W杯開幕戦の相手ロシアに苦戦したジャパンの“今そこにある危機”!

先発10番に抜擢された松田力也。良いパフォーマンスが結果につながらなかった。(写真:アフロ)

 ジェイミー・ジョセフがラグビー日本代表ヘッドコーチ(HC)に就任して2年が経った。

 この間、ジャパンは、ファースト・ティアと呼ばれるヨーロッパのシックスネーションズ参加国=イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランド、フランス、イタリア及び、南半球のザ・ラグビーチャンピオンシップ参加国=ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、アルゼンチンといった、世界のラグビー強豪国のほとんどと対戦してきた。

 正確に記せば、南アフリカとは15年W杯初戦で対戦して以来対戦がなく(来年のW杯直前に試合が組まれるというウワサはある)、スコットランドとの対戦は就任前の16年6月だったから、10カ国中8カ国と対戦したことになる。

 そして、イタリアに今年6月、1勝1敗と星を分けた以外は、フランスと引き分けた試合を除いて全敗だ。

 なかにはウェールズを相手に30―33と善戦した試合もあったが、それも含めてジョセフ就任以来の強豪国との対戦成績は以下のようになる。

 16年秋→対アルゼンチン20―54、対ウェールズ30―33

 17年春→対アイルランド22―50/13―35、

 17年秋→対オーストラリア30―63、対フランス23―23

 18年春→対イタリア34―17/22―25

 18年秋→対ニュージーランド31―69、対イングランド15―35

 (ちなみに就任前のスコットランド戦は、13―26、16―21だった)

 要するに10試合戦って1勝8敗1引き分けという結果しか残せていないのだ。

“国難”を浮き彫りにしたロシア戦

 しかも、24日にはロシアに前半から圧倒され、終盤に辛くも勝ち越しトライを決めて32―27と勝利を収めたが、格上相手に通用しなかっただけではなく、格下(ロシアは世界ランキング19位、日本は11位)にも星を落としかけた。

 日本ラグビー協会が来年のW杯の目標として掲げる「ベスト8」が、とてつもなく高いハードルに思えるくらい、まったく結果が出ていないのだ。

 しかし、“ジェイミー流”に対する疑問は、こうしたコラムを除いてほとんど出てこない。いや、そもそも雇用主である日本協会が真剣に精査してHCを査定しなければならないにもかかわらず、この2年間、ラグビーの中身が検証された形跡はない。

 これだけ成果を上げていないにもかかわらず、HCの首がつながっているのは、おそらく日本のラグビー界が寛容だからだろう。サッカー界はもちろん、世界のどこの国のラグビー協会も、もっと厳しい目をHCに注いでいる。それだけW杯に勝つことを、真剣に願っているからだ。

 オールブラックスから5トライ奪った、イングランドに前半をリードした――と評価する向きもあるが、結果はダブルスコアの敗戦で、W杯本番で採用される勝ち点制に照らしても、ジャパンの勝ち点はゼロ。ロシアに勝って、ようやく4ポイントを獲得したが――そして、従来のポイント制にならえば4トライを挙げてボーナスポイントも獲得したが――スーパーラグビーや日本のトップリーグで採用されているポイント制では、トライ数4―2でボーナスポイントを獲得できていない。

 ロシア、アイルランド、サモア、スコットランドの順番でW杯を戦うことを考えると、アイルランド、スコットランドといったファースト・ティアの国に敗れて、ロシア、サモアから1勝または2勝できるかどうか、というのが客観的に見た日本の立ち位置だと言える。日本ラグビー界の悲願である「ベスト8」には届きそうもない――というのが、冷静な物の見方だ。

 それを、日本開催でホームの声援を受ければ、とか、試合間隔を長くとれる日程に恵まれているからといった理由で、「頑張ればなんとかベスト8に届く」と考えるのは、国難に際して必ず「神風」が吹くと期待するのと同じくらい、ナイーブだ。

 このままでは目標に届かないという前提に立ち、では目標に到達するためには何が必要なのかを真剣に考えなければ危ういところに、日本ラグビーは追い詰められている。

 ロシア戦は、そんな“国難”を浮き彫りにした試合だった。

明確なスタイルのロシアと、なにをやりたいのかわからなかったジャパン

 ロシアは、W杯ヨーロッパ予選で3位に終わり、本来はW杯出場の道を絶たれたチームだ。

 ところが首位で通過して日本と同じプールAに入るはずだったルーマニアと、2位で最終予選に回るはずだったスペインが、代表資格のない選手を予選に出場させたことが判明。そのため繰り上がりでW杯に出場する権利を獲得し、日本と開幕戦を戦うことになった。

 日本にとってはラッキーな出来事だった。

 スクラムで苦しめられた苦い記憶があるルーマニアより、過去に1敗しているとはいえ、サイズとパワー以外に拠り所がないロシアの方がはるかに戦いやすく思われたからだ。

 けれども、ロシアは意外に強かった。

 明確なスタイルと、どういうラグビーをするのかといった強い意志を持っていたから、試合を通してぶれることがなかった。シンプルに自分たちの強みを出すラグビーを貫いて、ジャパンを苦しめたのだ。

 対するジャパンは、なにをやりたいのかわかりにくかった。

 9番に茂野海人、10番に松田力也というハーフ団を試し、ボールを動かそうと考えていたのだろうが、最初のアタックでボールを継続すべきWTBロトアヘア・アマナキ・大洋が簡単にタッチラインの外に押し出されて、コンセプトが揺らぎ始める。

 象徴的だったのは前半17分過ぎのプレーだ。

 ジャパンは、自陣22メートルライン付近でボールを奪取。WTB福岡堅樹が茂野にボールを託し、茂野が松田にパスを送る。松田は、そこから横走りするようにロシア防御を攪乱してCTB中村亮土にパス。右側に大きなスペースがあると気づいた中村は、CTBラファエレ・ティモシーにパスを送ったが、ラファエレはボールを持つと漫然と直進。サイズとパワーを誇るロシア防御に真正面から当たって、ノット・リリース・ザ・ボールの反則を取られ、PGで3点を追加された。

 31分にはロシア陣内に深く攻め込み、左タッチライン際で3対1のオーバーラップを作ったが、このチャンスも活かせず、折り返しのアタックはパスがまったくつながらなかった。

 それでも、ロシアの反則を誘い、キャプテンのリーチ・マイケルがPKをタップしてそのままトライを挙げたが、リーチの細かいステップに対応できないロシアに対して、ラファエレのようにまっすぐブチ当たるだけでは、自分たちの強みをまったく活かしていないことになる。

 ジョセフ就任以来、日本ラグビーが得意としてきた、相手に接近しながら素早くパスを通すアタックが少なくなり、かわりにキックや相手に当たってボールを活かすオフロードが奨励されてきたが、それではロシアのレベルにさえアタックが通用しなかった(まあ、リーチのトライは途中出場の田村優のキックパスから生まれたが)。といって、セットプレーから準備を重ねたサインプレー一発でトライを奪うような、伝統工芸的精度を取り戻すには、来年までもう時間がない。

 ジャパンは、後半4分に松田→ラファエレ→福岡とつないで、ようやく日本らしいトライを奪うが、その前段では、タッチライン際を走るロトアヘアに対してラファエレのサポートが浅すぎて、危うくトライチャンスを逃しそうになっている。パスが同じようなテンポと角度で放られることもそうだが、サポートに走るコースも細かく教え込まれていないように見えるのだ。これらのプレーは、15年W杯までのエディー・ジョーンズ体制ではきちんとできていたにもかかわらず。

ジェイミー・ジョセフは15年W杯の遺産を食いつぶした?

 結局のところ、ジェイミー・ジョセフは、エディー・ジョーンズの“しごき”に耐えて選手たちが獲得した日本ラグビーの財産をこの2年間で食いつぶし、ロシア相手にもなかなか通用しないようなスタイルを定着させようと、悪戦苦闘しているだけだ。

 思い出すのは2年前の11月。

 ウェールズに食い下がったジャパンが、1週間後にフィジーと対戦して完敗したことだ。ターゲットと定めた試合でそこそこできた手応えをつかんだ直後に、それよりも若干力が劣るチームとどう戦うか――この問題をジョセフはしっかりと詰め切れなかった。

 ロシア戦もまったく同じ文脈にある。イングランドにある程度食い下がった直後に、ジャパンは持てる力を出せなかった。

 負傷者続出など理由や言い訳は確かにあるだろう。

 けれども、まったく違うスタイルの相手と毎週戦うのがW杯だ。

 2年前と同じ過ちを犯しかけたHCを、そのまま無条件で職にとどまらせていいのか。

 この結果を受けてジェイミー流の検証が為されないようでは、W杯で前回のようなビッグアプセットを熱望するファンの望みはかなえられないだろう。

 日本ラグビー協会は、今こそ雇用主としての権限を全面的に行使して、ジェイミー・ジョセフの2年間をしっかり精査するべきだ。