ハフィントン・ポストへの大いなる誤解 ~紙とウェブが最強のタッグである点について~

ハフィントンポスト日本版がスタートした。ハフィントン・ポストは元々アメリカで始まったインターネット上のウェブメディアで、あらゆる分野の記事が掲載されている巨大メディアだ。本家のハフィントン・ポストは月間訪問者数が4600万人、そして記事に寄せられるコメント数が800万件とウェブ上で活発な議論がなされている事が特徴だという。

●ハフィントン・ポストはスタートダッシュに失敗したか?

ハフィントン・ポストは英国、カナダ、フランス、スペイン、イタリアと世界各国でサービスが始まっている。アジアでは初の日本版が昨日5月7日にスタートしたが、今のところ評判は芳しくない。スタート前から終わってるという意見まであった。理由としては目新しい書き手が居ない事や、目玉になるようなニュースがスタート時点で無かった事などがあげられている。

個人的には、当初ハフィントン・ポストの日本版が朝日新聞とタッグを組み、合弁会社を作ってスタートすると聞いた時点で期待が一気にしぼんでしまった。今更オールドメディア中のオールドメディアである新聞と組んで一体何のメリットがあるんだろう?と。

しかし、これらの批判も自分が当初感じたオールドメディアとの提携に意味が無いという考えも、いずれも的外れだ。

●ウェブで集めて紙で信用させる、というアプローチ。

ウェブと紙媒体の相乗効果を考える際、今の自分の状況は格好のケースだと思うので少し説明してみたい。

自分はウェブで記事を書くようになって1年程度がたった。最初に記事を掲載してもらったアゴラの影響力は非常に大きく、アゴラ以前とアゴラ以降と分けられるくらい状況は変わった。簡単に言えば仕事が増えた。

現在ウェブに掲載する記事は自分自身のブログのほか、アゴラ、ブロゴス、ヤフーニュース個人に掲載してもらっている。いずれもウェブ上で圧倒的なアクセスを集めるサイトだ。自分が運営するファイナンシャルプランニングのお店に来店されるお客様はいずれかのサイトを読んで来ました、という方が全体の9割を占める。ウェブで住宅やお金に関する情報を求めてネットサーフィンをしているうちにどこかに載っている自分の記事へたどりつく……という状況だ。

その一方で世間一般でアゴラやブロゴスといっても知名度はさほど高くない。それに対して日経マネーでも連載してます、と言うとそれは凄いという話になる。この連載はアゴラで自分の記事を読んでいた日経マネーの編集者の方のおかげで実現したのだが、知名度で言えば日経とアゴラ・ブロゴスではやはり天と地の差がある。

ただ、実際のビジネスで集客に役立っているのは紙メディアよりもウェブメディアの拡散力だ。日経マネーは紙媒体なので、過去の記事が繰り返し読まれることは残念ながら無い。それに対してブログは過去の記事が蓄積される程アクセスが増える。

では紙メディアで記事を書くことに意味は無いのかというと、それは全く違う。ウェブの記事を読んだ人は「この記事は面白かったけど、この人は信用出来るのか?」と考える。その際に紙メディアでの連載があればその疑念に信頼感を与える事が出来る。つまり紙のメディアによってある種の権威付けがなされているという事だ。

現状でウェブの拡散力と紙の権威付けの組み合わせは、実は最強といっても良い組み合わせだ。自分の場合はどちらが欠けてもファイナンシャルプランナーとしてのビジネスは成り立たなかっただろう。

●ウェブと新聞という最強の組み合わせ。

ハフィントン・ポストと朝日新聞の組み合わせは、自分が実践している「ブログ+雑誌連載」という小規模な仕組みをより大規模にしたようなものと考えられる。現在、新聞や雑誌等で「アゴラによれば……」とか「ブロゴスによれば……」といった形で記事が引用される事はまずない(アゴラ・ブロゴスで記事を書く自分にとっては残念な事だが)。それがハフィントン・ポストでは可能になる。朝日新聞に「ハフィントン・ポストによれば……」といった記事が多数書かれれば、ウェブメディアに対する権威付けとしては相当に強力なものになるのではないか。

ウェブには良質な記事が多数あるのだが、ウェブの情報は信用出来ない、というイメージは残念ながらまだ強く残っている。これがハフィントン・ポストと朝日新聞のタッグで大きく変わるのではないか。

さらに朝日新聞にはテレビ朝日というパートナーもいる。これはいわゆるクロスオーナーシップの問題(異なるメディアが同じ資本で運営される事はよろしくないという考え)もあるが、ハフィントン・ポストの営業面で言えば相当に強力だ。

例えば報道ステーションで「ハフィントンポストが伝えるところによれば……」といった報道がなされたり、情報番組でよくある新聞の記事紹介の中にハフィントンポストも組み込まれたらどうだろうか。これは他のウェブメディアでは考えられないほど有利な状況だ。

唯一のマイナス点は朝日新聞と組んでいる以上、他の新聞・放送局で紹介される可能性が非常に低い事だ。しかし、それはかえって他のウェブメディアにとってプラスとなる。朝日新聞とハフィントンポストの提携が上手くいって相乗効果が発揮されれば、他の新聞・テレビでも何か面白いウェブメディアは無いのか、という話になる可能性は高い。一般的なウェブニュースサイトは新聞社や通信社の記事で成り立っており、独自の記事が集約されていて規模の大きいウェブサイトとなればかなり限られている。

朝日新聞のウェブサービスといえばWEBRONZAがあり、これはあまり上手く行かなかったようだが、有料モデルを導入した事が失敗の原因だろう。有料販売は本来オープンである事がメリットのウェブの特性を生かしきれない。中途半端に有料にする位ならば、無料で拡散させて大量のアクセスを集めた方がよっぽど広告収入を得られる。

●テレビと新聞は死んだのか。

新聞・テレビは終わったと言われるが、例えばテレビはツイッターやフェイスブックを番組に取り込んでみたり、ウェブで有名になった人を出演させたりと少しづつウェブとの融合を図っている。この状況をハフィントン・ポストが一気に進める可能性はある。

新聞社や放送局にとっても読者・視聴者が求めている情報を、PVやツイート、イイネの数によってリアルタイムで把握出来れば紙面や番組の構成にフィードバックさせるなど、ハフィントン・ポストへのアクセスを利用したマーケティングが可能になるかもしれない(ここまでガッチリと手を組むのかどうか、現段階では全く分からないが)。

ハフィントン・ポスト単独で考えればウェブメディアの中で決定的に有利な状況ではない。しかし、新聞社との提携メリットを生かす事ができればこの状況は大きく変わるだろう。そしてそれはすでに書いたように他のウェブメディアが新聞やテレビの権威付けを利用する事で、何段階ものし上がる大きなきっかけとなるかもしれない。

新聞は終わってると言われながら、ウェブニュースの多くが新聞社の配信する記事だ。テレビは終わったと言われながら、ウェブで膨大なアクセスを集める動画サイトの「主力商品」は違法にアップロードされたテレビ番組だ。ダメな記事もつまらない番組も沢山あるが、それは新聞やテレビが丸ごとダメである事は意味しない。

ウェブは多様性がある反面、玉石混合でもあり、これは表裏一体だ。一方、新聞・テレビは良質な記事や番組を作るノウハウはあり、少なくともまだネットメディアより信用力もあるが、時代とのズレが発生しつつあるう。ウェブとスマートフォン・タブレットPCなど各種端末の発展により、「新聞記事と新聞紙」「テレビ番組とテレビ」という、一対で提供されてきたコンテンツとそれを届けるプラットフォームを分けて考える必要も出てきている。

様々な問題はあるが、ネットメディアと従来のメディアが組めばデメリットを補い、メリットを伸ばす事は出来るのではないか。

メディア・経済関連の記事は以下を参考にされたい。

●アゴラ・ブロゴスはAKB48である。

●女子大生でも分かる、3年間の育児休暇が最悪な結果をもたらす理由

●育児休業延長に振り回されそうな女子大生に贈ったアドバイス ~時短勤務と男性の働き方~

●サービス残業は日本の文化だ ~ブラック企業が生まれる下地~

●池上彰さんが心配して、総理大臣が否定するハイパーインフレについて。

●住宅購入に関する記事のまとめ。

ウェブ上に良質な言論空間を作るというもくろみは案外上手く行くのではないかと、ハフィントン・ポストには大きな期待を持っている。