中高年受難の時代に、人生を豊かにする働き方とは

新しい働き方を始めるのに、40代、50代、60代でも遅くはない(写真:アフロ)

大手企業で定年を撤廃する流れが鮮明に

 2018年の時点で、法定の65歳を超えて希望者を再雇用する企業は、全体の27.6%にとどまっています。ところが少子高齢化を乗り越えるためには、年金の支給開始年齢を65歳からさらに引き上げなければならないので、その事前策として企業の雇用義務が2020年代前半には70歳へと延長されていく流れができあがってくるでしょう。

 政府は人生100年時代の到来を見据えて、定年後の継続雇用を70歳まで引き上げる「高年齢者雇用安定法」の改正案を2020年の通常国会に提出する予定です。企業が努力義務として取り組まなければならないのは、70歳まで定年を延長するだけではなく、定年後の他の企業への再就職なども実現できるようにすることです。

 当初は負担が増える企業の反発を抑えるために、70歳までの雇用は「努力義務」にするということですが、その後5年以内には法律で強制される義務化になることが既定路線だといえるでしょう。

 この動きの一歩先を行っている大手企業のなかには、すでに定年を撤廃したところも散見されます。たとえば、大和証券グループ本社は2013年に営業職の社員を70歳まで継続雇用する制度を整えましたが、さらに2017年には営業職を対象に定年制度を撤廃しています。ファンケルも2018年、契約社員とパート社員を対象に、無期限に雇用継続ができる制度を導入し、生涯現役の時代が近づいていることを予感させます。

 2020年代にはこれらの企業を後追いするように、多くの企業が雇用継続できる年齢を大胆に引き上げていくことになるでしょう。

長生きのリスクに備えた動き

 実際のところ、高齢者の間でも定年後に長く働きたいという人々が増え続けています。内閣府が2018年に行った調査によれば、65~69歳の高齢者の65%は65歳を超えても働きたいと希望しています。現実に、この年齢層で2018年に就業している人の割合は46.6%と、10年前と比べて10.4ポイントも上昇しているのです。

 人口減少社会が始まって10年になろうとしているなか、2018年の就業者数は6664万人と過去最高を更新しています。過去10年間に増えた就業者数のうち、年齢別では65歳以上の高齢者が54.6%増と高い伸びを示しているのは、年金の受給開始年齢の引き上げや、寿命の延びに応じた老後資金の増加に対応するためです。

 世間を騒がせた金融庁の「老後資金が2000万円不足する」という報告書でも述べられているように、国民の間では長生きによって老後資金が底をつくリスクが強く意識されるようになっています。90歳まで生きる人の割合は1990年時点で男性12%、女性26%でしたが、2018年にはそれぞれ27%、51%とほぼ倍増しているからです。長生きする確率が上がっていることを考えれば、1年あたりで取り崩すことができる金融資産は確実に減っているのです。

2020年代に定年は70歳になる

 政府は年金制度の維持という点からも、70歳まで働く人を後押しするということです。厚生労働省の新たな方針では、70歳を超えてからでも公的年金の受け取りを開始できるようになるといいます。70歳を超えた受け取りを選択した人には受給額を大きく積み増し、老後資金を確保しやすくする制度を考えているというのです。同省が2018年に公表した試算によると、70歳で厚生年金を受け取り始めるケースでは、「サラリーマンの夫と専業主婦のモデル世帯」は月額33万円の年金を受け取ることになり、65歳からの22万円に比べて月額11万円も多いといいます。

 ただし、厚生労働省がいつも示している「サラリーマンの夫と専業主婦のモデル世帯」が標準的な世帯といえるかというと、実態とは大きな乖離が生じています。2018年の時点で、専業主婦のいる世帯は12%程度にすぎず、共働き世帯の26%程度や単身世帯の35%程度を下回っているのです。将来の人口動態から推計すれば、2030年には単身世帯が38%となり、共働きは30%を超え、専業主婦のいる世帯は10%を下回っているでしょう。

 高度成長期とは世帯の構成が大きく変化しているという現実を踏まえて、新しいモデルの試算が求められているように思います。2018年の生産年齢人口は7545万1000人、総人口に占める割合は59.7%となり、1950年以来で最低を更新しています。2030年には6875万4000人(2018年比669万7000人減)、2040年には5977万7000人(同1567万4000人減)、2050年には5275万人(同2270万1000人減)と、足元から3割減少していく見通しです。

 国や政府・経済・社会の要請から2020年代前半に定年は70歳になり、就業したい高齢者の数はさらに増え、その就業者数も増え続けていくことが不可避なのです。

最終的に定年は何歳まで上がるのか

 先ほども述べましたように、政府は65歳までの雇用を企業に義務づけている高年齢者雇用安定法を改正し、当面は70歳までの就業機会が確保される社会づくりを目指す方針です。今のうちは70歳までの雇用を「努力義務」とする形を取っていますが、通常のシナリオでは2020年代半ばまでにはさらに法律を改正し、「努力」の文字が取れて「義務」になるのは既定路線といえます。

 政府の最終的な目標は75歳定年が当たり前の社会に持っていくことでしょうが、私はおそらく2030年代に入る前には、75歳までの雇用を「努力義務」とする考えが示されることになると見ています。その後は70歳の時と同じように、75歳までの雇用の「努力義務」から「義務」への流れとなるのではないでしょうか。厚生労働省はおよそ10年後のスケジュールの環境整備として、年金の受給開始年齢を75歳に遅らせることを検討し始めているといいます。

 今のところ、65歳以降に受給を遅らせる現行制度の利用者はわずか1%にすぎません。その利用率の少なさは保険料を長年にわたり支払ったのに、年金を受け取らずに亡くなれば大損してしまうという心理からも理解することができます。それに加えて、現在は年金をもらい始める年齢を60~70歳の間の何歳からにしても、受給者が平均寿命まで生きた場合に受け取る年金の総額は変わらないように設計されています。基準となる65歳の支給額(=基準額)を100%とすると、60歳に早めた場合は支給率が70%まで下がり、70歳に遅らせた場合は支給率が142%まで上がる計算になっているのです。

 このような制度設計では、受給開始年齢を遅らせるメリットはあまりありません。厚生労働省は75歳まで働く社会を実現するために、まずは受給を遅らせる人の数を大幅に増やそうとしています。その有効な手段として、受給する年金額が基準額を目に見えて上回るというインセンティブをつける方針を固めています。将来的には75歳まで遅らせる場合、その支給率を基準額から200%程度まで増やす方向で検討を進めているようです。このケースでは、86歳まで生きれば得をする計算になり、メリットを強調することができるのです。

考え方次第で明るい見通し

 そのうえ、先ほども触れましたように、定年後も働きたい人々が増えています。2018年時点では、70歳以上の就業者の割合は13%にすぎなかったのですが、日本経済新聞をはじめメディアが行っている世論調査では、70歳を超えても働きたいと思っている人は全体の3割程度になっています。高齢者の雇用と年金のあり方が変わっていくことによって、高齢者にあたる世代の働きたい気持ちは今後ますます高まっていく情勢にあるでしょう。

 これから10~20年のスパンで見れば、政府は企業の雇用義務を75歳まで延長し、事実上の定年消滅=生涯雇用制度へのシフトが進んでいきます。平均寿命が延びたという恩恵を日本の経済・社会が十分に享受するためには、高齢者が今後も通用するスキルを用いて、あるいは、今後も通用するスキルを新たに取得して、活躍できる場所を主体的に探していくことが求められています。

 新たなスキルを身に付けるには50代や60代では遅いのではないかという意見があるかもしれませんが、新たにスキルを身に付ける時間は十分にあるという環境が整いつつあります。50代でも60代でも決して遅いということはないのです。

 経済のデジタル化が進む以前の世界であれば、ひとつのスキルを身に付けるのに10年ないし20年の時間を要するとされてきました。しかし今では、何をすればどんなスキルが身に付くのか、何をすれば短い期間で修得できるのか、デジタルの世界がITやAIを駆使して教えてくれるのです。

 本人にやるぞという心意気があれば、現役世代に劣るということは決してありません。これまでの仕事に対する価値観をがらっと変えて、やりがいを持って仕事をすることができれば、実りある人生を送ることができるはずです。これからの新しい働き方やスキルの取得法についてもっと詳しく知りたい方は、拙書『定年消滅時代をどう生きるか』(講談社現代新書)をご覧くださればと思います。