eスポーツとサッカーのパフォーマンスを考える【前編】共創の可能性を探れ

eスポーツ界でもサッカー大会は人気で世界中から多くの選手が参加している(写真:Shutterstock/アフロ)

ついにJリーグもeスポーツ分野に進出

 開幕25周年を迎えたJリーグが「明治安田生命eJ.LEAGUE」と称してeスポーツ分野に進出することが発表された。競技にはエレクトロニック・アーツ社(以下EA)のゲーム「EA SPORTS FIFA 18」が使用され、優勝者には国際サッカー連盟(FIFA)が主催する、公式eスポーツ大会「FIFA eWorld Cup 2018」の世界予選である「EA SPORTS FIFA 18 Global Series Playoffs」(2018年6月開催)への参加権が与えらことも合わせて発表された。

世界で戦う日本人eスポーツプレイヤー

 その発表会見の場で、村井チェアマンと並び記者からの質問に答えたゲストプレイヤーがマイキー選手だった。これまでのJリーグファンでマイキー選手の名を聞いてピンとくる人はほとんどいないだろう。そんな彼を一言で表現するならば、「ワールドカップに手の届きそうな日本人」「eスポーツ界のサムライブルー」といったところだろう。もちろんeスポーツのサッカーでの話だ。まだいまいち理解が追いつかない方は、過去のこちらの記事も参照いただければと思う。もし、eスポーツのプロ選手を「ゲームおたく」と認識している方がいたとしたらすぐにその認識をアップデートする必要があるでしょう。

興行面だけではないeスポーツとの共創の可能性を探る

 昨年末、筆者は、国内唯一のスポーツアナリティクスのカンファレンス(SAJ2017)にて、マイキー選手と岩政選手に登壇いただき、eスポーツのサッカーとリアルなサッカーにおけるパフォーマンス向上の実践を語っていただき、今後のパフォーマンス向上に関わる共創の可能性を探る機会を頂いていた。よく優れたサッカー選手は「俯瞰的にゲームを見ている」という表現を使うが、eスポーツのサッカーでは、まさにその行為自体がパフォーマンスの肝となる。

 

eスポーツで認知スキルを育むことができる!?

 つまり究極の「認知」のスキルである。実際に、リアルなサッカー選手がピッチを俯瞰的に見ることができる視野を確保することはできない。筆者は過去に、司令塔の役割を担い俯瞰的に見えていると評される、元日本代表N選手、元スペイン代表X選手にインタビューをし、実際のところを直球で「俯瞰的に見えているのですか?」と訊ねてみたが、その答えは揃って「No」だった。ただし、彼らは、テレビ(もちろんテレビゲーム)画面やスタジアム上段からサッカーを「見て」「考える」という習慣を、まさに「ゲームおたく」のように日常の一部にしていた。適切な例えが難しいところだが、古くはカーナビに始まり、現在は誰もが利用できるスマホの電子地図の機能を活用して、事前に目的地までの最短経路を探索したり、単に他人事として物事を観察するだけではなく、自分ごととして主体的に情報を集取し、状況を「判断」し、行為を「選択」し物事を「決断」する一連のプロセスを繰り返すことが、認知のスキルを獲得するには不可欠である。さらに、そのプロセスは個人に閉じることなく仲間と共有する(コミュニケーションする)ことで、価値を高めることもできる。実際に、その一連のプロセスをリアルなサッカーのピッチ上だけで完結させるのは非常に難しい。頭と体ではフィジカル的な限界に差もあり、体力の限界によって、いよいよ頭がフル活動できる状態でトレーニングが終わってしまうこともある。一個人が見えていた、考えていた世界を言葉だけで共有することも難しい。では、学業ではどうか、優秀なクラスメイトは、方法は多様ではあるが、必ず授業の前後に、予習や復習を通して、記憶の定着や、効果的な注意の向け方(探索の方略)に好影響を与える時間を確保しているはずだ。優秀な教師も、学生や生徒の視点を考慮して教えるというコミュニケーションの方略を確立しているだろう。

 海外のサッカークラブでは、すでに育成年代に対して、eスポーツではないが、TheSoccerIntelliGymのようなソフトウェアを使って、「判断」をトレーニングしている例もあるようだ。もちろん、科学的な裏付けも取りながらプロジェクトが進められている。

eスポーツで「見る」「考える」ことを始める

 すでに述べた通り、リアルなサッカー選手は俯瞰的な視野を確保できるわけではない。そのようなイメージを抱きつつ、いつ何を見てプレーを決断したのかを実験した希少な研究が国内でもあるが、なかなか一般の目に触れることはない。筆者も、上述したプロサッカー選手に対して、某番組を通して、視線計測をはじめとした「見る」「考える」ことについて多角的にアプローチした経験がある。一般的にフィジカルの能力が飛び抜けているわけではないのに、世界で活躍できる能力を獲得できたのは、まさに「頭が良かった」からだろう。それは、もちろんサッカー特有の「見る力」と「考える力」が良好にトレーニングされた結果だ。それは、近年、リアルさながらのグラフィックと操作性の進化を遂げているテレビゲームを通して、eスポーツのサッカー選手が、高度なレベルでサッカーゲームをプレーしている感覚と同じ状態かもしれない。国内では、リアルにサッカーをプレーできる場所と時間が限定されている。もし、eスポーツを用いたトレーニング効果が検証され、広く認知され、リアルなサッカーと共創できるのであれば、大きな変化が起こるかもしれない。一方で、表現は良くないが、多くの将来性のあるサッカー、さらにはファン(観客)をeスポーツに奪われる可能性(危機感)もある。もちろん、そうならないために、これからJリーグの共創の動向にもぜひ注目したい。

eスポーツとサッカーのパフォーマンスを考える【後編】eスポーツ選手の視線計測からわかること」に続く