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外国人留学生による、日本企業へのユニークな“逆プレゼンテーション大会”が実施

中島恵ジャーナリスト
手書きの資料を使ってプレゼンする中国人留学生

2015年春の採用に向けた企業説明会が12月1日に解禁となったばかりだが、このほど東京都内で、就活に関するユニークな催しが行われた。通常の企業説明会とは異なり留学生限定で、学生1人につき1ブースを用意し、そこを企業の人事担当者が回るという逆バージョンの説明会だ。

名づけて、「外国人留学生 逆プレゼンテーション大会&企業合同説明会」。主催したのは、企業の新卒採用をサポートするアウトソーシングなどで定評のある日本データビジョン(東京・九段)だ。

同社は、09年以降、ハイレベル層に的を絞った外国人留学生の新卒採用に力を入れており、同様の催しは今回で11回目となる。現在、日本に住む外国人留学生は約13万8000人に上るが、その中で、大学や大学院を卒業後も日本に残り、日本企業で働きたいと希望する留学生は2万人以上いるといわれている。以前は日本語力や情報収集力などの面で不利となることもあったが、グローバル化する企業にとって必要で、有能な人材も非常に多い。同社国際人財グループの高鵬氏は「企業の外国人留学生採用ニーズを喚起するために始めたが、毎年続けていることから着実に採用につながり、成果が出ている」と話している。

早速、会場に足を運んで見ると、元気のいい留学生たちの挨拶の声が響いてきた。プレゼン大会は、留学生がA、B、C、Dの4つのブースで自己PRを行うという形態で、1人あたりのプレゼンテーションの持ち時間は6分間。留学生は約4カ月かけて完成させた手書きのプレゼン資料を手に持って、来日のきっかけや自分が日本の大学で学んでいること、自分の強み、将来やりたいことなどを自分の言葉で簡潔にアピールする。その後、企業担当者から質疑応答を受けるという形だ。今回は外国人採用に積極的な11社が参加。いくつかのブースを回ってみた。

中国の大学で音楽を専攻したという学生は、中国で2000人を集客してコンサートを成功させた実績をアピール。チャレンジ精神と目標達成の粘り強さを説明し、「グローバルに活躍できるビジネスマンになりたい。営業職に興味がある」と語った。別の女子学生は自分を人懐っこい明るい性格だと分析。家電量販店で掃除機の販売のアルバイトを通して接客と会話術を学んだといい、「新規開拓をやってみたい」と話していた。

中国の大学で日本語を学び、一旦は広東省の日系自動車メーカー系列の工場に2年間勤め、そこで製造工場の班長たちに日本語を教えていた経験をアピールした女子学生は、「もっと自分の日本語力を伸ばし、経験を積みたいと思って来日した。ぜひ、これまで学んだことを日本で仕事に生かしたい」と笑顔で語っていた。

これらに対し、企業の担当者からは「具体的にはどんな職種をやってみたいですか」や「日系企業で自分のどんな能力が役立つと思いますか」、「(中国人学生に対し)転勤は中国以外の国でもOKですか?」などの熱心な質問が飛び交っていた。午前中のプレゼン大会に引き続き、昼には留学生と企業担当者との交流会や名刺交換会、午後からは200~300名の留学生も加わって企業合同説明会が行われた。

留学生の話を熱心に聞く企業担当者
留学生の話を熱心に聞く企業担当者

前出の高氏によると、プレゼン大会に参加する留学生は面接などで審査して決めており、申し込んだ学生すべてが参加できるわけではないという。学生にとっては、自己分析して頭を整理するだけでなく、自己の強みをどのようにアウトプットしていったらよいかをじっくり考えるよい機会になっている。パワーポイントではなく、手書きのプレゼン資料にこだわるのは、自分の思いを込めることと、プレゼンの際の道標とするためだ。ときには緊張して頭が真っ白になる学生でも、自分で画用紙をめくることで心を落ち着かせ、紙があれば話す内容を忘れることがない。企業の担当者側もイラストや手書きの文字にその学生の人間性を垣間見ることができる。

留学生同士の「差別化」も必要

留学生にとって日本での就活では「日本人との違い」をアピールするだけではなく、留学生同士の「差別化」もすることが必要だ。高氏は、「彼らが、自分自身にしかしかいえない話をどのようにまとめ、どのようにアピールするかが大事」だと語る。

高氏自身も山東省出身の元留学生であるだけに、現在の留学生たちの苦労がよくわかる。親身な指導は留学生の間で評判を呼び、「先輩の紹介やクチコミでプレゼン大会の存在を知る留学生が増えてきた。最近ではプレゼン大会に出た3人に1人が参加企業からの内定を得るようになった。プレゼンの練習を何度も積み重ねることで、自分の強みを自覚し、自信をつけていく学生が多い。人前に出てもあがらなくなるようだ。その結果、他社に内定をもらうケースも増えてきた」(高氏)と話している。

今回、同社の逆プレゼン大会に参加した外国人留学生は全部で48名。そのうち中国人は8割ほどを占める。厳しい日中関係が続いている中でも、日本企業で働きたいと熱望する学生は多い。実際、13年春に日本企業に就職した外国人留学生は前年より2000人以上多い約11000人で、09年に次ぐ高い水準だという。政治的には近隣諸国と緊張関係が続いている日本だが、日本企業にとってグローバル化は死活問題であり、避けられない道。国内市場の縮小を考えれば、優秀な外国人社員の確保は今後も増え続けていくといえるだろう。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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