コロナで人種差別の広がる欧州――極右政党の認知が上がるドイツの危機感

コロナ対策に関するメルケル首相の演説を聞く家族(2020.3.18)(写真:ロイター/アフロ)

  • ドイツでは極右団体への取り締まりがこれまで以上に加速している
  • この背景には、極右による暴力の増加だけでなく、コロナの影響で人種差別が横行し、極右政党の認知が上昇していることがある
  • EUをけん引してきたドイツで排外主義がさらに高まれば、ヨーロッパ全域で「自由な社会」が後退しかねない

 ドイツで極右団体の非合法化が相次いでいる。これは新型コロナの感染拡大にあわせて広がる人種差別に、ドイツ当局が警戒を募らせていることを象徴する。

「帝国の市民」の非合法化

 ドイツ内務省は19日、極右団体「帝国の市民」の一派を非合法化した。

 以前にも取り上げたが、「帝国の市民」は戦後のドイツ国家を認めない極右団体で、その傘下に数多くの小さな組織を抱える。

 今回、非合法化されたのは、そのなかでも特に過激な一派「ドイツ人民部族連合」で、19日に400人の警察官が全国10州で21人の主要メンバーの家宅を一斉捜索した。その結果、銃器や宣伝用の文章データなどを押収したという。

 これに関してドイツ内務省報道官は、コロナ蔓延を念頭に「たとえ危機の最中でも、我々は右翼過激派との戦いを絶え間なく続けていく」とコメントしている。

取り締まりの強化

 取り締まりが強化されているのは、「帝国の市民」だけではない。

 今年1月には、ネオナチ「戦闘18」が非合法化された(1と8はアドルフ・ヒトラー、Adolf Hitlerの頭文字のアルファベット順、AとHを暗示する)。

 また、今月12 日には、野党第一党で極右的な「ドイツのための選択肢(AfD)」のなかの最も過激な派閥、フリューゲル(翼の意味)の代表ビョルン・ホッケ議員を、電話の盗聴などを含めて当局が監視していることが発覚した。

 こうした警戒は、極右による暴力の増加を背景にしている。

 ドイツでは2016年だけで、右翼活動家による暴力事件が放火などを含めて1600件発生した。近年では特に過激化が目立ち、昨年6月には難民の権利保護を求めていたヘッセン州のウォルター・リュブケ州議が殺害された

 さらに2月19日、すでにコロナでニュースが埋め尽くされていたため日本ではあまり報じられなかったが、フランクフルト郊外のハーナウで中東出身者が集まる水煙草バーが銃撃され、9人の死者が出た。銃による大量殺人はドイツでは珍しく、大きなショックを国内に与えた。

 極右団体の取り締まりの強化には、こうした背景がある。

「コロナと同じく人種差別は感染性の殺人者」

 ただし、最近ではこれに新型コロナが拍車をかけている。

 コロナ感染の拡大がまだ東アジアにほぼ限定されていた2月頃から、ドイツを含む欧米では、日本人を含むアジア系への差別や暴行が問題になっていた。

 この風潮は、これまで欧米で火種になりやすかった中東出身者やムスリムにも、すぐに波及した。折しもトルコからギリシャに向けて難民が移動し始めていたタイミングでもあった結果、3月中旬にはドイツの首都ベルリンの観光名所ブランデンブルク門に極右が「我々の国旗を守れ」という横断幕を掲げた。

 排外主義は極右だけでなく、一般のドイツ人にも広がっている。3月6日にドイツ公共放送が発表した緊急世論調査では、42%が難民を受け入れないことを支持した

 これまでドイツは難民に寛容な国とみなされ、2015年のシリア難民危機でもEU全体での受け入れを主導した。しかし、これが結果的にドイツ国内での反難民感情を高めていた。

 中東出身者やムスリムは、少なくとも当初の段階ではコロナとあまり関係なかったはずだが、コロナへの恐怖や不安が先行して、「外からきた者」全体への排斥感情が高まったといえる。国連人権理事会は「コロナウイルスと同じく、人種差別は感染性の殺人者」と厳しく批判しているが、この風潮は収まる気配がない。

極右政党の認知の高まり

 この「波」に乗って、ドイツで極右の認知は上昇している

 排外主義的な極右政党である「ドイツのための選択肢(AfD)」はハーナウの事件の際、犯行を明確に批判しなかったことで不信感を招いた。2月末の世論調査では、約60%が「外国人排斥を訴えてきたAfDは事件に部分的に責任がある」と回答した。

 その一方で、3月初旬に行われた別の世論調査では、AfDを支持するか否かにかかわらず、回答者の48%が「AfDが10年以内に政権に参加する」と予想している。

 これらの世論調査は別々に行われたもので、そのまま対比することはできないが、ドイツの国内世論が大きく二分されている状況をうかがえる。

 ヨーロッパ極右は2008年のリーマンショック、2015年のシリア難民危機など、大きな変動のたびに勢力を拡大させてきた。それはちょうど、1929年の世界恐慌の後、ナチスが急激に台頭したことに通じる。コロナショックはこれに追い打ちをかけているのだ。

メルケルの危機感

 こうした状況に、メルケル首相ら現政権が危機感を強めていることは疑いない。

 隣国イタリアと違って、ドイツでは死者数こそ70人ほどだが、コロナ感染者はやはり増えており、21日段階で2万人を超えている。メルケル首相は「第二次世界大戦以来の国民の結束」を呼びかけているが、国内からは対策の遅れへの批判も出ている。

 この状況は結局、極右を利することになる。冒頭で取り上げた「帝国の市民」など極右団体への取り締まりの強化は、この危機感によって加速しているとみてよい

 メルケル首相はこれまでドイツだけでなくEUも牽引し、中ロだけでなく、排外主義的なトランプ政権とも対峙してきた。しかし、昨年の選挙でAfDの躍進を止められなかった責任をとる形で、2021年の任期満了をもって退任することになっている。

 今後、ドイツでAfDがどれだけ勢力を拡大させるかは、EU全体がより排外主義に向かうかを占うものだ。中国が強権的な手法によるコロナ抑制の成果をアピールするなか、ヨーロッパもその影響とは無関係でいられないだろう。コロナの感染拡大は、自由な社会の行方にも関わってくるのである。