反フランス暴動に揺れるパキスタン――「その場しのぎ」がもたらす泥沼

パキスタンTLP支持者のデモ(2021.4.16)(写真:ロイター/アフロ)

  • パキスタンではフランス大使の国外退去などを求めるデモが、死者を出す暴動に発展している。
  • その背景には、フランス政府が「表現の自由」を盾に「イスラームの冒涜」を許しているという批判がある。
  • これに加えて、高まる反フランス世論に政府がその場しのぎの妥協を繰り返したことが、火に油を注いだ。

 反フランス暴動の激化で、フランス政府はパキスタンに滞在する国民に一時的な退去を求めるに至った。パキスタンの混乱は、世論を利用しようとした政府の「その場しのぎ」の対応がもたらした結果といえる。

フランス人は退去せよ

 パキスタンにあるフランス大使館は4月15日、同国に滞在するフランス人に一時的な退去を呼びかけた。これは滅多にない措置だが、パキスタンにおける反フランス抗議デモのエスカレートを受けての対応だった。

 パキスタンでは4月12日、フランス大使の罷免やフランス製品の不買などを呼びかける政党TLPの中心人物サアド・リズヴィ容疑者が、当局に逮捕された。

 これをきっかけに数千人のTLP支持者による抗議デモが各地で発生し、その鎮圧に警官隊がゴム弾、催涙弾、放水銃などを用いた結果、2日間で2人の警官を含む死者と、340人以上の負傷者を出す暴動に発展したのである。

 こうした事態を受けてパキスタン政府は4月15日TLPを「テロ組織」として非合法化すると決定し、さらに16日には#FrenchLeavePakistan(フランス人はパキスタンから出ていけ)といった過激なメッセージの拡散を防ぐためとして、TwitterやFacebookをはじめほぼ全てのSNSを遮断するに至った。

なぜフランスが標的になったか

 なぜTLPはフランスへのあからさまな敵意を見せてきたのか。

 その大きな理由として、昨年10月にパリで発生した教師斬首テロ事件があげられる。

 この事件の被害者になった高校教師は、授業でイスラームの預言者ムハンマドの風刺画を用い、「表現の自由」について語っていたといわれる。この事件は「冒涜か、表現の自由か」という問題を改めて浮上させた。

 もっとも、その後の調査では、「教師が風刺画を授業で用いている」と保護者に伝えていた生徒が実は学校に行っていなかったこと、学校に行っていないことがバレるのを嫌ってさも自分が直接みたようにウソをついたこと、そしてそれが保護者経由でSNSを通じてフランスのイスラームコミュニティに拡散したことが発覚しており、この生徒や弁護士は「友人がそのように話していた」と弁明している。

 しかし、そのことはイスラーム圏でたいして問題にされない。むしろ、イスラーム圏で重視されるのは、この事件の直後フランスのマクロン大統領が「表現の自由を支持する」と明言したことだった。

 テロが許されるべきでないことはもちろんだが、表現の自由が弱者への侮蔑を正当化する「強者の論理」になりやすいことは、アメリカの白人至上主義などにも共通する。これに対する不満から、昨年10月以来、イスラーム圏各地で反フランス抗議デモが散発的に発生してきたのである。

世論に引きずられたパキスタン政府

 ただし、イスラーム世界のほとんどの国では反フランス抗議デモが深刻な結果をもたらしていない。では、なぜパキスタンでは死者を出す惨事にまで発展したのか。

 そこにはパキスタン政府の中途半端な対応があった。

 大前提として、たとえ反フランス世論が高まっても、それでフランスとの外交関係を遮断するといった強硬な態度をとる国はイスラーム世界にはない。経済的、外交的にマイナスが大きいのが明白だからだ。そのため、その良し悪しはともかく、ほとんどのイスラーム諸国の政府は表面的には国内の反フランス世論に理解を示しながらも、それが過激化しないように手綱をとっている。

 ところが、パキスタンの場合、政府は反フランス世論に引きずられ続けてきた。

 パキスタンで反フランスの中心となったTLPは「預言者を侮辱する者は全て死刑にするべき」といった過激な主張で知られる。その抗議活動が高まった結果、パキスタン政府は昨年11月、TLPとの間でフランス大使の国外退去、フランス製品の販売禁止、さらに抗議活動で逮捕されていたTLP支持者の釈放などを「検討する」と合意したのである。

「その場しのぎ」の帰結

 しかし、その後パキスタン政府がのらりくらりと「検討」を放置し続けため、これに業を煮やしたTLPは抗議活動をさらにエスカレートさせ、政府に圧力をかけた。その結果、パキスタン政府は今年2月、新たな合意をTLPと結び、昨年11月の合意内容について議会で4月20日までに結論を出すと約束せざるを得なくなったのである。

 パキスタン政府は国内の反フランス世論が暴走することを見て見ぬふりをし、かといってフランスとまともに衝突することも好まず、その場しのぎの対応に終始したといえる。その挙句、合意の期限が迫っていた4月12日、のっぴきならなくなってTLP指導者を突如逮捕するという「ちゃぶ台返し」を演じたことで、TLP支持者の怒りに火がついたことは不思議でない

 パキスタンの現在の首相イムラン・カーンは、国際的にも有名な元クリケット選手で、その知名度とクリーンなイメージを武器に、2018年に現在の地位についた。これといった固い支持基盤もない世論頼みの政治家であることから、カーン首相は昨年10月のパリの事件に関しても率先してマクロン大統領を批判している

 カーン首相はいわばパキスタンで高まる反フランス世論を利用しようとしたわけだが、結果的にはそれによって足元をすくわれたといえる。

 現在の世界では各地で政府や権力への不満が爆発しており、「世論こそ正義」といった風潮もなくはない。もちろん、どこの国でも政府の決定は「神の意思」と程遠いが、それと同じく世論が「天の声」であるわけでもない。

 もっとも、過激な世論に引きずられる政府が事態を悪化させることはパキスタンに限らない。マクロン大統領が来年の大統領選挙をにらみ、排外主義的な右派の世論を味方につけるため「表現の自由」を強調し、結果的にフランスの分断を加速させていることも、ほぼ同じだ。その意味で、パキスタンの混乱は無軌道な世論に振りまわされる世界の縮図といえるのかもしれない。