国の借金は国民にとって財産? 民進党・江田憲司氏の摩訶不思議な財政学。

消費税は不要とする根拠に持論を展開する江田氏、その中身は?(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

先日から民進党代表代行の江田憲司氏が「目からウロコの財政学講座」と称する文章をブログで公開し、不思議な持論を展開している。夏の参院選に向けたアピールなのか、日本の借金は問題の無い水準であり、したがって消費税の増税も不要だと主張しているようだ。

消費税を上げるべきか否か? これは意見が分かれる政策なので一旦横に置くが、自身の政策の根拠となる江田氏流の財政学、「江田理論」が余りにも独特で摩訶不思議だ。

ただ、野党第一党の代表代行の意見にはしっかり耳を傾けるべきだろう。しかも江田氏は通商産業省、現在の経済産業省出身で財政・経済には明るい人物のはずだ。短い文章だが、執筆時点でその4まで書かれているので一つずつ確認してみよう。

■国債は借金では無く財産である?

「国債は、子や孫たちへの「借金のつけ回し」、ってよく言われますよね。我々世代は将来の世代に借金を残しちゃいけないんだと。

でも、ちょっと考えれば、これっておかしいって思いません? あなたが国債を買えば、それは「財産」でしょ。それが相続されれば、国債の満期が来た時、あなたの子や孫が国から元本や利子を貰えるんでしょ。生きている間に満期がくれば、その人(世代)だけで完結し、将来世代へったくれもない。

なんでこれが「借金のつけ回し」になるの?その逆で子や孫は得するんでしょ、我々世代(お金)のおかげで。おかしいですか? おかしいって方は反論してほしいですね。」

出典:目からウロコの財政学講座1・・・「増税先送りは無責任」と言う人へ 江田憲司公式サイト 2016/06/11

さて、いきなり頭が痛くなりそうな内容だが、全文を引用した。借金は国と国民の間で同じ金額が支払われて戻ってくるだけだから何の問題も無い、ということらしい。

短い文章のため真意を知るには一部は推測せざるを得ないが、なんとも理解しがたい内容だ。国民が国債を買う、つまり国にお金を貸す。シンプルに100万円の国債を買う場合を考えてみよう。

■国の借金は誰が返すのか?

100万円の国債をAさんが買う。これがAさんにとって資産、財産である事は間違いない。そして何十年後かにAさん、もしくはAさんの相続人のBさんが100万円を受け取る(利息は現在マイナス金利で話しがややこしくなるため一旦無視する)。すると100万円が「行って来い」でプラスマイナスゼロ、何の問題も無い、コレのどこが借金のつけまわしなのか? ということのようだ。

さて、これは何がおかしいのかと言うと、国が国債の発行で得た資金を金庫にしまっておいて、それを将来そのまま返すかのように考えていることだ。借金によって得た資金は当然ながらその時点ですぐに使われる。

大部分は年金・医療費等の社会保障費に使われる。そして将来、国債の償還(国債の保有者にお金を返す事)をするときには、その時点の税収で賄われる。つまり将来の時点で働いている人から所得税、そして勤務先から法人税などを徴収し、それを返済にあてる。これが借金のつけ回しと言われる理由だ。

別の表現するなら次世代からの前借りとも言える。前借りしてお金を使った側にとっては資産だが、使われた次世代の側にとっては言うまでも無く借金だ。先ほどの例ならばBさんは100万円の国債を確かに相続はしているが、国の借金返済のために税金を100万円「余計に」とられるだけの話だ。錬金術はありませんよ、としか言いようが無い。

実際には償還期限が来た国債も、ロールオーバー・借り換えが行われるため、必ずしも国は借金をゼロにする必要は無いが、個人がローンを組めるのも、企業が融資を受けられるのも、将来にわたって収入・売り上げがあるからだ。これが国の場合は税収になる。借金が出来る理由は税収があるからだ。当然、返済する能力が無いとみなされれば国債の価値は暴落して金利が上昇し、それ以上の借金も出来なくなる。

お金の流れは、ストックとフロー、あるいは企業会計でBS(資産・負債)、PL(売上・費用)と表現するが、江田氏はフロー・損益の話を無視してストック、つまり資産と負債の部分しか見ていない。PLとBSの関係、ストックとフローの関係は商業高校で簿記3級を習っている高校生でも分かる程度の話だ。

きっと江田氏の話を聞いた生徒たちから、借金は売上から返すんですよね? 国だと多分それは税金ですよね? ということは今のお爺ちゃんたちが貰ってる年金は、将来僕たちが働いて払った税金から返すんですよね? つまり大人の借金を僕たちが返すってことですよね? それってつけ回しって言わないんですか? ……と突っ込まれるだろう。

■国債は日本人が買っているから問題ない?

「要は、実際のお金の流れからすると、国債を発行するということは、国民からすれば国債を買う、すなわち「支出」、国(政府)からすると「収入」。国債の満期(返済期限)がくると、国民には「収入(償還金)」が入ってくるし、国(政府)は「支出(支払い)」をしなければならない。結果、「差し引きゼロ(正確に言えば、利子分や国債価格差額分を除く)」ということになるわけです。

ただし、これはあくまで国債の売買が国内(日本国民が買っている場合)だけで行われている場合。ギリシャや南米の国のように外国(人)が半分以上買っている場合は、国のお金が外国に流出するわけですから、「差し引きゼロ」とは到底ならない。ここが問題なんですね。

ただ、この点でも、日本の場合は、今でも90%以上は内国民(日本人)が国債を買っている。だから、まだまだ大丈夫なんですね。」

出典:目からウロコの財政学講座2 ・・・増税先送りは無責任という人へ 江田憲司公式サイト 2016/06/12

こちらも全文引用したが、その2では突然、外国が相手の場合は差し引きゼロにならないが、額は少ないから問題ない、という話になる。これまでの理屈ではお金が行き来するだけなのだから、相手が外国人だろうが日本人だろうが関係無さそうだが、そうではないようだ。

奇しくも三菱東京UFJ銀行(MUFJ)が国債の入札に有利な条件で参加できる資格を返上すると表明しているが、これも「江田理論」では一部の銀行の話で金額が少ないから影響はないということになるのだろう。

■国債の流動性低下がリスクを高める。

実際には日銀が国債を買い過ぎていることで国債の流動性は極めて低下している。流動性が低いとはどういうことか。わずかな売買で価格が乱高下するということだ。

「 生命保険協会の筒井義信会長(日本生命保険社長)は10日の記者会見で、日銀のマイナス金利政策について「さらなる金融緩和は影響が非常に大きい。市場への慎重な配慮が必要だ」と述べた。日銀による国債の大量購入の影響で国債市場の流動性が低下し、市場金利が大幅に振れやすくなっていることにも懸念を示した。」

出典:追加緩和、慎重配慮を=マイナス金利で注文―生保協会長 時事通信 2016/06/10

一部の外国人投資家の売買で国債の相場が乱高下する可能性を江田氏は無視している。そして当然の事ながら、日本人や日本の金融機関は国債の価値が下がるかもしれないときにいつまでも悠長に持っているのか? ということになる。

MUFJの行動を見ていればそんなわけがない、ということは簡単に分かる。株主の利益を考えると、マイナス金利で買えば損をする可能性が高い国債に投資は出来ない。他行が追随する可能性があることもすでに報じられている。

外国人投資家は国債の売却から円売りにつながる可能性があり、為替の乱高下につながる可能性もある。極端な円売りによる円安はエネルギー・食料を海外に頼る日本には打撃となる。そういった意味では自国民が国債を買う場合との違いは発生するかもしれない。ただ、円の信認が失われれば外国人ほどではなくとも日本人も円売りに走るだろう。結局は外国人も日本人も投資行動に大きな差は無いということになる。

江田理論はこの後さらに異次元の領域に突入するが、続きは改めて言及してみたい。

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中嶋よしふみ シェアーズカフェ・オンライン編集長 ファイナンシャルプランナー