新入社員に「わからないことがあったら質問してね」と言っても、うまくいかない意外な理由!?

(写真:アフロ)

 先日、ある業界で、数百名の新人さんたちを教育なさっている方が、研究室にお越しになり、こんなことをおっしゃっていました。

「新人たちがよく口にする言葉というのがあるんですね。新入社員たちが頻繁に口にする言葉で、指導する側も、どうしていいかわからなくなるのは、"わからないことがわからない"です。何がわからないの、と聞いても、何がわからないのかがわからない・・・これじゃ、何をしていいか、わからなくなるのですね」

 本当にご苦労様です。

 数百名の新人を社会化する、というのは、本当に大変なことだと思います。そして、この言葉、同じ境遇におられる方で、「うーん、あるある」と思われた方は多いのではないでしょうか。

 先だっての会話で個人的にもっとも印象的だったのは、

 「わからないことがわからない」

 というワンワードでした。

 本当に「新人さんたちにとって、新たに参入した世界は、真っ暗闇。右も左も、何がなんだかわからない」んだろうな、と。

 だからこそ「質問できない」し、「聞くこともできない」のでだろうな、と。

   ▼

 この状況に似た状況で、ふと思い出してしまうのは、三宅なほみ先生(認知科学・故人)がかつてなさっていたご研究です。

 三宅先生がなさっていたご研究(Miyake 1978 To Ask a Question, One Must Know Enough to Know What Is Not Known. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior Vol.18(3) pp357-364)の論文の要旨とは、

 要するに

「わからないことを質問することができるようになるためには、そもそも、わかっている必要がある」

 と解釈できそうです。

 言葉を換えますと、

「わからない人は、わからないことを質問できない」

「質問をしてわかるためには、わかっている必要がある」

 ということです。

 

 新人は、表面的な質問ならできるかもしれないけれども、難しく本質的な問いを発することができない。

 なぜなら「わからない」から。

 対して、玄人さんは本質的な質問ができる。

 なぜなら、わかっているから。

 つまり、「わからないことを聞いてわかるようになる」という質問は、

 「個人の理解状況」に依存している、ということになります。

 新人は、右も左もわからない状態にあるので、何を質問してよいかわからない。

 つまりは「わからないことがわからない」。

 すなわち、その状況を言語化して、問いのかたちにして、わからないことをわかるようにすることは、今の段階ではできない。

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 わからないことが、わからない。

 新人は、新たな組織にエントリーした瞬間、「圧倒的な不確実性」に支配されます。

 「圧倒的な不確実性」とは、要するに「一寸先は闇」。別の言葉にすれば、「暗い洞窟」

 右も左もわかりません。

 そこはどんな役割を担うことが期待され、何が評価されるのかすら、わからない。

 また組織の暗黙の規範も、行き交う人々がどのような仕事をしているかもわからない。

 つまり、彼/彼女には、質問を可能にする「軸」が全くありません。

 質問をしたくても、それ自体が、そもそも難しいのです。

 なぜなら「わからない」から。

 一寸先すら闇だから

 しかし、にのごのいっても、社会人であるならば、その状況を何とか変えなくてはなりません。

 新入社員の方々が、このような状況下でなしうることは、おそらく、とにもかくにも、「自ら動くこと」であり、「環境に対して働きかけること」でしょう。その中で、わずかに得られる「人々からのフィードバック」を頼りにしつつ、環境の不確実性を自ら減少させ、よい質問をできるようになっていく必要があるのです。

 そうこうしているうちに、「わからない」ことが「わかる」ようになり、さらに質問することなどができるようになっていく。

 逆に、そうした新入社員の方々を支える側は、「新入社員はわからないことがわからないこと」を前提にして、彼らに対して、よき質問ができるように、様々なヒントや手がかりを与えていくことが求められます。

 人は、みな、誰しも「最初は初心者」です。

 フィードバックも手がかりもない環境で、わからないことをわかるようにしていくことは、残念ながら、非常に困難なことです。

 新たに外部から組織に参入するときには、多かれ少なかれ、そのようなプロセスを得るのかな、と思います。

 人は、みな、最初は「わからないことが、わからない」

 

 それで普通。

 それでいいのです。

 でも、問題はそこから一歩、いかに早く踏み出すかです。

 今は組織をよく知る立場にいる「あなた」も、以前、そのような状況を経験したことがあったのではないでしょうか?

 皆さんは、どのように「わからないことが、わからない」状況を脱することができましたか?

 「わからないことがわからない」状況からの脱出ストーリー、数百通りあったら、面白いですね。 

 そして人生は続く

(本記事は、中原の個人ブログ「NAKAHARA-LAB.NET」に掲載されていた記事を、加筆・修正したものです)

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