大塚家具が保有現金を90億円も減らした理由。

(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

2016年11月、家具販売大手の大塚家具が決算を公表した。

上場企業である大塚家具は3カ月に1度の決算公表が義務付けられている。第三四半期、つまり9カ月が経過した時点で公表した決算書(決算短信)では2015年末と比べて手許現金(現金及び預金)が約109億円から19億円と8割以上、90億円も激減していた。

大塚家具が新体制でも大赤字に陥る本当の理由でも書いたように大塚家具は無借金経営であり、資金繰りがここまで悪化することは想定外だった。

大損してるから現金が減ってるんでしょ?という指摘は確かに間違ってはいない。9月末の時点で損失は約40億円に膨らんでいる。ただ、赤字の倍以上の現金減少は異常事態に見える。ただし、会計のルール上、赤字=現金減少とは限らない。赤字で現金が増えることはあり、黒字で現金が減ることもある。

公表された決算書からその原因を読み解いてみたい。

■キャッシュフロー計算書とは何か?

上場企業は3カ月後とに決算書を公表することが義務付けられているが、現金の動きを計算するキャッシュフロー計算書の公表は年に一度の決算と中間決算である第2四半期以外は簡略化が認めれている。したがって直近のデータである6月末の数字から分析してみたい。

6月末の時点で大塚家具の赤字は約24.9億円、それに対して手許現金は期首の約109億円から41億円と6カ月で半分以下に減っている。やはりこの時点でも赤字以上に現金が減っていることが分かる。

現金の動きを追うには、資産・負債の情報が載っているバランスシート(BS・貸借対照表)や利益と損失を計算する損益計算書(PL)だけでは不十分だ。そこで必要なデータがキャッシュフロー計算書(CF)となる。キャッシュフロー、つまり現金の流れが記載されている決算書の一部だ。

CFは3つの要素で構成される。それが営業CF、投資CF、財務CFだ。シンプルにその関係を説明するならば、「営業活動で稼いだ現金」で「(設備)投資を行い」、残ったお金で「借金の返済や株主への配当を行う」、資金が足りない場合は「借金や株の発行で資金を調達するなど財務活動を行う」となる。

つまり、赤字でも借金や株で資金を調達すれば現金は増える。黒字でも借金の返済や配当の支払いで現金が減ることもある。

■営業キャッシュフローの状況。~売上減少と在庫の増加~

まず、営業CFは税引き前の損益から計算をする。

2016年6月末のCF表では、税引き前の損失が約20億円だが、営業CFはマイナス27億円だ。期首の109億円から41億円へと68億円も減ったうち、27億円は営業CFが原因となっている。

20億円も発生した赤字で重くのしかかっているのは「販管費」だ。前年同期の売上が301億円に対して売上原価は140億円、今期は売上240億円に対して売上原価112億円、いずれも原価率は46%程度とほとんど変化はない。小売業である大塚家具の売上原価はほとんどが仕入れ代金と推測される。商品ごとの利益率は当然異なるはずだが、全体で見た場合に変化はほとんど見られない。

一方、販管費は前期156億円に対して今期147億円と、2割も減った売り上げに対して販管費は6%程度の減少にとどまる。人件費や家賃、光熱費などは売り上げが減ったからと簡単には減らせない。販管費の多くが売り上げに影響されない固定費だと推測される。

結果的に「本業の利益」と呼ばれる営業利益は19億円の赤字と、現在の売上規模では固定費をまかなうだけの粗利(売上から仕入原価を引いた額)を稼ぐことが全く出来ていないことになる。

■売り上げ減少でも在庫は増加?

赤字以外に現金の減少に影響を与えているものは、在庫(たな卸資産)の増加5.4億円と仕入債務の減少である6.3億円だ。

在庫の増加は現金が在庫へと形を変えたから、仕入債務の減少はツケで買った代金を支払ったから、ということだ。債務は借金と性質は同じだが、それが減るという事はその分だけ手元の現金から支払っている、つまり現金が減るということになる。

在庫が増えているのに仕入債務は減っている、これは一見するとおかしな現象に見える。支払いの条件が悪化したのかと思ったが、PLも見れば原因が分かる。

売上が減り、当然仕入れも減っている。前年同期と比べて売り上げは2割も減少しているため、在庫と仕入にあてている資金は大幅に減っている。

前年同期の売上原価+在庫(商品)は280億円で今期は257億円と、仕入にあてている資金が減っているために仕入債務も減っている、と考えればある程度は納得が出来る。

■在庫のコントロールは難しい。

売上が減っているのに在庫が増えている、これは仕入れのし過ぎで在庫のコントロールに失敗したと見ることも出来るが、売上20%減と想定以上の急減に見舞われたことが原因だろう。加えて北海道に支店を新たに作ったことや、大塚家具の場合は1点当たりの単価が非常に高いことも影響していると思われる。

ニトリや無印良品、IKEAなどと比べても単価は10倍から100倍の商品も珍しく無く、わずかな売れ残りが多額の在庫となってしまう。在庫の増加は140億円から145億円と4%弱の増加にとどまっており、コントロールに大失敗したというほどでもない。売り上げが減ったからと在庫もそれに合わせて大幅に減らしてしまえば機会ロスとなる。しかも大塚家具が扱っている中には単価が非常に高い家具もある。売り上げが減っていく中で極めて難しい在庫管理を行っている状況だと言える。

売上の減少に合わせて売掛金の回収も進んでおり、売上減少は当然褒められたものではないが、在庫や資金の回収・支払面では大きな問題は発生してはいないように見える。

ただし、在庫の多さは気になる部分だ。売上÷在庫=在庫回転率で見ると、2016年の第2四半期で1.65と前年同期の2.07からかなり悪化している。そして単純にライバルとは言えないが、比較される事が多いニトリの在庫回転率は2016年2月期で9.37となる(商品に仕掛品・と原材料など、作りかけの商品やその材料も含んだ数字で計算)。

つまり仕入れた在庫が大塚家具は1年で1.65回しか回転しておらず、ニトリは9.37回も回転している事になる。ざっくりと言えばニトリは仕入れた、あるいは作った商品が仕入れてから40日経たずに売れているのに対して(365日÷9.37=約38.9日)、大塚家具では仕入れた商品を221日もかけて売っている事になる。

これは説明するまでも無く単価が高い・低いは強く影響しているため単純な比較は出来ないが、売上の減少で悪化傾向にあること、そして元々の回転率が低いことは資本効率が悪い(お金が在庫の状態で眠っている)状況を意味する。高級家具の販売はそもそもが儲かりにくく経営が難しい業態であると前回の記事で書いた通りだ。

■投資CFの状況。~店舗改装と北海道進出~

さて、営業CFのマイナス27億円の次が投資CFでも10億円のマイナスとなっている。これはほぼ同額の有形固定資産の取得による支出が影響している。店舗のリニューアルや北海道支店を出したことで支出が発生していると思われるが、これも売り上げが減っているからリストラで規模を縮小するのか、攻勢に打って出るのか、経営判断の難しい所だが必ずしも間違いとは言えない。

もちろん、経営は全て結果責任であるため、うまく行けば苦境でも果敢に攻めて成功につながったと言われ、失敗すれば売り上げが減る中で無茶な投資をしたと批判される。これは来期以降の数字で判断されるところだろう。

■財務CFの状況。~大赤字で配当と自社株買いは正しいのか?~

そして最後の財務CFだが、マイナス29億円と、今期の減少幅である68億円の半分近くがここでのマイナスによる。配当金の支払い約14億円は株主総会での決定事項であり、後から変更できないためやむを得ないが、これは赤字が予想される今期(来年の株主総会での決議)も継続する予定だと報じられている。そしてさらに不可解な行動が自社株買いで14億円もキャッシュが流出していることだ。

現在大塚家具は解散価値を大幅に下回るPBR(株価純資産倍率)0.6倍程度で株価が推移している。今後業績が回復すればこの自社株買いは正しいとも言える。自社株買いは一株当たりの利益が増えるため配当と並んで株主還元となるからだ。株価の低い時期に自社株買いができれば実質的に利益も発生する。ただ、キャッシュが大幅に減っている時点での自社株買いは資金繰りの観点から疑問が残る。

一株当たり40円から80円への配当倍増は前社長と現社長との委任状闘争(プロクシーファイト)の結果であるが、自社株買いの14億円に加えて前期と同額の配当はやり過ぎの可能性が高い。このままでは手元資金が枯渇してしまう。

そもそも過去に14億円以上の純利益を出した時期は2007年(27.9億円)が最後となる。それ以降は赤字か数億円の利益で、大塚家具の現状は14億円の配当を継続できる収益構造には到底なっていない。過去の利益をまとめて還元する状況でないことは現金が急激に減っていることからも明らかだ。

■資金調達の手段は自社株の放出か?

第3四半期終了時点での手許現金は19億円と、6月末から9月末までの3カ月で現金はさらに22億円も減っている。期末に向けて損失が膨らんでいれば現金はさらに減っている可能性もある。この状況で配当も払うとなると資金はどこから調達するのか。

配当を払うために株で資金を調達する、といったおかしな増資は難しいだろう(過去に例が無いわけではないが)。配当原資を確保するために借金をするというのでは借入先の金融機関の同意を得ることは難しいだろう。

現状で最も簡単な資金調達は保有している自社株の放出だろう。9月末時点で23億円分の自社株を抱えており、これを放出する事で当面の資金繰りは確保できると思われる。ただ、自社株を放出する一方で配当は維持となればこれもチグハグな行動になってしまう。

現状でこれ以上の資金繰りの悪化を防ぐには無借金経営を辞める必要があるように見えるが、その前提として配当を停止すること、場合によっては自社株を放出することも必要になるかもしれない。

投資有価証券として52億円が資産に計上されているが、これは非連結子会社だと思われるため、事業継続を考えれば売却は難しいと思われる。差入保証金の60億円も店舗を維持するためには動かせない。

■無借金経営がアダに?

無借金経営だから資金繰りに困るなんておかしい、と思っていたが、保有資産373億円のうち、在庫が145億円、有形固定資産(おそらく店舗等の設備)34億円、投資有価証券(おそらく子会社株式)52億円、差入保証金が60億円、これらだけで約291億円と、かなりの額にのぼる。資金繰り改善のためには借金を有効利用すべきと言えるのではないか(いずれも2016年6月末の時点の数字)。

これは貯金をたくさん持っている人でも住宅ローンを組んで家を買った方が貯金を極端に減らさずに済むという話と同じで、無借金経営があだになっていると言えるのではないか。

ビジネスモデル等については一切無視して決算書を元に数字の分析をしたが、営業面では在庫のコントロール、投資の面では売り上げが減るなかでも積極攻勢に出るか否か、財務の面では配当や自社株買いの是非、有利子負債での資金調達の判断など、いずれの面でも難しい判断が求められている。大塚家具が新体制でも大赤字に陥る本当の理由で書いたように、家具の小売という業態は儲かりにくく、極めて経営の難しい業態である事は決算書からもうかがえる。

そしていうまでも無く、売り上げの回復が出来なければ今後は店舗閉鎖など大幅なリストラを余儀なくされる可能性もある。現在の赤字が長期にわたって続けられるはずもない。

12月末が決算日の大塚家具は、45日ルールで今月の2月半ばまでには昨年の決算(決算短信)が公表される。大塚家具の決算に注目したい。

※参考記事

キャッシュフロー表を元にした企業分析は以下の記事も参考にされたい。

シャープの本当の問題は、結局どこにあったのか?

※追記

9月末の直近の決算書では、一般的な指標である流動比率255%(*1)、当座比率56.5%(*2)、自己資本73.4%(*3)となる。当座比率が低く自己資本、流動資産が全く問題ない水準である事を考えると、やはり極端に現金だけが少ないことが分かる。

*1流動資産÷流動負債 *2当座資産(現金預金+受取手形・売掛金)÷流動負債 *純資産÷総資産

中嶋よしふみ シェアーズカフェ・オンライン編集長 ファイナンシャルプランナー