が分かる。チェック体制がウンヌンという以前に、そもそもチェックすらしていない可能性があるのでは?ということになる。

発言内容がどこかの媒体のインタビューであれば引用の表記が必要となる。自社で行ったインタビューや取材であれば表記は不要だが、念のため確認するけどこれって引用の表記は要らないんだよね? と誰かが一度でも確認すれば今回の問題は起きなかった。

■わずかな手間で間違いは防げる。

データ入力の間違いをチェックする方法にこんなやり方がある。エクセルに数字や文字を入力するような仕事をイメージしてほしい。全く同じ仕事を複数の人に依頼して、入力されたデータを突き合わせる。

そこでズレがあった個所はいずれか一方が間違っている可能性がある、というやり方だ。双方が同じように間違える可能性が低い事を考えればこのやり方は中々合理的だと思われる。これは情報の真贋を確認する方法にも使える。

つまり、信頼出来る複数のソースで同じ情報を確認すれば自分の知りたい情報が正しいのかどうか確認出来る。具体的には新聞や紙の雑誌など、ある程度正確性が担保されているメディアを複数利用すれば簡単に実行できる。

新聞や雑誌など過去の記事を横断検索ができるデータベースは大手メディアであれば当然準備しているだろう。自分が使えるデータベースでも、宮崎駿・引退というワードで検索をすれば全国紙だけでも数十件の記事がヒットする。

これらを全て確認したところでかかる時間も費用もごくわずかだ。この程度の手間をケチって、謝罪放送をする羽目になったと考えると手抜きの代償はあまりに大きい。

※より厳密な確認方法としては、一次情報、つまり発言を記録した映像等を直接見るか、あるいは今回のケースであれば宮崎監督に直接取材をすれば良かったということになる。

■引退発言の間違いはジブリマニアでなくとも気づく。

チェック体制の問題は言うまでもないが、映像に関わる人であれば宮崎ファンの1人や2人はいるだろう。生放送ではない以上、この番組が撮影・放送されるまでに少なくとも100人以上の目に触れているのではないか。誰も途中でこの情報はおかしいと気が付かなかったのだろうか。

自分が最初に引退発言の情報に触れた時、「千と千尋の神隠し」の際になされた「引退してシニアジブリを立ち上げる」というコメント内容に違和感を覚えた。これはこの時の発言だったか?と。

動画で見た記憶もあったため、もののけ姫の制作を長期間にわたって追いかけたドキュメンタリー映像「もののけ姫はこうして生まれた」のDVDを引っ張り出して見直してみると、やはり発言した際の映像が収録されており、もののけ姫の完成直後の発言であったことが分かった。

映画が完成し、その後に行われた関係者向けのイベント内で宮崎監督は以下のように発言している。

「えー、この作品を機会に僕はジブリを辞めるつもりです。ジブリを辞めてもですね、ジブリの後方100メートルくらいの所にシニアジブリのハコを作りまして、50歳以上じゃないとそこに働けないというアトリエを作るつもりです。

残った若い人たちがどういうものを作っていくかという時にですね、僕の力がいるなら、そのとき厳正に鈴木プレジデントと契約を結んでですね、シニアジブリもなにかやっていくことがあれば少しは稼ぎたいと思いますので、その時はよろしくお願いします。」

出典:『もののけ姫はこうして生まれた。』より筆者書き起こし 2001/11/21 スタジオジブリ ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント

この作品を最後に引退する、といった発言も当時あったようにも思うが、当然のことながらシニアジブリの話はほぼ冗談である。文字だけを見ると誤解をしてしまいそうだが、監督本人も冗談としてしゃべり、それを聞くスタッフや関係者も笑いながら聞いている。

宮崎監督が作品を作り終えるたびに引退宣言を行い、撤回もしていることは有名な話だ。ただ当初ワイドナショーで紹介された引退発言の内容は明らかにおかしい。

ジブリマニアでもない自分が気づくのに番組制作の過程で気づく人はいなかったのかと不思議でしょうがなかった。近いうちに撤回なり謝罪なりをすることになると思っていたら案の定だった。

■問題はチェック体制だけではない。

今回のトラブルはチェック体制の問題も当然あるが、コンテンツ制作に対する興味や熱意という目に見えない部分にも問題はあるように見える。

例えば宮崎駿氏の「シニアジブリを作る」という発言を見た時に、シニアジブリって何だろう?と興味はわかないのだろうか。面白い引退発言が一覧で見つかったとして、それぞれの発言はどういう経緯でなされたものなのか気にならないのだろうか。

こういった背景が分かれば番組作りにもプラスになることは間違いない。そして確認や深堀の作業をする中で新しい情報が見つかることもあれば、間違いに気づくこともある。

先ほどの石原さとみさんの炎上を伝えるニュースであっても、こんなに人気のある人が炎上して叩かれるなんて一体何が起きたのか?とちょっとでも一次情報である批判コメントの有無を確認すれば、とてもテレビでまともに取り上げるような情報でない事に気づくはずだ。

コンテンツを流れ作業で作ることの危険性は医療情報サイトのウェルク閉鎖騒動で知れ渡ったと思うが、マスメディアの一角を占めるテレビ番組の制作がこの体たらくではあまりにひどいと言わざるを得ない。

■情報発信者の責任。

創りたい作品へ創る人達が可能な限りの到達点へとにじりよっていく 

その全過程が作品を創るということなのだ

これは先ほど紹介した「もののけ姫」のドキュメンタリー映像で、冒頭で紹介された宮崎駿監督の言葉だ。分野を問わず、何かを作る、あるいは創る際に全ての人が肝に銘じる言葉ではないかと思う。

当初番組が謝罪文をHPに載せ、謝罪放送を行った際には、バラエティ番組だしそこまで目くじらを立てるほどでもないか……と思ったものの、謝罪放送では番組の看板出演者である松本人志氏は「今度同じような事があれば番組を降りる、ニュースを扱うことの責任はそれくらい重い」といった趣旨の発言している。

事前のリサーチをもしかしたら間違ってるんじゃないのか……?と疑いながら演者が番組に出演することは出来ない。ここまでずさんな状況であれば松本氏が番組を降りると言いたくなるのも当然だろう。

自分が運営するウェブメディアには士業や大学教授など各種専門家が参加しているが、情報発信をすることの責任は非常に重い、いい加減な記事を書くくらいなら何も書かない方が良い、普段の仕事と同じレベルで執筆に臨むように、と書き手には伝えている。

■情報収集でネットの活用は当たり前。

テレビ局が番組を制作する上でネットを活用するのはすでに当たり前の状況になっている。テレビに限らず、ネット上で執筆した記事に対して、各種メディアから取材を受けたり出演依頼が来ることはもはや珍しくもない。

先日「100億円の大赤字でも豊洲市場に問題が無い理由」という記事を書いた際、フジテレビのニュース番組・直撃LIVE グッディ!から取材を受けたが、細かい部分までかなりしつこく確認をされた。間違った情報を流さないためには当たり前のことだが、バラエティ番組でも同等の水準で確認が必要だろう。

つい先日、同じくフジテレビのノンストップ!でこんな変な味のガリガリ君が売られていたという放送がなされた。それもまたネット上で拾った画像から間違った内容だったと問題になった。同様のトラブルが続いたことから、またフジテレビかと叩かれている状況だが、当然の事ながら自分が取材を受けた時のように丁寧な仕事をしている人もいる。

昨年には医療情報サイトのウェルクが大問題になるなど、ニュースの信頼性に疑問符が付くことが度々起きている。

今後は新聞やテレビなど、手間とコストをかけてニュース番組の放送やコンテンツ作成を行っているメディアへの信頼回帰の流れが起きるかもしれないと思っていたが、これではメディアは全部信用出来ないということになりかねない。

マスメディアの一角をしめるテレビにはぜひ他のメディアのお手本であることを期待したい。