ザリガニブームに早くもかげり?中国の若者がザリガニを敬遠し始めた5つの理由
毎年5月から8月はザリガニのシーズンだ。中国では、大皿に盛られた真っ赤なザリガニの殻を手でむいて食べる姿が「夏の風物詩」となっていて、10年ほど前からブームとなっている。だが、コロナ禍以降、とくにZ世代の若者の間で、ザリガニを敬遠する人が急速に増えているという。その理由は何なのか?
今年6月以降、中国のネット上に「若者はザリガニを好きではない」という記事が複数掲載された。そのうちの一つ「餐飲新世紀」(6月8日付)には、「なぜ若者がザリガニを食べなくなったのか?」というタイトルで、主に以下の5つの理由が解説されていた。
コロナ禍の影響で消費スタイルが変化
①消費スタイルが変わったこと。コロナ前は友だちを誘ってワイワイ食事をすることが多く、とくに屋台などで夜食を食べる際は、よくザリガニを食べていた。しかし、コロナの影響で友だちと集まる機会が減り、同時にザリガニを食べる機会も減った。家で、たったひとりでザリガニを食べてもおもしろくない。
②衛生問題が大きい。もともと川や池、沼などに生息するザリガニにはたくさんの寄生虫がいて汚い。現在はほとんどが養殖だが、若者はとくに「健康によくない」と気にするようになった。
③コロナ禍によってコスト意識が変わった。以前は食事の価格などあまり気にしなかった人がコストを気にするようになり、理性的に消費するようになった。ザリガニは生産地からの物流コスト、養殖コストなどが上乗せされて、需要の高まりとともに急速に価格が跳ね上がっている。
都市やレストランによって異なるが、以前はレストランで2斤(1キログラム)68元(約1360円)くらいだったのが、今では同じく88元(約1760円)くらいにまで上がっている。食べられる身の部分も少なく、他の食べ物と比較してコスト・パフォーマンスが悪い、割高だと感じるようになった。
新鮮味がなくなって飽きた
④新鮮味がなくなった。ザリガニが一大ブームになって早8年くらいになるが、そろそろ飽きてきた。ザリガニを食べたことがないという中国人はかなり少なくなり、珍しい食べ物ではなく、新鮮さがなくなった。以前は1ヵ月に5回ほど食べていたが、今は2回程度だという人もいる。
⑤ザリガニ専門店でなくても、どのレストランでも食べられる。どこに行っても味は麻辣味、ニンニク味など似たり寄ったりで、バリエーションに乏しい。飲食店の競争は激化しているが、価格は上昇している。
ザリガニ市場は約8兆円にまで膨らんだが……
以上の5つが、主に若者がザリガニをあまり好まなくなっている理由として指摘されている。
同記事によると、2022年5月の消費量は前年同月に比べて30%も減少しており、下げ幅が大きいという。「中国ザリガニデータ分析報告」によると、2021年、全国でザリガニを提供するレストラン数は2020年よりも10.4%も減少した。
そもそも、ザリガニの消費が急速に高まったのは2014~2015年頃からだ。もともとは外来種であり、中国にザリガニを食べる文化はなかったが、2010年頃からレストランのメニューに加えられることが増え、じわじわと人気が出始めた。
両手にビニール手袋をはめて、殻を手でむいて食べるスタイルが「楽しい」「おもしろい」「友だちとの会話が弾む」と話題になり、「SNS映え」も手伝って、人気に火がついた。上海蟹などと違って価格も安く、庶民的なことから全国的なブームとなり、養殖に適している湖北省、安徽省、江蘇省などで生産が盛んになった。
養殖や加工などに携わる業者も増加し、2016年のザリガニ市場は約1466億元(約3兆円)だったが、2021年には約4221億元(約8兆円)にまで膨らんだ。しかし、前述の理由で、早くも「ザリガニ料理に飽きた」という若者が増え始めている。
量ではなく1皿いくらで提供する店も
「身が少なく、殻ばかりだ」などコスト・パフォーマンスが悪いとの声に、これまでザリガニ料理を量(中国では1斤(500グラム)や2斤(1キログラム)で注文することが一般的)で提供していた飲食店も、1皿ごとの料金で表示するなど、「割高感」をなくすような工夫をしている。だが、「辛い料理は健康に悪い」などと指摘する声もあり、ネガティブな印象が増え始めている。
むろん、まだ全国的なザリガニブームは「過ぎ去った」わけではない。広大な中国では、今年も「夏の風物詩」として、ザリガニ料理を好む人々はまだまだ多い。
その影響は日本にも及び、日本の「ガチ中華」といわれる中華料理店でも提供される機会が増えるなど、日本にまで中国のザリガニブームはやってきている。
だが、味のバリエーションがあまり多くなく、大人数で食事することも難しいコロナ禍の今、トレンド・リーダーである若者の心が、ザリガニから少しずつ離れ始めたことは確かだ。
とにかくトレンドの移り変わりが激しい中国なので、もしかしたら、数年後には「あのザリガニブームは、一体何だったのか……」となっている可能性もある。