「仕事の改善」に1ミリも役立たない「研修」が陥いる「3つの壁」

(写真:アフロ)

「仕事の改善」に役立つ研修を、どのようにつくったらいいのだろうか?

 僕の専門は「人材開発」です。人材開発研究の中で、注目されている研究領域のひとつに「研修転移(けんしゅうてんい)」という領域があります。

 研修転移とは、

    

 1.研修の中で学んだ知識やスキル」を仕事の現場で実践し、

 2.成果をだすことができ

 3.かつ、その効果が持続すること

  

 をいいます。

   

 研修転移は、企業の人材育成にとって「根幹に関わる大問題」です。

 研修で学んだことが仕事に役立てられないのだとしたら、研修の「存在証明」を疑われます。もし、学んだことが全く仕事に役立てられないのであれば、そもそも研修をする意味がありません。

 しかし・・・

 世の中には、さっぱり仕事の役に立っていない研修は36万件くらい存在しています(笑・・・泣)

   

 研修転移研究では、このことを非常に問題視しています。

 かくして「研修転移を高めるための要因(促進要因)」、あるいは、「研修転移の障害になるような要因(阻害要因)」に関する研究が、これまで過去30年にわたって行われてきました。

(我が国では、あまり研究が発達していません。わずかに「人材開発研究大全」(東京大学出版会)で論じられていますので、もしご興味がおありな方がいいらっしゃったら、図書館などでお読みいただければ幸いです・・・なにせ専門書なので分厚いです)

     

 一般に、研修で学んだことが実践されるためには、下記のように3つの壁があると思います。

  

 1.「記憶の壁」

 2.「実践の壁」

 3.「継続の壁」

  

 第一の「記憶の壁」は、端的に申し上げますと、「研修で学んだことが、なにひとつ記憶されてすらいない」ということにまつわる壁です。

 この壁は、あなたが、研修をする側からすると「ウソー!あんだけ言ったじゃん」と言いたくなるかもしれません。

   

 しかし、もしあなたが「学ぶ側」ならどうでしょう。

 あなたは、過去に研修で学んだ内容を、どれだけ記憶していますか?

 100回研修を受けていたとして、そのうち、どの程度を記憶しているでしょうか?

 おそらく5%以下なのではないか、と思います。

 これが「記憶の壁」です。

 人は、信じられないほど、忘れっぽい生き物なんですよ。

  

 だから研修転移を高めるためには、「研修の教え方」を工夫することです。ディスカッションや対話など、双方向性の高い研修を行い、参加者の「はらおち度」をあげていくことが重要です。講師が一方向で情報を「伝達」するような研修では、「話した内容」はほぼ「忘れ去られる運命」にあるでしょう。

 また、もし工数が許すのであれば、「研修が終わったあとのリマインド」が必須だと思います。大切なことは、何度もリマインドして、実践につなげることを支援しなくてはなりません。

  

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 第二の「実践の壁」は、「研修で学んだことを、本当にやってみるか、どうか」という壁です。

「やってみるか、どうか」というのは2つの意味があります。

「自らやってみようと思うか、どうか」という「参加者のモティべーションの問題」と、「やってみる機会が与えられるか、どうか」という「機会の問題」です。

  

 前者を高めるためには、研修の最後に「自己効力感」を高めることが重要です。別の言葉で申し上げますと、

   

 研修室のドアを出るときには、人は、やってみようという気持ちがあふれるかたちで出なくてはなりません

  

 あー、研修の最後に説教くらったよ。あー、ようやく終わった。これで、シャバに帰れる!

  

 じゃ、ダメなんです(笑)

  

 後者の「機会の問題」に関しては、参加者の上司がいかに研修に協力して、機会をつくってくれるかどうかに関わってきます。

 よく知られているように、研修の転移にもっとも影響を与える要因のひとつは、参加者の上司や同僚の態度やサポートであったりします。

 

 研修から帰ってきて、

「このクソ忙しいときに、どこに行ってたんだ? 研修だぁ?コルァ! 仕事しろ、仕事を!」

 と上司から言われるような状況では、研修で学んだことは役立てられないのです。「研修に行け」って言ったの、上司のアンタじゃなかったっけ(笑)。

 つまり、研修の効果は、上司によっても決まる、ということになります。

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 第三の「継続の壁」は、「実践を継続できるか、どうか」ということです。

 わたしも、そして、あなたも、人は「か弱き存在」です。一度はじめたことでも、実践し続けることができるのは、強い意志が必要です。

  

 これを高めるためには、研修を「2段構え」にする工夫が行われます。すなわち「1回目」と「2回目」をもうけて、そのあいだにインターバル(間隔)をもうけます。そして、このインターバル期間に、実践をしていただくわけです。2度目の研修では、実践後の成果を持ち寄るなどの工夫が行われます。

 要するに、「やらなくてはならない状況」を研修のデザインの中にいれてしまうということですね。

 工数はあがりますが・・・。

  

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 今日は研修転移のお話をいたしました。

 これを機会に、ぜひ、ご自身の研修を見直してみるのも一計かもしれません。

  

 あなたの周りには、仕事にさっぱり役立てられない研修がありませんか?

 あなたの研修は、「記憶・実践・継続の壁」を乗り越える工夫がなされていますか?

 

 研修転移の工夫がない研修は、おそらく、すべて「忘れ去られる運命」にある

 

 のだと思います。

 皆様の周囲は、いかがでしょうか?

 そして人生はつづく