配達員がおもわず涙・・・デリバリー大国・中国での心温まる出来事

中国各地を走るデリバリーのバイク(筆者撮影)

 4月27日、中国のSNSやニュースサイトで、ある動画が大きな話題を呼んだ。それは武漢で働くデリバリーの配達員の身に実際に起きた出来事だった。

 ある日、ケーキショップから配達する商品を受け取ろうと店にやってきた男性配達員は、注文書の備考欄に目が留まり、思わずその場に立ち尽くした。男性は何度もケーキショップの店員に確認してみたが、間違いないという。そこには、注文書の受取人として自分の名前が書いてあったのだ。

 備考欄には「このケーキは配達員さんへのプレゼントです。毎日お疲れさま。身体にはくれぐれも気をつけてくださいね」というメッセージが書かれていた。配達員の目は見る見るうちに涙で潤んだ。なぜなら、その日は配達員の誕生日だったからだ。

 その後、配達員は店の外の石段に座って、そっと箱を開け、中に入っているケーキを一口ずつ味わいながら食べた。食べているうちに涙が次から次へとあふれてきた。

 こんな内容だ。実際の動画を見ると、石段に座る男性は手に小さなケーキを持ち、そのケーキにはロウソクに灯った小さな炎が見える。ケーキショップの店員がつけてくれたものだろうか。ヘルメットを被った男性の表情はよく見えないが、ほほの涙を手で拭っているようにも見える。

ロウソクを灯したケーキを手に持つ配達員(人民網より引用
ロウソクを灯したケーキを手に持つ配達員(人民網より引用

 この動画を見た人々はSNSに「見ているこっちも泣けてくる」「いい話。お誕生日おめでとう!」「新型コロナの影響で配達の量が多くなって、本当に大変だったよね。配達員さん、ありがとう。そして、お誕生日も、私たちのために働いてくれてありがとう!」というコメントを書き込んだ。

 中国のニュースサイト「人民網」によると、昨今、以前にも増して過酷な労働条件で配達を続ける配達員に対して、感謝する人々が増えており、中にはこの男性が受けたように、注文者が配達員のために料理を注文するケースもあるという。

 記事には、実際の注文書の写真もあり、「配達のお兄さん、この料理のうち1つはお兄さんの分です。どうぞ召し上がってください」と書いてあった。

デリバリーは中国人の日常生活の一部

 中国は世界一のデリバリー大国だ。2019年のデリバリー産業の規模は約6000億元(約9兆6000億円)に上る。主要なデリバリー企業は「美団」(メイトワン)と「餓了ma」(ウーラマ)という2社だ。料理だけでなく、日用品や生鮮食料品、雑貨など何でもデリバリーで購入できる。

 日本でもピザや寿司などをウーバーイーツや出前館などで注文したり、直接、飲食店に注文して配達してもらうことはあるが、ほとんど毎日デリバリーを頼んでいる、という人はかなり少ないだろう。

 しかし、中国では、そもそもデリバリーの概念が違うと思うほど、デリバリーは日常生活の一部になっている。毎日のようにコーヒー1杯をデリバリーで注文するという人も山ほどいるし、深夜12時に小腹が空いたからワンタンを頼む、ペットのエサが切れたから注文する、ということも、どの家庭でも頻繁に行っている。

 そんな中、新型コロナウイルスの感染が拡大し、厳しい外出制限を受けた人々は、デリバリーがより一層、生活のインフラとなり、数少ない楽しみとなった。

 私のある友人夫婦は、北京から有名なお菓子を、山東省から新鮮野菜を、雲南省からキノコを取り寄せるなどして、巣ごもり生活をなんとか過ごすことができた、と話していた。驚くことに、広大な中国だが、数百キロも離れた遠方でも、2日もあれば、たいていの商品が配達されるという。むろん、近場のレストランで注文した料理は30分ほどで届く。

 あまりにも便利なので、みんな気軽に使ってしまうのだが、その分、配達要員の負担は重くなっていて、交通事故などの社会問題も起きている。

 配達員には専業もいれば、アルバイトもいる。大都市の配達員の多くは20~30代の若い男性で、地方出身者だ。給料は歩合制なので一概にいえないが、生活に余裕のある人は少ない。朝から晩まで、雨の日も風の日も、コロナの心配があっても、1日中バイクを走らせ、1分1秒を惜しんで店と配達先を往復する日々を送る。しかも、日本でも最近はコロナ禍でトラブルが起き始めているように、中国でも、注文者から配達員へ心ない言葉を投げかけられることも少なくない。

配達員への感謝の気持ちも

 だが、中国の場合、今、バイクがどのあたりを走っているかをアプリ上でチェックすることができる上、注文者と配達員は直接、SNSのチャットでやりとりできる。そこで「まだなの?」や「渋滞して少し遅れそうです」などの会話も可能。そして「ありがとうね!」などのコメントも書き込めるので、自然と親近感も沸く。

 便利な機能があることにより、配達員と顧客との心理的な距離は日本よりも近い。そうしたこともあり、冒頭のような配達員へのプレゼント、という粋な計らいが生まれたのかもしれない。

 新型コロナウイルスによって、医療従事者だけでなく、自分の今の生活は多くの人々によって支えられている、ということを中国の人々も知ったとすれば、災いの中にほんの少しだけいいこともあった、といえるだろう。