「行き当たりばったりの業務アサイン」では、なぜ業務能力が伸びないのか!?

(写真:アフロ)

僕の研究分野は「人材開発」です。

人材開発では「人の業務能力を伸ばすこと」がめざされますが、その際、もっとも重要なのが「どんな業務経験を、能力を伸ばしたい本人に与えるか」ということになります。

業務の能力や、リーダーシップの能力は、決して「座学」だけでは伸びません。

人は仕事を通じて、能力を形成するのです。

というわけで、

リーダーシップの開発のためには、業務経験が重要である

業務能力を伸ばすためには、どのような業務経験を積ませるかが重要である

ということが言われます。

こうした考え方のことを「経験学習」といいます。

「経験学習」とはワンワードでいえば

「仕事の現場での、業務経験を通じた能力形成のこと」

をいいます。

基本になるのは

1.今の能力よりも、「プチ背伸び感のある仕事」を任せること【業務のアサイン】

2.仕事を終えたあとには、しっかりと「振り返り」をおこなうこと【振り返りの促進】

です。

おそらく、この10年間の人材マネジメント業界で、「経験学習」ほど人口に膾炙した言葉はありません。

もっとも基本的なこの考え方では、かつて海外MBAなどが非常に流行した際には、「仕事の現場で学ぶこと」はどちらというと、時代遅れのものとされたのです。

かくして、この10年は、原点回帰とも思える状態が生まれています。

プチ背伸び感のある仕事をいかに与えるのか?

いかに振り返りをうながすのか?

経験学習という言葉が、非常に注目され、人材マネジメント業界で消費されています。

しかし、「経験学習」という用語が流通することと、それが実際にシャバワールドで「実現すること」はイコールではありません。

魑魅魍魎・伏魔殿的なシャバワールドにおいて「経験学習を実現すること」はそれほど「容易」なことではないからです。

短期的には、経験学習を実現するためには、1on1ミーティング(上司ー部下間の週1程度のミーティング)などの「振り返りの場」をまわして、効率的に業務をアサインし、振り返ることが重要になります。

しかし、これは日々の雑事に忙殺されて、ともすれば「形骸化」しやすくなりますし、質がなかなかそろいません。

要するに

ペンペン草すらはえないような上司からは、「無茶ぶりとしか思えないクソ仕事」と、「しょうもない振り返り」しか生まれない

ということです。

短期的視野にたった場合の「経験学習の壁」とは、この「形骸化との闘い」であり、振り返りの「質の担保の闘い」です。

経験学習の促進にあたり、「中長期」にはどのようなことが重要になるでしょうか?

中長期な経験学習とは、「異動をつうじたキャリアのデザイン」に近くなります。

どのような業務経験を積ませ、どのような人材に育てるかという、個々人にあわせた「人づくりのビジョン」の構築と、それに向かった業務のアサイン(異動)が、とても大切になります。

しかし、一般的な人事異動やプロジェクトのアサインは、「現在」と「その次ぎ」は考えますが、それ以降や過去には無頓着です。

「今、あの人を、うちの職場から出すのはムリです(今現在)」

「そうですね、じゃあ、あの人はあそこにいってもらいましょうか(その次)」

ほら、考えているのは「現在」と「その次」でしょう?(笑)

経験学習のためには、本来ならば、「人づくりのビジョン」を本人とすり合わせたうえで、「その次の次」、できれば「その次の次の次」くらいまでは朧気ながらにも、本人をふくめ、イメージしておくことがとても大切です。

「今はこうだよね、この次は、この仕事でもいいけど、その次の次はどんなことしたい?」

「その次の次はこんな仕事をして、できれば、その次の次の次くらいには、こんなことをしていたいな」

要するに「自分が仕事を通じて、どのような専門性を高めていくか」を考えていかなくてはならないのです。

つまり「キャリアのデザイン」

しかし、一般に、こんなことは、本人をふくめ、誰も考えちゃーいません

なので、やおら、業務経験が非常に場当たり的で、分散したものをあてがわれることになります。

要するに「あそこに、人が足りないから行け」「あそこにポストがあいたから行け」ですね(笑)。

だから、あまり能力が伸びません。さらにはリーダー育成に困難が生じます。

もちろん、会社は「経験学習をうながす場」ではありませんし、「経験学習のために存在している」のでもありません。

会社は「利益」を生み出すために存在しています。

もちろん、現場には、本人の都合にあった仕事がいつもあるとは、限りません。

しかし、人は

「イメージできないもの」には、「なれない」のです

別の言葉で申しますと

「なりたいもの」がなければ、「なれない」のです。

僕が経験学習において「その次の次」や「その次の次の次」をイメージすることが重要だと思うのは、こういう理由です。

ちなみに、将来はもちろんのことですが、「過去」に関してもマネジメントは重要です。

皆さんは、自分がどんな業務経験を為してきたかを記憶していますか?

会社は、皆さんの業務経験や異動の記録をきちんと残していますか?

もっとも惨いパターンでは、過去の業務経験やプロジェクトへの参加の程度すらも、会社に残っていません。

もちろん、本人も多忙なので明瞭には覚えていません。

これでは「振り返り」ができませんし、「次の次」を考えることも困難になってきます。

多くの人々は、転職を考えるときになって、自分の業務経験を振り返ります。なぜなら、職務履歴書には、「自分が所属してきた部署名」ではなく「過去の業務経験の経歴」を書かなくてはならないからです。

組織の外において大切なのは「過去の業務経験の積み重ね」であって、「所属してきた部署名」ではありません。万が一のことも考えて、自分の業務経験をしっかりと覚えておきたいものです。

人材開発の専門書や教科書を読んでおりますと、

経験学習とは「経験」と「振り返り」

とよく書いてあります。

しかし、別の見方をすれば、

経験学習とは「その次の次」や「その次の次の次」をイメージしながら学ぶこと

です。

経験学習とは「過去の経験をしっかり記録すること」

と無縁ではありません

すなわち

経験学習とは「業務経験という歴史」による人材マネジメントである

ということです。

そういう視覚も可能であるならば持ち合わせていると、もしかすると効果的なマネジメントが可能になるかもしれません。

今日は、なぜか、大学の講義?っぽい話題になりました。

そして人生はつづく

(本記事は、中原の個人ブログ「NAKAHARA-LAB.NET」に掲載されていた記事を、加筆・修正したものです)