地方創生はコマツに学べ

最新鋭の自動運転技術で整地すれば、畑にコメの種を撒くことができる

企業が農業の技術革新をもたらす好例とは

 前回の記事「日本が少子化を和らげる実証的な方法とは」では、2001年の社長就任時から地元回帰への旗を振ってきた建設機械大手コマツの坂根正弘・相談役のインタビューを通して、同社が進めてきた本社機能の地元石川への回帰が、少子化対策として見事に効果を上げているという実例を紹介いたしました。コマツの社内データによれば、石川勤務の30代の女性社員1人あたりの子供の数が、結婚率を踏まえると東京勤務の女性社員の3.4倍にもなっているというのです。

 さらに驚くべきは、コマツの地元回帰が少子化対策に効果を発揮しているだけでなく、従業員(退職者も含む)とその家族、および協力企業が一体となって、地方の活性化にも大いに寄与しているということです。当初は、坂根氏自身もコマツの地元回帰は一企業レベルの話にとどまると考えていたというのですが、今では地元の行政や学校、銀行、農協までも巻き込んで、地元を活気づけるさまざまな副次効果を生み出すまでになっているというのです。

 そのひとつが、コメづくりで技術革新を成し遂げているということです。そもそもの出発点は、石川の製造現場の社員には兼業農家が非常に多かったので、兼業農家の手伝いをしようという試みだったといいます。その試みがコマツの技術力を用いて地元の農業生産性を高めようとする取組みに発展していったのです。その結果、最新鋭の自動運転技術を使って整地すれば農地にコメの種を撒くことができるので、農家にとって重労働である田植えをしなくて済むということがわかってきたといいます。

 実際に、2年前から田植えのいらないコメづくりを始めると、今まで苗をつくっていたハウス設備が不要となったといいます。それでは、そのハウス設備を有効に利用しようという民間的な発想から、その場所で花を栽培するようになったというのです。1年を通して効率的に花をつくる順番を試行錯誤しているなかで、新しいアイデアとして、石川の工場で使われている地元白山の地下水を利用した省エネ技術が花の温室栽培にも使えるかどうかを試しているということです。農業とは畑違いのコマツが地方で農業の改善に関わっただけでも、これだけ次から次へとやるべきことが出てきているわけです。

 私がコマツの取り組みを見ていて思うのは、コマツに続いて他の大企業も自社技術と発想力を活かして地方の課題解決に取り組めば、地方は相応の活気を取り戻すことができるということです。たとえ派手さはなくても、地方でできることをひとつひとつ続けていくことによって、地方の行政や住民、学校、銀行、農協なども共鳴して活動してくれるようになるのです。これこそが、本当の意味での「地方創生」ではないでしょうか。

企業の地方回帰で健康寿命が延びるわけとは

 コマツでは60歳の定年後に再雇用という選択肢も設けていますが、石川の製造現場の社員のなかには再雇用を希望しない人も結構いるといいます。コマツの賃金体系は東京も石川も同等であるため、相対的に物価の安い石川のほうが貯蓄できるので、定年後に経済的な理由で働く必要がないからです。そのうえ、OB・OGは働く自分の子供たちに代わって孫の面倒を見てあげる余裕もあるので、子供たちも安心して孫を産む環境が整っているというのです。

 しかしながら、60歳で定年して孫の面倒を見ているだけでは、健康寿命が短くなってしまうという問題が生じてしまいます。だからコマツは、定年後の社員にやりがいを与える場所として、2011年に小松市に開設した同社の総合研修センターを有効に活用しようとしたというわけです。本来、研修センターは社員の教育をする場所ですが、地元の子供たちのために理科教室やモノづくり教室を開催するようにしたというのです。

小松市ではコマツの理科教室が小学5年生のカリキュラムに組み込まれている
小松市ではコマツの理科教室が小学5年生のカリキュラムに組み込まれている

 今では、小松市の小学校5年生のカリキュラムに「コマツの教室に行くこと」が組み込まれていて、約300名のOB・OGが「電気を起こすにはどうしたらよいか」「重いモノを少ない力で運ぶにはどうしたらよいか」など、小学校では習わない教材を小学生に対して教えるようになっているといいます。その結果、OB・OGの多くが「以前よりも病院に行かないようになった」といい、やりがいや教える喜びによって健康になったと自覚しているというのです。

 誰もが認めるように、高齢者にとって適度にからだを動かし、物事を考えることは、健康寿命を延ばすには必要不可欠です。とりわけ、教室で教えるだけでなく、教材を自らで考えるという行為は、社会問題化している認知症の予防にもとても効果的であるように思われます。いずれにしても、こうした企業の取り組みによって、子供の考える力を育てるばかりか、社会保障の膨張に歯止めをかけるという効果が経験的にわかってきているというわけです。

国民はコマツのような企業を応援すべき

 私はこういったコマツの取り組みがなぜクローズアップされないのかというと、やはりこの国を引っ張っている人たち、すなわち、大企業(経団連)や中央官庁、メディアなどに東京一極集中の恩恵を受けている人たちが多いからではないかと思っています。だからこそ、たとえ現状を変えるには何をしたらいいのか多少はわかっていたとしても、オピニオンリーダーたる彼らが動き出さなければ、少子化対策も地方創生もなかなか国民レベルの話には向かっていかないわけです。

 地方で幸せが循環するコマツの経営をお伺いして思ったのは、大企業の経営者はいま一度、地方に目を向けた経営、雇用を考えてみるべきではないだろうかということです。個人的な感情になりますが、私は「収益だけを追い求めて工場の海外移転を進める企業よりも、国内で踏ん張って少子化対策や地方創生を体現しているコマツに、日本国民として頑張ってもらいたい」と心から思っています。さらには、「利益の最大化」や「株主の利益」を追求する企業よりも、「国民の利益」「社員の利益」を大事にする企業に多くのファンができる時代が来るだろうとも考えています。

 坂根氏はインタビューの最後に、「私の後を引き継いだ野路國夫・会長がライフワークとして私以上に少子化対策や地方創生のリーダー役を果たしてくれているので、とても心強いと思っている」と述べていましたが、コマツのように国家の大計を考えて英断をできる企業が徐々にでも増えていけば、地方の疲弊は緩和することができ、少子化も改善の方向に向かうはずです。地方創生も成し遂げられるはずです。私は一人の国民として「コマツ、がんばれ!」と声を大にして応援し続けていきたいです。