テレビ局スタッフによる弁当ツイートとガソリンスタンド割り込みは、マナーやモラルの問題ではない。

熊本市内での弁当を調達、マナーやモラルの問題だけではない危険な兆候が。(写真:アフロ)

熊本地震の発生から一週間ほど経過した。本震が余震の後に発生する、震度5や震度6クラスの揺れが頻発するなど、過去に例を見ない震災で大きな被害が発生している。各種メディアでも多数の災害報道がなされているが、その中でも異様なほど注目された出来事が二つあった

一つは被災地へ取材に訪れたテレビ局の取材班がガソリンスタンドの行列に割り込んだこと、もう一つは食糧が不足している被災地で弁当を調達し、それをツイッターでつぶやいたアナウンサーが批判されたことだ。

「関西テレビ放送(関テレ)は4月18日、熊本県内のガソリンスタンドで、給油待ちをしていた車の列に同社の中継車が割り込んで給油していたと発表し、謝罪した。「あってはならない行為」とし、「大変なご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます」としている。」

出典:被災地のガソリンスタンドで割り込み 関西テレビが謝罪 ITmedia ニュース 2016/04/18

「熊本地震を取材していた毎日放送(MBS、大阪市)の山中真アナウンサー(39)が、取材用弁当の写真を自身のツイッターに投稿し、相次いで批判を受けていたことが19日、わかった。同アナはすでに「配慮に欠けた行為」と謝罪し、写真などを削除した。」

出典:熊本地震 MBS山中アナ、取材用弁当写真をツイッターに上げ批判続出 「配慮欠けた」と謝罪 産経新聞 2016/04/19

これら二つのニュースは他の災害報道を上回る注目を集め、多数の批判を受けた。大炎上と言っていい出来事だろう。

批判コメントの多くは、トラブルを起こした取材スタッフに対するモラルやマナーの欠如を批判するものだが、この問題を企業経営やメディア運営の観点から考えると、個人が偶然起こしたトラブルとは考えられず、極めて深刻で構造的な問題をはらんでいるように見える。

■準備不足の報道が更なる被害を生む。

二社に共通することは、現地で取材を行い戻ってくるまでに不可欠な、食糧とガソリンを災害のまっただ中にある被災地で調達した点にある。モラルやマナーに関する批判を一旦横に置けば、単純に足りなくなったから買っただけに見えるかもしれない。しかし、食糧やガソリンが不足すること自体が大問題であるという指摘は見当たらない。

現地で取材して帰社するまでに必要なだけの食糧やガソリンを、なぜ持参するか周辺地域で調達しなかったのか。あるいは不足する前に戻ることは出来なかったのか。

報道では弁当ツイートの問題について、食料は持ち込むことになっている、系列の放送局が被災地以外の場所でバックアップを整えている場合もある、と取材に答えている(毎日放送アナウンサー、被災地で食料確保ツイートで炎上し謝罪 実際はどうだったのか ねとらぼ 2014/04/19)。しかし今回はそういった体制は取られていなかったようだ。

テレビ局が災害報道を行う理由は野次馬根性からではなく、放送法によって一部の大手テレビ局やラジオ局は災害報道が義務付けられているからだ。そのための準備は当然普段からしているはずで、上記の通り災害報道時のルールも局内で決められていると思われる。

しかし今回の取材ではそれが守られていなかった。そして、もし食糧やガソリンを現地調達できなければ災害報道が出来ず、場合によっては取材班が被災していた可能性すらある。

これはマナーやモラルの問題ではなく放送法を守るというコンプライアンス(法令順守)の問題であり、同時にルールを決めていたのに現場では守ることが出来なかった、会社としては守らせることが出来なかったというガバナンス(企業統治)の問題でもあり、事態は極めて深刻と言わざるを得ない。

■命がけの報道に見えない不思議な行動。

震度5の余震が毎日のように発生し、多数の死者が発生している中での取材は本来命がけのはずだが、弁当ツイートや行列の割り込みからはそのような緊張感が全くと言っていいほど伝わってこない。取材が出来ないどころか、場合によっては取材スタッフが被災し、怪我を負ったり死亡するリスクすらあった(これは現在も変わらない)。食料やガソリンすらままならない取材班が、被災しても準備万端の状況だったとは到底思えない。

3月末からNHKのニュースウォッチ9からTBSのあさチャンへ移籍したお天気お姉さんの井田寛子さんは、気象災害の報道に携わる際、被害者を減らすことを常に考えているという(参考・就職活動を始めた大学生はNHKのお天気お姉さん・井田寛子さんに学べ。)。気象災害で死者や被害者が出てしまった時には、もっと出来る事は無かったのか、もっと伝え方を工夫すればしっかり避難して被害を受けずに済んだのではないか……と思い悩む事もあるという。

今回は問題を起こした取材クルーのみならず、指示を与える側にもそういった被災者のために報道をするという意識はあったのか、そしてコンプライアンスの意識は明確にあったのか? ということになる。あったとしてもそれを現場に守らせることができなかったのであればガバナンスの欠如であり、いずれにせよ現場が暴走したとかアナウンサー一人が悪いという話ではない。

■与えられた指示に問題は無かったのか?

また、トラブル発生の原因を探っていくと、さらに深刻な状況が見え隠れする。

自身の命を守る、被災者に迷惑をかけない、といった当たり前のことが徹底されず、良い映像をとにかくたくさん撮ってくるように、何をおいても生放送の時間に映像を送るように、といったコンプライアンスやガバナンスの違反・欠如を助長しかねない指示が出ていなかったか、それが今回のような食糧やガソリンの現地調達につながった可能性は無かったのか? そういった可能性を示唆するような説明がすでになされている。

「当該スタッフらは同局の社内調査に、前夜遅くまでフル稼働したためガソリンの残量が少なく、午前8時からの中継スタンバイまで時間が切迫しており、焦りがあったと説明。

~中略~

同局によると、災害取材時は夜間のうちに中継車の給油を行う内規があるが、今回は前夜に給油のタイミングを逃し、優先的に給油できる契約を結んでいるスタンドもあるが、遠方で時間がなかったという。」

出典:関西テレビ 中継車割り込み給油で謝罪 デリースポーツオンライン 2016/04/19

こういった回答を読むと、災害報道が出来るだけの体制が整っていたのか、疑問が残ると言わざるを得ない。

マスコミは被災地に行くなら支援活動も行えといった批判も多数みられた。しかし場当たり的なボランティアは不要といった話と同じで、彼らはそういった役割を求められているわけではなく、災害支援のプロでもない。被災者の邪魔をしない限りは災害報道に専念すべきだろう。

■小さなトラブルは大きなトラブルの前兆である。

ハインリッヒの法則で知られるように、大事故の裏には小さなトラブルが多数存在している。今回は取材班が被災する大事故はなかったが、食料やガソリンが不足して現地調達するという小さな事故が炎上騒ぎとして報じられた(マナー違反としては大事故だが、少なくとも直接的な死者や怪我人は出ていない)。

上司や経営陣は現場の起こしたトラブルに対してカンカンに怒っているかもしれない。しかし、客観的に見れば災害報道という極めて重要な場面でコンプライアンス・ガバナンスの欠如を引き起こした原因は現場にだけあると考えることは出来ない。指示・指導が徹底されていなかった可能性があるからだ。

ウェブメディア編集長の目線で見ると、各種メディアに携わる編集者やディレクターは常に良いネタは無いか血眼になって探しているが、自身・自社の巻き起こしたトラブルが最も注目を集めるネタである事を改めて認識したことかと思う。

これは決して皮肉ではなく、普段の報道の反動としてブーメランのようにメディア自身の不祥事は徹底的に批判されることが珍しくない。しかもそれが業務時間外に起こした不祥事ではなく、取材によって生じたのなら尚更だ。そういった状況に対してあまりに鈍感、不用意としか言いようが無い。

警察や自衛隊は命がけではあっても、救う側に被害が発生する二次災害を起こさないように、慎重に行動している。報道陣にも「二次災害」を避ける意識が必要ではないのか。

今回のトラブルは明らかに報道による二次災害であり、直接的な被害は(当事者以外には)ほとんど無かったと思うが、今後の災害報道に悪影響を与えかねない出来事でもある。いまだ余震が続く被災地で、報道による「本当の二次災害(取材側のけが人や死者)」が起きない事を望みたい。

最後になりましたが、今回の地震で亡くなられた方に哀悼の意を表します。また、被災者の方々には一日も早い復興をお祈り申し上げます。

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