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「上海人の忍耐はもう限界にきている……」 疲弊する上海市民の気持ちを沈ませるSNS投稿の削除

中島恵ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

「また投稿が削除されていた……」「いつ削除されるかわからない……」

「あの文章は多くの人に読んでほしい。急いでスクリーンショットで保存しておいて!」

こんな言葉が上海市民の間で飛び交っている。

SNS上にロックダウンの悲惨な状況を投稿したり、誰かが書いた「真実」の文章をシェアしたりすると、「違反」だとして検閲を受け、次々と削除されるという現象が起きているのだ。

むろん、情報統制されている中国では、これまでもこのようなことは起きていたが、削除される内容は、自分たちの町で起きている身近な問題というよりは、国際的な人権問題や政治問題などのほうが多かった。

「以前はここまで多くなかった。今回は投稿から削除までのスピードが速い」と話す上海人もいる。

私自身も、あとで読もうと思っていた記事が、再度開いたときには削除されていて、以下のような表示に切り替わり、閲覧できないことが何度かあった。

削除されると、このような表示になる(筆者によるスクリーンショット)
削除されると、このような表示になる(筆者によるスクリーンショット)

つまり今、厳しいロックダウン下にある上海では、それくらい政府にとって都合の悪い情報が次々と流れているということであり、言論が抑え込まれているということだろう。

食料不足を訴えただけなのに……

都合の悪い情報とは、深刻な食料不足、コロナ以外の病気で救急搬送してもらえず亡くなった人の家族の訴え、自殺、暴行事件や住民間のトラブルなどだ。

4月8日に拡散された文章はとくに印象深かった。冒頭に「求救(助けて!)」と書かれている文章だったが、とても冷静で、かつ鬼気迫る内容だった。

その人は封鎖されてからその時点で22日目。これまでに3回の配給があったが、それではまったく足りないと書いてあり、「1万歩譲って、上海の人口の99%の人に物資が行き渡っていたとしましょう。でも、1%の25万人が食べられずにとても困っているのです。この文章を拡散してください」というようなことが書かれていた。

だが、投稿から数時間後に削除され、その文章は保存しておいた人以外、見られなくなってしまった。

以降、これは多くの人が閲覧すべき重要な内容だ、と思う文章は、スクリーンショットする人がこれまで以上に増えた。

自殺も増えている

4月14日に回ってきた文章には、5歳の娘と妻を残してガン患者だった夫が亡くなった話が書かれていた。救急病院はPCR検査のため閉まっており、別の病院へ行ったが、結局死亡したことを妻が切々と訴えていた。

生後14日目の赤ちゃんが、感染した父母と引き離された話、隔離施設が暴風雨で雨漏りして感染者のベッドが水浸しになった話なども多数出回っている。

同じ4月14日、動画でも拡散されたのは上海市の衛生健康委員会の幹部が首つり自殺したというショッキングな話だった。ロックダウン下で強いプレッシャーを感じており、事務所で自殺したという。

他にも、配送の件で、SNS上で猛烈な批判を浴びたことを苦にして、7歳の子どもを残して自殺した女性など、自殺数も増えている。

さらに、80代の妻が感染して病院に入院したが、90代の夫は持病があり自分一人でベッドから起き上がることさえできない。このような状況で死を待つしかないのか、と娘が訴えている文章など、悲惨な現状を訴える内容はあまりにも多すぎて数えきれない。

中でも、現状を訴えるだけでなく、政府の責任を厳しく追及したり、「これは政府による人災だ」と強く訴えたりする投稿などは、削除される可能性が高い。

投稿の多くの最後は、次のような言葉で結ばれている。

「これは本当に2022年の春、この中国で最も発展している大都市、上海で起きていることなのだろうか?」

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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