eスポーツとサッカーのパフォーマンスを考える【後編】eスポーツ選手の視線計測からわかること

eスポーツとリアルなサッカーのトップ選手には親和性があるはず。(写真:Shutterstock/アフロ)

 「【前編】共創の可能性を探れ」では、Jリーグが「明治安田生命eJ.LEAGUE(以下eJリーグ)」と称した大会を主催することで、eスポーツ分野に進出したことを受け、興行以外の、特に、選手の育成においてeスポーツとサッカーとの共創について、その可能性を探る必要性を述べた。

 

 本記事では、Jリーグの会見の場で、競技に採用された「EA SPORTS FIFA 18(以下FIFA18)」を村井チェアマンとプレーし、記者からの質問にも対応したプロeスポーツプレイヤーのマイキー選手との実験的な取り組みについて、独自の取材を通して紹介したい。

 マイキー選手は4月にパリで開催されるESWC FIFA18 Paris(XBOX One部門)にファイナリストとして参戦が決まっている。改めて書く必要もないが世界と戦える日本人選手だ。

大学でも研究の対象となり得るeスポーツ

 昨年12月に、自らのパフォーマンスを探求すべくマイキー選手が訪れたのは、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFCと略されるがスーファミではない)の加藤貴昭研究室(Human Performance Lab, 以下HPL)。スポーツ心理学・人間工学を専門とする研究室の学生が、eJリーグでも採用されたFIFA18を対象にユニークな研究を始め、マイキー選手にも実験に参加してもらいたいというリクエストに応えるためでもあった。これまでHPLでは、リアルなスポーツ競技を対象に、優れた競技者の巧みなワザやコツを定量的に評価し、パフォーマンスを可視化するために研究を進めていた学生が多くいた。競技スポーツは相手に「勝つ」ためにプレーする、それはeスポーツでも同様で、優れたeスポーツプレイヤーを対象にした研究は成立している。

加藤貴昭准教授(写真奥)とスポーツと視覚の関係性についてディスカッションするマイキー選手(写真手前の右) :筆者撮影
加藤貴昭准教授(写真奥)とスポーツと視覚の関係性についてディスカッションするマイキー選手(写真手前の右) :筆者撮影

まずは状況をよく「見る」こと

 特に、HPLではプレー中の視線計測実験に定評がある。国内では、いや、世界でも、スポーツ選手の視線計測に関する研究では多くの実績を上げている。どのようなスポーツでも共通して「見る」ことは重要だ。「見る」といっても単に「視力」のことを言っているわけではない。視力が良くても、スポーツ特有の状況を「見る」ことができなければ、高度なパフォーマンスを発揮することができない。つまりは、よく「見る」ことは、スポーツの文脈を上手に「読む」ことと同意だろう。もちろん基礎的な見る力として、視力が低くてはパフォーマンス低下を招く。さらには、「見て」「考える」もしくは「考えて」「見る」という振る舞いは、日常のあらゆる場面で当たり前に行なわれているが、改めて可視化すると、気づくことが多くある。そこで、マイキー選手は、FIFA18をプレーする最中に、何を見ているのか、早速、視線計測の実験を行なった。実験と言っても大掛かりな準備を要するわけではなく、メガネ型の視線計測装置(通称アイカメラ)をメガネ代りにかけて、普段通りFIFA18をプレーするだけだ。この日は、腕に自信のある大学生が果敢にもマイキー選手に挑むかたちとなった。もちろん、マイキー選手の完勝。簡単に鼻を折られた大学生が早速、実験データを分析してくれた。

FIFA18をプレーするマイキー選手の視線を特別な装置で計測する様子: 筆者撮影
FIFA18をプレーするマイキー選手の視線を特別な装置で計測する様子: 筆者撮影

戦略的に「見る」ことで「スマート」にプレーする

 スポーツ状況の、特に、相手、味方、ボール、スペースなどの複雑な要素が混在し、時々刻々と状況が変化するサッカーの状況で得られた実験データを分析するのは容易い仕事ではない。複雑に見ようとすれば、複雑に見ることができる状況で、マイキー選手は何を見ていたのか、これまでに計測していたそこそこ腕の立つ大学生の結果と比較してもらった。本記事では詳細なレベルでの分析は省略する。

分析の手がかりとして「見る」べき対象をカテゴライズしたもの: 学生の研究レポートより
分析の手がかりとして「見る」べき対象をカテゴライズしたもの: 学生の研究レポートより

 マイキー選手が、大学生と比較してよく見ていた対象は何だったのか。まずは画面中央下に配置されている「レーダー」だった。まさにピッチを俯瞰して見ることで得られる情報を得るためだろう。言われれば当然だが、実際に、レーダーを頻繁に見ながらプレーすることができるかどうか、さらには、効果的に「いつ」見れば良いのか、と言った戦略的に「見る」術を知っていないと意味がない。また、カーソルのない選手(操作していない選手)や、ピッチ(=スペース)もよく見ていた。一方で、ボールやカーソルのある選手(操作している選手)を見ている時間は比較した大学生より短かった。まだまだ深い分析は必要だが、ボールから「目を離す」時間を作るという点では、過去の実験で得られたリアルなサッカー選手と似ている振る舞いのようだ。また、より深く分析すれば、一連の視線移動のパターンにも、過去の研究成果と同様な知見が得られそうだ。

 また、意外な結果としては、相手が操作している選手の情報(上記のカテゴリでは「その他」)を見ていることだった。実験後のインタビューで、「相手の特徴に応じた守り方や攻め方を考えている」というマイキー選手の発言を思い出した。FIFA18の中で相手がプレーする選手は、実在する選手の特徴が反映されている。例えば、メッシであれば何をしてでも「左足」を封じたい。そのような詳細な選手情報と合わせてインプットすることで、効果的なプレーを考えているのかもしれない。まだまだ、分析を深めたいところだ。

eスポーツで深めたいプレーの可能性

 さて、戦略的に「見る」ことは、「プレーする(=操作する)」技術が備わっているからこそだということも忘れてはならない。実際にサッカーをプレーする際も、足元の技術が伴わなければ、周りをよく見ることもできないだろう。また、正確にボールをキックする技術、止める技術がなければ、戦術的な選択肢も考えることさえできないだろう。ただし、eスポーツの場合は、ある程度の「操作する」技術は一定のレベルで保証されていることがある。実際のサッカーでは養う順番を少し早めて、戦略的に「見る」こと、つまりは、「認知」のプロセスを抽出してトレーニングすることも可能かもしれない。また身体的に成長段階にある若い選手が、選択することができないプレーに対して、未来を先取りした選択肢を与え、事前にリハーサルすることができるかもしれない。また、今回の実験のように、特定の装置を使用できれば、「いつ」「何を」見て判断したのか、定量的に、客観的に結果をフィードバックすることで、プレーの振り返りに「深み」を持たせることができるだろう。

 マイキー選手のパフォーマンス向上の探求への試みは始まったばかりだ。並行して、しっかりとエビデンスを残しながら、eスポーツとサッカーの親和性を探りながら、共創できる道を作ってもらいたい。「共創」に加えて「競創」という字を当てはめても良いかもしれない。 (つづく)