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春節なのになぜ帰省しない? 春節恐怖症に陥る中国人のホンネ

中島恵ジャーナリスト
帰省で大混雑する中国のターミナル駅(写真:ロイター/アフロ)

春節を迎えた中国各地はお祝いムードに沸いている。各家庭では、昨夜は「年夜飯」という大みそかのごちそうを家族で食べ、中国版のSNS、ウィーチャットでは年賀の挨拶状や紅包(お年玉)が飛び交った。

ところが、春節なのになぜか故郷に帰らない、という中国人もいる。日本など海外に住んでいる中国人ならば「仕事があるから……」と言い訳もできるが、中国国内に住んでいるのに、帰省しないのはなぜだろうか?

親からの結婚のプレッシャーに耐えられない…

上海に住む20代の男性会社員は、苦しい胸の内をこう語る。

「昨年は帰省したのですが、今年は仕事を口実にして、取りやめました。なぜかというと、福建省に住む両親から、結婚、結婚とプレッシャーをかけられるから。もう28歳になるので、そういわれるのはわかるのですが、上海では日本と同様、28歳でも結婚していない人は大勢います。自分ももっと遊びたいし、仕事も大変。帰省しない自分は、中国的にいうと大変な親不孝者なんですが、なんとかプレッシャーから逃れたい気持ちでいっぱいなんです……」

田舎に住む彼の両親は50代後半。中国の古い世代の価値観では、結婚と出産は何よりの親孝行だ。親戚も大勢いて「結婚」「結婚」の大合唱だ。都市に住む若者との世代間の意識のギャップは大きく、彼のように板挟みに苦しむ若者は中国には非常に多い。

帰省の長距離移動を想像しただけでクラクラ

北京に住む25歳の女性も帰省を嫌がるひとり。彼女の場合「おみやげをたくさん買っていかなくてはいけないので、とても苦痛。最近ではネットで買って、田舎に送付することもできますが、この出費がバカになりません。ボーナスが吹き飛びます」とこぼす。その上「鉄道も飛行機もものすごく混むんですよ。風邪でせき込んでいる人や、ものすごくうるさい人、大量の荷物と着ぶくれした子どもや赤ちゃんの泣き声……帰省の移動を想像するだけで、頭がクラクラしますよ」と話していた。

彼女の場合、鉄道でも飛行機でも、どちらでも移動できる中距離の帰省だが「どちらで帰っても、帰省チケットの予約は争奪戦。春節過ぎてからの帰省なら、ぐっと安くなるのですが、大みそかの夜には実家にいなければならないので、ずらして取ることができないんです」と、半ば泣き顔だった。彼女も、帰省を取りやめたひとりだ。

「春節恐怖症」に陥っていたが、今年は思い切って帰省した、というのは日本に住む友人の中国人男性(50代)だ。

その男性の帰省はなんと6年ぶりだ。距離が遠く、日本では春節は関係ないのを口実に、春節の帰省をずっと避け続けてきたが「母親が高齢なので、思い切って帰ることにしました」と肩を落としていた。

おみやげ代だけで60万円も!

なぜ肩を落とすかというと、問題は帰省に必要な費用が高額なことだ。彼のおみやげリストを見せてもらったが、母親、妻の両親、弟や妹の家族、親戚に渡す家電製品や靴、化粧品、日本円の現金など、総額60万円ほどだった。それ以外にも、帰省中にホテルで親戚一同で食事する際には「自分は長男だし、日頃ご無沙汰しているから、全部の食事代を払うことになるでしょうね。今の中国では10人でごちそうを食べたらいくらになるのか……頭が痛いです」と苦笑いしていた。

春節を一家で祝うことは中国の伝統行事だ。だが、メンツを重んじる中国人の間では「気持ち程度の手みやげ」は許されない。豪華なおみやげや、こちらの記事に書いたようにお年玉も用意する必要があり、春節の帰省は日本人以上に大変なイベントになっているのである。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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