日本一の大企業・トヨタであっても、20年後が安泰ではないわけとは

豊田章男社長の危機意識に期待したい(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

自動車の持っている「価値」が破壊される理由とは

 前回の記事「電気自動車が普及すると、日本とドイツの経済が苦しくなるわけとは」では、汎用品に近い電気自動車が普及すればするほど、とりわけ産業構造ピラミッドがしっかりした日本やドイツのメーカーは雇用を保つのが苦しくなるという理由を説明いたしました。

 しかし、日本やドイツのメーカーにかぎらず、世界の自動車メーカーにとって厄介なのは、電気自動車の普及によって雇用が大幅に減るということだけではありません。ライバルは既存の自動車メーカーだけではなくなったからです。グーグル(アルファベット)やアップル、アマゾンなどの巨大IT企業とも、これまでとは次元が違う競争をしていかなければならないのです。

 自動車には「所有する価値」「移動する価値」「趣味的な価値」の3つがあるとされていますが、巨大IT企業の狙いは、デジタル技術を武器に新たに「共有する価値」を生み出すと同時に「所有する価値」「趣味的な価値」を廃れさせることによって、高収益をあげるビジネスモデルをつくりあげるということです。多くの産業では今や、ITやAIの技術革新を土台にして、既存の産業を脅かすイノベーションが生まれやすい状況にあるというわけです。

自動車メーカーに厳しい未来が待ち受けている理由とは

 電気自動車はパソコンに近くITやAIの技術との親和性が高いので、所有を減らすことにつながるシェアリング(共有)経済に拍車をかける起爆剤になると考えられています。電気自動車はインターネットに常時つながり、シェアリングサービスを通して、「所有」から「共有」「利用」へと価値のベースが移っていくというのです。

 さらにシェアリングサービスは、自動車そのもののシェアリング(カーシェアリング)だけではなく、乗ることのシェアリング(ライドシェアリング=相乗り)という副次的な価値も生み出しています。自動車の稼働時間は1日のうちのわずかであるという理由から、カーシェアリングやライドシェアリングで事足りるという考えの人々が多数になれば、世界の自動車メーカーの経営環境は厳しい未来を免れることができないでしょう。

 実際のところ、世界中で若い世代を中心に、モノの所有欲が減退し、シェア経済が広がってきています。アメリカではリーマン・ショックの後遺症もあり、過去10年で「所有」より「利用」を選ぶ傾向がかなり強まってきています。日本でも近年、若い世代の消費行動が所有から利用へと変化してきているようです。彼らは物心がつく頃にはインターネットが普及した環境で育っていたので、買い物などあらゆることをネットで済ませるのに抵抗がなく、むしろそのほうが自然になっています。

自動車の販売が20年後には半分以下に落ち込む理由とは

 おまけに、自動車メーカーを脅かすイノベーションは、これだけにはとどまりません。グーグルの子会社ウェイモはこれまで既存の自動車メーカーと真っ向勝負で自動運転車の開発を進めてきましたが、自動運転車を使ったライドシェアリングの公道実験をアメリカで始めています。将来的には人件費がかからない低コストのライドシェアリングが実現し、一般の人々が自動車を所有する必要性がいっそう薄まっていくでしょう。

 自動車は「所有するもの」から「使いたい時に呼び出すもの」へという考え方が、先進国・新興国にかかわらず世界の主流になる時代がやってくるのです。運転手が不要になる自動運転車のライドシェアリングであれば、コストの大部分を占める人件費が不要になるため、既存のタクシー業界の運賃ではとても太刀打ちできなくなるでしょう。

 ボストンコンサルティングの予想によれば、2030年にはアメリカを走る自動車の4分の1が自動運転の電気自動車となり、そのほとんどがライドシェアリングに使われるということです。カーシェアリングやライドシェアリングの利用者が順調に増え続けていけば、先進国の自動車販売台数に大きな下押し圧力がかかるのは避けられず、20年後には新車販売台数は現在の半分以下に落ち込んでいるという事態も想定しなければなりません。

大企業だから安泰だという考えは幻想だ

 AIやIoTなど新たな技術革新が発達しつつあるなかで、自動車の概念や自動車を取り巻く社会構造が大きく変わっていくことは避けられそうにありません。世界屈指の自動車メーカーであるトヨタはもちろんのこと、日産やホンダといった日本の大手メーカーにいたっても、「電気自動車化」「シェアリング化」「自動運転化」という3つの大きな流れのなかで舵取りをたった一つ間違っただけでも、将来的に経営危機に陥ってしまう可能性が決して否定できない時代に入ってきているといえるわけです。

 このような時代の流れのなかでは、たとえ日本を代表する大企業であっても、20年後、30年後に存続しているという保証はどこにもありません。たとえば、トヨタが電気自動車の開発競争で敗れるようなことがあれば、20 年後、30年後には経営危機に陥っているかもしれないし、海外メーカーに吸収合併されているかもしれません。電気自動車、自動運転、シェアリング経済の進展によって、従来型の自動車産業の未来が決して安泰ではないことを示しているように、その他の業界でも同じような地殻変動が次々と起こる可能性が高まってきています。

 今のところ、誰もが将来も安泰だと思っている「就職希望ランキング」の上位企業、たとえば、ソニーやみずほフィナンシャルグループ、日本航空といった大企業が、これから起こる時代の大きな変化によっては、第二の東芝・第二のシャープになってしまっても何ら不思議なことではないというわけです。