地方の会社が「鹿島アントラーズから学びたいこと」(後編)

鹿島アントラーズの経営は地方の会社経営のお手本になるだろう。(写真:アフロスポーツ)

アントラーズは「町おこし」で始まったチームだった

 前回の記事(前編)では、アントラーズが地方の会社経営のお手本となる秘訣として、デジタルを駆使しながらマーケティングに労力と時間をかけていることについて述べました。アントラーズの前年度の売り上げはクラブとして初めて70億円台に達し、今後は100億円を目指して会社と選手が一丸となって邁進しているそうです。

 アントラーズが発足した25年前には、そのような売り上げを伸ばそうという発想はまったくなかったといいます。親会社の住友金属(現在の日本製鉄)や鹿島臨海工業地帯に進出した企業の方針に従って、町おこしをしようと始まったクラブチームだったからです。そういう経緯があったため、アントラーズの経営陣は親会社や鹿島進出企業がしっかりとチームを支援してくれるだろうと思っていたというのです。

 ところが意外にも、Jリーグのクラブチームとしてスタートした直後から、親会社や鹿島進出企業が「イニシャルコスト(初期費用)は出すが、ランニングコスト(運営費用)は何とか自らで稼げるようになりなさい」と自立した経営を促されたといいます。他のJリーグのチームとは異なり初めから厳しい現実に直面し、それでは一生懸命稼ぐしかないだろうと腹をくくったということです。

アントラーズが生き残ることができたのは、強い危機意識があったからこそ

 これまでアントラーズの経営を支えてきたのは、25年ものあいだ常に「明日、つぶれるかもしれない」と考えながら、強い危機意識を持ってやってきたということです。商圏(マーケット)が他のチームと比べて圧倒的に小さいために、「つぶれないためには、勝つしかない」「勝つためには、何をなすべきか」といった思考回路のもとに、強いチームづくりと売り上げの伸びの両立を目標として運営されてきたのです。

 Jリーグが誕生した当時のクラブチーム(10チーム)は親会社の単なる広告・宣伝部門と見なされていたのですが、今でもJ1からJ3までの55チームのうち、経営的に親会社から自立できているチームはほとんどありません。日本のプロスポーツチームの経営はその親会社がある程度は補填して成り立っているので、そういった意味では、アントラーズは稀有な存在だったといえるでしょう。

 ただし、アントラーズと同じように町おこしで始めた小さなクラブの中には、今現在、しっかりと自立できているチームもあります。たとえば、J1に昇格して優勝を目指そうとしたりしなければ、運営にかかる規模や経費を縮小しながら、稼げる範囲でクラブ経営をすることは可能です。しかし、Jリーグの発足時は1リーグ10チームしかなかったこともあり、当時は縮小均衡という状況は考えられなかったといいます。

技術の進歩に合わせて、時代の変化に敏感にならなければならない

 携帯電話(スマートフォン)の世界では、あと数年のうちに第5世代移動通信システム(5G)が普及し始めるといわれていますが、それは携帯の通信システムが第4世代から第5世代に変化するまでに10年程度しかかからない計算になります。人間の世代が1つ変わるのに30年程度かかるのと比べて、デジタル通信は10年程度で1世代進むのだから、アントラーズの経営も同じ早さで進化していかなければ、世の中の変化のスピードについていけなくなるという緊迫感を持っているといいます。

 その一方で、今の経営陣がいくら頑張ったとしても10年後~20年後には誰もいなくなるので、会社に新しい人材を次々と入れて成長させていかなければ、遅かれ早かれビジネスの現場では後れを取ってしまいます。時代の変化に敏感になっていなければ、その変化に気づいた時に適応しようとしても、すでに手遅れになってしまうという危機意識も持っているといいます。

 アントラーズの経営陣は、サッカーにかぎらずプロスポーツはエンターテインメント・ビジネスかつコンシューマー・ビジネスの中心にいると自覚しています。だからこそ、アントラーズが嫌いになったといわれないように、顧客のニーズに対して絶えず手抜きをするわけにはいかないというのです。プロスポーツチームはデジタル戦略で顧客のニーズに鋭敏に対応しながら、ビジネスのやり方を変化させていく必要があるというわけです。

会社経営は10年後、20年後を予測して取り組まなければならない

 私は、会社の経営者は10年あるいは20年スパンで未来を予測して対応していかねばならないと思っています。とりわけ地方の会社経営者は10年後や20年後に人口が具体的にどれだけ減るのかということを意識しながら、戦略的に事業を縮小して利益が出やすい体質に変えていかなければなりません。今からそういった備えを怠れば、地方の会社が生き残ることは難しいのではないでしょうか。

 それに加えて私は、アントラーズが会社としていつも考えているように、10年後の顧客の変化を予想しなければこれからビジネスはできないという意識が欠かせないと考えています。10年後の社会はどう変わっているのだろうか、10年後の顧客のライフスタイルはどう変わっているだろうか予測をしながら、今から少しずつ準備をしていかなければならないのです。

 アントラーズの鈴木秀樹取締役事業部長は社員たちに対して「その仕事をやることによって、10年後はどうなっているの?」という問いかけをいつもしているそうですが、考えることができる社員はきちんと考えていて、「10年後はこうなるから、今はこの仕事をやるのです」と答えてくれるといいます。それは、社員の中でも「変化に気づいてから対応しても遅すぎるだろう」という考えが共有されていることを示しています。

人口減少社会に対応した「縮む戦略」の有効性

 アントラーズが将来を見据えて成し遂げたいのは、カシマスタジアムの収容能力を現在の4万人から2万5000人に大幅に落としたいということです。2002年に日韓ワールドカップがすでに開催され、2020年に東京オリンピックが終わった後は、ワールドカップやオリンピックに適応できる収容能力は維持する必要がないと考えているというのです。

 アントラーズの構想では、最大利益を得るための適正な収容能力は2万5000人であり、そのうち5000人分をスイートボックス(いわゆるVIP席)にしたいということです。ヨーロッパでは2割のエグゼクティブの入場料収入が全体の収入の8割を占めるという手法が成り立っていることを鑑みれば、スイートボックスを5000席にすることで収益は今よりもずっと上がるといいます。

 私もその考え方には大いに賛成です。人口減少社会に備えて戦略的に縮小していくと同時に、付加価値が高いスイートボックスを増やすことで収益力が高まるというのは、感覚的に正しいと思っています。ただし、私がスイートボックスで観戦した経験からいえば、スイートボックスはもっと豪華なつくりにして、茨城だけでなく首都圏の経営者たちが集まるサロンみたいな場所にしたらおもしろいだろうと思い描いています。

地方の会社経営はアントラーズを参考にしよう

 鹿島アントラーズの運営が上手くいっている理由について、前編と後編の2回にわたって述べてきましたが、これは人口減少が加速している地方の会社経営にとって非常に重要な内容であります。今回のお話の内容が地方の経営者の心に響いて行動を起こすきっかけになってもらえれば幸いであると思っています。

(※今回の記事は、鹿島アントラーズの鈴木秀樹取締役事業部長と対談した内容をまとめたものです。前編はこちらからご覧になれます。)