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中国の中高年の間で大人気の荒木由美子さん 火つけ役はあのジャック・マー(馬雲)氏だった

中島恵ジャーナリスト
ジャック・マー氏(写真:ロイター/アフロ)

9月16日、東京・練馬区で日中国交正常化50周年を記念するイベントが開催され、タレントで女優の荒木由美子さんがスペシャルゲストとして出演。荒木さんがかつて出演した日本のドラマ『燃えろアタック』の主題歌を歌ったところ、客席にいた在日中国人から熱烈な拍手喝采を浴びた。

中国国内に住む中高年に荒木さんについて聞いてみると、荒木さんが同ドラマで演じた役名は「知らない人はいないほど有名」であり、「昭和」や「80年代」がブームのZ世代の若者の間でも注目されるほどの存在になっているという。

中国で有名な日本人「小鹿純子」って誰?

この日、荒木さんが歌ったのは、今から40年以上も前の1979~1980年、テレビ朝日系列で放送されたスポ根ドラマ、『燃えろアタック』の主題歌だった。当時、荒木さんはこのドラマに「小鹿ジュン」という役名で主演。バレーボールに打ち込む女子高生を熱演した。

イベントに参加していた中国人によると、ドラマの映像をバックに荒木さんが歌ったところ、懐かしさのあまり、感激して涙を流す人もいたそうだ。

『燃えろアタック』は日本でも人気となったドラマなので記憶にある中高年も多いと思うが、実はこのドラマ、1980年代前半に中国でも『排球女将』というドラマ名で放送されており、視聴率は50%を超えたという。

荒木さんの役名は中国では「小鹿純子」と呼ばれ、彼女に憧れて髪型などを真似したり、バレーボールに夢中になったりする人が続出した。

1980年代、中国で大人気だった『排球女将』(中国の検索サイト、百度の画像より)
1980年代、中国で大人気だった『排球女将』(中国の検索サイト、百度の画像より)

中国では1978年に改革・開放が始まり、海外(主に日本)のドラマが放送されるようになったが、『燃えろアタック』は、同時代に放送されたNHKの連続テレビ小説『おしん』や、山口百恵主演のTBS系列ドラマ『紅い疑惑』に匹敵するほどの人気ぶりだったという。

1981年、中国は郎平選手を中心とした女子バレーボールチームが初めてワールドカップ大会で優勝しており、バレーボールが人気スポーツとなっていたことも社会背景としてあったようだ。

しかし、その後、荒木さんは結婚し、芸能界から離れることに。中国でもドラマの存在は忘れ去られていたが、再ブレイクのきっかけが訪れる。

それは、同ドラマの影響を強く受け、荒木さんの大ファンだった男性が起こした、あるアクションからだった。

ある男性とは、中国電子商取引最大手、アリババグループ(阿里巴巴集団)の創業者、ジャック・マー氏だ。

マー氏との出会いで、中国で人気が再燃

今年2月に出版された工藤哲氏の著書『上海』(平凡社新書)によると、2002年、東京にある荒木さんの事務所にマー氏から突然、連絡が入った。

「中国の経済界で活躍する人は、本当に『排球女将』(『燃えろアタック』の中国でのタイトル)に助けられました。僕らは今まで、歯を食いしばって頑張ってきた。それは小鹿純子のお陰なんです。やっと小鹿純子を探し当てた。何としても本人に会いたいのです」

マー氏は荒木さんの事務所の社長にこのように言い、荒木さんとの対面を願い出たという。

今では世界的に有名な経営者となったマー氏だが、当時、日本では無名。しかし、マー氏の熱意が社長に伝わり、マー氏は荒木さんと面会することができた。

意外なことに、マー氏は何度も大学受験に失敗した経験を持つが、挫折して苦しんでいたとき、支えになったのが、なんと小鹿純子の存在だったそうだ。

荒木さん扮する小鹿純子が過酷な練習に耐え、バレーボールの名アタッカーとして成長していく姿に心を打たれたマー氏は、自身も受験勉強をあきらめずにがんばり、3度目の挑戦で大学への入学を果たした。

99年にアリババを設立したが、マー氏の夢は「日本で小鹿純子に会い、中国に招くこと」だったというから、若きマー青年にとって、その存在がいかに大きなものだったかがわかる。

荒木さんも、こうした出来事をきっかけに、次第に中国のテレビやイベントに出演するようになり、人気が再燃した。コロナ禍で往来は中断しているが、熱望する声は大きい。

中国の中高年の間で荒木さんは「懐かしい」「まるで青春時代が戻ってきたようだ」と注目され、若者の間でも、日本のスポ根ドラマの動画が視聴されるなど新たな現象が起こっている。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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