ラクロス日本代表アナライジングサポーター制度に見る日本スポーツのみらい

世界選手権に向け強化を進めるラクロス日本代表 (画像提供: 日本ラクロス協会)

データ活用が勝敗を左右する時代に

 2018FIFAワールドカップ(W杯)ロシア大会から導入されたリアルタイムデータの活用は、サッカーの、いや、スポーツのデータ活用を次のステージへと進める契機となるはずです。そもそも「リアルタイム」以前に、スポーツにおいて「データ活用」はなくてはならないものになりつつあります。対戦国や自国のチームから個人まで、プレーの特徴を徹底的に分析し、勝利に結びつけるインサイトを得る過程は、「準備」となっています。西野ジャパンも分析スタッフを増員して大会に臨んでいたようです。さらに、世界に目を向けると、前回大会覇者のドイツ代表チームは、IT大手のSAPと連携し、試合のデータや映像をチームで効率的に分析・共有するためのソリューションを導入したことは有名です(こちらの記事を参照)。そのドイツ代表チームの分析部門には「チーム・ケルン」と呼ばれる情報を収集するための学生中心の集団があり、W杯優勝には欠かせない働きをしていたようです。テクノロジーは日々進化していますが、まだまだ分析の屋台骨は人間の目と手で支えられています。

アナライジングサポーター制度とは!?

 さて、前置きが長くなりましたが、ラクロスの世界選手権(正式には第13回FIL男子世界選手権大会)が7月11日からイスラエルで開催されます。もちろん男子日本代表チームも参戦します。サッカーのW杯と同じく4年に一度の開催となっていて、2014年の前回大会で日本代表は8位(38の国と地域が参加)という成績を残しています。そして、今回、その日本代表チームが面白い取り組みを始めたという風の便りがあり、早速、男子日本代表ヘッドコーチの岩本氏に話を伺ってきました。そこで初めて聞いた「ラクロス日本代表アナライジングサポーター制度」という取り組みを、書き起こしてみたいと思います。

制約の中から生まれた新しい仕組み

 まず、国内のラクロス事情について見ておくと、男女合わせて約1.8万人(ちなみにサッカーは約91万人が協会に登録)が公式戦に出場しています。当然、ラクロスは国内にプロチームもありませんので、アマチュア選手が日本ラクロス界を支えています。当然、ヘッドコーチの岩本氏もプロ契約ではありません。多くの制約がある中で、目標とするメダル獲得に向けて代表チームを強化しなくてはなりません。日本代表アナライジングサポーター制度についてよく聞いてみると、本稿の冒頭で触れた、サッカーで言う「チーム・ケルン」の仕組みと似ている!!というのが筆者の驚きでした。日本ラクロス協会は「Team Japan」と称して、その仕組みを独自に体現しようとしています。具体的には、SPLYZA Temasというビデオ分析ツールを活用し、試合のデータや映像をチームで効率的に分析・共有するためのソリューションを代表チームに導入したわけです。これもサッカーで言うSAPとドイツ代表チームの取り組みを想起させる組み合わせです。ビデオ分析ツールを提供するSPLYZAは浜松市(静岡県)に拠点をおく、アマチュアスポーツマンの「もっと上手くなりたい」を叶えることをポリシーに掲げるスポーツベンチャー企業と聞いて納得しました。国内で開発されるツールを選択したのも、協会からのリクエストに臨機応変に対応することができるわけですから、とても合理的な選択だと言えます。

分析ツールを使用しながら日本代表の目指すラクロスを解説する岩本ヘッドコーチ (画像提供: SPLYZA)
分析ツールを使用しながら日本代表の目指すラクロスを解説する岩本ヘッドコーチ (画像提供: SPLYZA)

テクノロジーを効果的に使うためのリーズナブルな仕組みづくり

 では、具体的に「日本代表アナライジングサポーター」とは誰なのか、という話に触れておきたいと思います。それは「サポーター」という言葉が意味する通り、日本代表チームを応援する有志が主体となっています。北海道から九州まで全国27チームから約100名の有志で構成されているそうです。そこに27名の代表選手を加え、8グループに編成され、データ収集から分析の作業を分担しながら進めているのです。

日本代表アナライジングサポーターが支える
日本代表アナライジングサポーターが支える"Team JAPAN" 構想 (画像提供: 日本ラクロス協会)

 注目すべきは、代表選手もグループに参加しているということでしょう。アナライジングとは言っても、地味な作業がその多くを占め、あらゆるプレーにタグ(いつ、誰が、どこで、何をして、どうなった)付け、コーディングすることから始まります。ツールを活用し効率化されているとはいえ、量も質も求められる作業に対して、謝礼などは特にありません。分析アルバイトではないのです。そこで、グループに属する代表選手の存在が重要な意味を持つわけです。彼らは、時にサポーターへ労いの言葉を贈り、時には分析に対する専門的な解説や議論をサポーターとやりとりするわけです。その過程を経て、サポーターはそこで得た知識やノウハウを吸収しながら見る目を養うわけです。この制度では「サポーター」と呼んでいますが、各チームではラクロス競技に勤しむ「選手」たちです。代表チームや代表選手の頭の中を共有することができるわけですから、逆にお金を払ってでもしたいという気持ちになるでしょう。一連の作業をサポーターと共にする代表選手には、ピッチで発揮するものと同様にオフザピッチでもリーダーシップが求められています。その中で人間性の成長も促されるわけです。そして、世界選手権のピッチでは、これまで以上に自身のプレーに責任を持ち、チームとして結果にこだわったプレーが見込めるでしょう。その上で、ヘッドコーチはゲームプランを組み立て、効果的な戦術を練るわけです。とてもリーズナブルでスマートな仕組みだと思います。重要な情報をクローズにするのではなく、敢えてオープンにして日本ラクロス界の底上げに踏み切った決断に感銘すら受けます。これまでラクロスの世界選手権を意識していなかった筆者もワクワクしてきました。

ツールを使って映像にタグ付けをするアナライジングサポーターの様子 (画像提供: 日本ラクロス協会)
ツールを使って映像にタグ付けをするアナライジングサポーターの様子 (画像提供: 日本ラクロス協会)

持続可能な仕組みとして定着はなるのか!?

 世界選手権初戦まであと3日と迫った中で、すでに上位に進出することが予想される国に対して、世界選手権前からアナライジングサポーター制度を運用して情報収集、分析を始めていたそうです。さらに、世界選手権中にも開催地のイスラエルから日本に映像を共有し、対戦国の分析(スカウティング)が進められる予定です。もちろん日本代表が目標とするメダル獲得に大きな後押しになると期待されるこの制度ですが、実際に運用が始まってまだ半年程度しか経っていないのも事実です。テクノロジーやツールは持っているだけでは鋭い武器になりません。使う人の力が十分に備わってこそ発揮されることはここで言うまでもないでしょう。アナライジングサポーターのプレーを見極める目を養うにはもう少し時間が必要かもしれません。ただ、日本スポーツの可能性=みらいを感じます。ぜひ、世界選手権終了後に、このスマートな取り組みを振り返り、公に議論する場を設けてほしいと願っています。その場には、ラクロス関係者だけではなく、多種多様な競技の関係者を交えて、日本スポーツのみらいを議論できることを期待しています。

 ラクロス男子日本代表チームの初戦は「7月13日(金) 21:45~(日本時間) vs ノルウェー」となっています。日本からその様子をリアルタイムで観戦できそうにありませんが、結果は大会ウェブサイトでフォローしておきましょう。