北欧のスウェーデンとフィンランドは北大西洋条約機構(NATO)に加盟を正式に申請した。スウェーデンは1834年から、フィンランドは1948年から、それぞれ中立国だったが、ウクライナ侵攻でロシアの脅威が高まるなか、大きな方針転換に踏み切ったのである。以下ではスウェーデンとフィランドのNATO加盟にまつわる5つの疑問について考える。

1.なぜスウェーデンとフィンランド?

 現状でヨーロッパには中立を国是とする国が、スウェーデンとフィンランドの他、アイルランド、オーストリア、スイスの5カ国ある。これらは国外で戦争に関わらない点で共通している一方、いずれも「武装中立国」で、自衛戦争まで否定している国はない。

 ところで、これらのうち、なぜスウェーデンとフィンランドが他の3カ国よりいち早くNATO加盟を申請したのだろうか。

 その最大の理由は、ロシアとの距離感にある。スウェーデンはバルト海上で、フィンランドは陸上で、それぞれロシアと国境を接している。また、それぞれ中立国となる前に、ロシア帝国あるいはソビエト連邦と戦火を交えた経験もある。

 そのため、ウクライナ侵攻で高まったロシアの脅威への警戒感が、これら2カ国では特に強いといえる。

 しかし、これだけではない。スウェーデンとフィンランドは、同じ中立国のなかでも、これまですでにNATO加盟国と緊密に協力してきたことも無視できない。

 これら5カ国はいずれもNATO加盟国と周辺国を交えて1994年に発足した「平和のためのパートナーシップ(PfP)」に参加しており、セミナーなどを通じて協力してきた。しかし、NATOとの距離感は国ごとに微妙な違いがある。

 このうち、スウェーデンやフィンランドはこれまで戦闘を目的とする任務にこそ参加していないが、それ以外の分野でNATO加盟国と足並みを揃えることは珍しくなかった。

 例えば、2021年2月にクーデタが発生したミャンマーなど、人権状況に問題のある国に対して、スウェーデンやフィンランドは他の欧米諸国とともに経済制裁を行うことが多く、ウクライナのクリミア半島を一方的に編入した2014年のクリミア危機でも対ロシア制裁に加わった

 これに対して、17世紀以来の世界最古の中立国であるスイスの場合、こうした外交措置とも距離を置き、クリミア危機でも制裁にほとんど加わらなかった。

 つまり、スイスのそれがよりハードな中立であるのに対して、スウェーデンやフィンランドの中立はよりソフトな、あくまで戦闘任務で外国と協力しないことに特化したものだった(アイルランドとオーストリアはいわばこの中間)。この違いは、両国にNATO加盟申請をしやすくしたといえる。

2.NATO加盟で何を期待できるか?

 それでは、NATO加盟でスウェーデンやフィンランドは何が期待できるのか。最大のメリットは、ロシアの脅威に単独で立ち向かわなくて済むことだ。

 NATOの土台である北大西洋条約(1949年)の第5条では、加盟国が攻撃を受けた場合に集団的自衛権を行使することが定められている。つまり、外敵の脅威に結束して当たることが可能になる。

 ウクライナの場合、NATO加盟国でないため、ロシアの侵攻を受けてもNATOがその防衛のために協力しなければならない法的義務はない。これとは逆に、NATOに加盟すればアメリカを含む30カ国から軍事協力を自動的に受けられる。

 それは戦火が実際に上がる前も同じで、NATO加盟国はアメリカの「核の傘」のもとで、ロシアなどによる核の威嚇を抑止できる。

 もっとも、恩恵を受けるのは加盟国だけではない。スウェーデンとフィンランドの加盟はNATOにとってもメリットのある話だ。

 武装中立を維持してきたスウェーデンやフィンランドは兵器を国産する体制も整っており、戦闘機や潜水艦といった高性能兵器の運用能力も高い。また、ロシア方面の情報収集や過酷な極地圏での活動能力にも定評がある。

 そのため、NATO関係者からは、こうした2カ国の加盟が対ロシア戦略で大きなプラスになると歓迎する声があがっている。

3.加盟にともなうコストはないのか?

 もっとも、タダで手に入るものはなく、NATO加盟による安心・安全の確保には、相応のコストが必要になる。

 例えば、NATOは2024年までに国防費をGDPの2%以上に引き上げることをガイドラインで定めている。2021年段階でこの目標を達成したのは、30カ国中アメリカをはじめ10カ国にとどまった。

 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の統計によると、GDPに占める国防費の割合は2020年段階でスウェーデンが1.2%、フィンランドが1.5%だった。NATOに加盟するなら、この水準の引き上げが求められる。

 これに加えて、NATOで大きな影響力を持つアメリカの外交・安全保障政策にこれまで以上に協力する必要もあるだろう。

 NATOはもともと冷戦時代、ソ連に対する防衛を目的に発足したが、ソ連崩壊後の1990年代の末には、ヨーロッパ外での活動も行うようになった。2001年から2014年までアフガニスタンで活動した国際治安支援部隊(ISAF)はその典型である。

 ISAFは2001年にアメリカ軍などの攻撃でタリバン政権が崩壊した後、新生アフガニスタン政府を支援して治安を回復することを目的に派遣された各国部隊が、NATOの指揮下で活動した。スウェーデンフィンランドは戦闘任務以外に就く前提でこれに参加したが、いずれも数十人規模の限定的な派遣だった。

 NATO加盟国になれば、こうしたヨーロッパ外での活動への参加も、これまで以上に求められるとみられる。スウェーデンとフィンランドのNATO加盟申請には、こうしたコストを差し引いても恩恵が大きいという判断があるといえる。

4.両国の加盟は実現するか?

 それでは、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟は実現するのだろうか。そこには大きなハードルがある。ほとんどの加盟国が両国の加盟に賛成している一方、トルコが反対していることだ

 北大西洋条約第10条では、新規の加盟について、加盟国が全会一致で賛成することが定められている。これまでにも、キプロスのNATO加盟がトルコの反対で実現しなかった。トルコはキプロスと領土問題を抱えていて、キプロス政府を正当な政府と認めていないからだ。

 スウェーデンとフィンランドの場合、トルコと外交的な対立がある。両国はトルコの人権状況をこれまで批判してきただけでなく、トルコ政府が「テロリスト」と認定して弾圧している少数民族クルド人の活動家の滞在を認めてきた。さらに、2019年にトルコ軍がシリアに侵攻したことへの制裁として、両国はトルコ向けの武器輸出を停止した。

 これに加えて、トルコはNATO加盟国でウクライナに軍用ドローンなどの兵器を輸出している一方、ロシア批判一色でもない。ロシアとウクライナの和平交渉を独自にプロモートしている他、ロシアからの食糧やエネルギーの輸入や人の往来がいまだに続いている。

 トルコは冷戦時代、地中海方面にソ連が進出することを防ぎたいアメリカがNATOに迎えた。しかし、2000年代以降のトルコではナショナリズムが高まり、欧米との摩擦が絶えなかった。2011年からのシリア内戦で、シリア国内のクルド人勢力をNATOが支援したことは、トルコの不満をさらに増幅させた。

 ロシアとの独自の関係は、欧米とバランスをとることを目的とする。

 こうした経緯から、トルコのエルドアン大統領5月16日、「我々は賛成しない…彼ら(スウェーデンとフィンランド)は厄介ごとを持ち込むべきでない」と言明し、加盟を支持してもらいたいなら「テロリスト」を引き渡すべきと示唆した。

 もっとも、エルドアンの強硬姿勢は来年の選挙をにらんで、国内のナショナリスティックな有権者向けのポーズに過ぎず、最終的にはスウェーデンやフィンランドの加盟を認めて、アメリカをはじめ他のNATO加盟国に「恩を売る」だろう、という楽観的な観測もある。

 ただし、仮にそうだとしても、トルコが自国の存在感をできるだけ大きくしようとするなら、加盟をめぐる交渉が長引くことも想定される。その場合、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟がすぐに実現する公算は高くない。

5.ウクライナ侵攻に及ぼす影響は?

 「NATO拡大」はロシアに対する警戒感の高まりを象徴するが、それがロシアの態度をより強硬にすることは想像に固くない。スウェーデンやフィンランドのNATO加盟申請に対して、プーチン大統領は「ロシアにとって大きな脅威ではない」と述べつつも、「我々を脅かす場合には何らかの対応もあり得る」とクギをさしている。

 念のために補足すれば、たとえトルコの反対が形だけのものだったとしても、NATO加盟をめぐる手続きは通常1年近くかかるため、スウェーデンやフィンランドが今すぐ正式の加盟国になれるわけではない。

 また、スイスなどでもNATO加盟に関する議論はあるが、先述のように中立国でも国ごとに条件が異なるため、「NATO加盟申請ドミノ」は簡単に発生しそうにない。

サーブ社製多目的戦闘機JAS39グリペンE。グリペンはロシア製ミグ戦闘機などに対抗することを想定して設計されたスウェーデンの誇る高性能機で、各国に輸出されている(2016.5.18)
サーブ社製多目的戦闘機JAS39グリペンE。グリペンはロシア製ミグ戦闘機などに対抗することを想定して設計されたスウェーデンの誇る高性能機で、各国に輸出されている(2016.5.18)写真:ロイター/アフロ

 しかし、それでもスウェーデンとフィンランドの加盟申請を受けて、ロシアが何らかの敵対行為に出る可能性は高い。具体的には、スウェーデンやフィンランドとの国境付近で戦闘機や軍艦による国境侵犯を繰り返したり、国境付近に兵員を駐屯させたりする挑発、サイバー攻撃、ヨーロッパ向け天然ガス価格のさらなる引き上げや供給停止(フィンランド向けのガス輸出停止は決定している)などが想定される。

 西側との緊張がさらにエスカレートすれば、ウクライナ侵攻にも影響を及ぼさないはずはない。

 ロシアはこれまでウクライナと断続的に和平交渉を行なってきたが、ウクライナのNATO加盟やウクライナ東部の分離独立で平行線をたどり、交渉はとん挫したままだ。緊張の高まりでロシアがさらに意固地になれば、妥協の余地はこれまで以上に乏しくなるとみてよい。

 スウェーデンとフィンランドのNATO加盟申請はウクライナ侵攻がさらに泥沼化する一つの通過点になるといえるだろう。