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西アフリカのクリスマス・テロ――ブルキナファソは「第2のシリア」になるか

六辻彰二国際政治学者
ブルキナファソ、ファダ・ングルマで襲撃されたバスの窓の弾痕(2019.11.9)(写真:ロイター/アフロ)
  • 西アフリカのブルキナファソで、イスラーム過激派が軍事基地などを相次いで襲撃するクリスマス・テロが発生した
  • この国を含む西アフリカ一帯にはISやアルカイダが流入して勢力を広げる一方、国際的な関心も低く、取り締まりは追いついていない
  • ISとアルカイダのイスラーム過激派同士が、金の産出地帯をめぐって勢力争いを繰り広げることが、テロの蔓延に拍車をかけている

 ほとんどの国が関心をもたない西アフリカは、いまやイスラーム過激派が目立つテロを競う場になっている。

ブルキナファソのクリスマス・テロ

 キリスト教最大のイベントであるクリスマスは、ほぼ例年イスラーム過激派の大規模なテロが世界のどこかで発生してきた。今年、それは西アフリカのブルキナファソで発生した。

 25日、同国北部スム県にあるアリビンダ基地が襲撃され、兵士7人、民間人35人が殺害され、攻撃した武装勢力も80人以上の死者を出した。巻き添えになった民間人のうち31人は近隣の女性だった。スム県では24日にもパトロール中の軍隊が襲撃されている。

 一連の攻撃による犠牲はこの国の過去数年で最悪のもので、ブルキナファソ政府は2日間全国で喪に服し、クリスマスの行事を取りやめると発表した

 ブルキナファソの人口の約80%はムスリムだが、キリスト教徒もいる。これまでのところ、犯行声明を出した組織はない。

「第2のシリア」?

 今回の事態は、かねてから警戒されていた。ブルキナファソを含む西アフリカでは、イスラーム国(IS)やアルカイダといったイスラーム過激派の活動が活発化しているからだ。

 例えば、ブルキナファソに限っても、2015年からだけで700人が殺害され、56万人が避難を余儀なくされており、国連は同国が「第2のシリア」(Another Syria)になりかねないと警告していた。

 中東を追われたイスラーム過激派は世界に拡散しているが、そのなかでもアフリカは「狙い目」にされやすい。その背景には、治安機関が脆弱で取り締まりが充分でなく、さらに「テロリスト予備軍」としてリクルートの対象になる貧困層も数多くいることがある。

 とりわけ、ブルキナファソを含むサハラ砂漠の一帯(サヘルと呼ばれる)は、隣接するアルジェリアやリビアなど北アフリカから過激派が数多く流入している。北アフリカは中東の一部でもあり、サヘルはその玄関口になっているのだ。

世界から見放されたサヘル

 ブルキナファソをはじめサヘル一帯でのテロの蔓延は、難民の流出に拍車をかけている。国連難民高等弁務官事務所は今年10月段階で、アフリカの西部から中部にかけて130万人の難民と470万人の国内避難民がいると推計している。

 こうした人道危機への懸念から、例えばフランスのマクロン大統領は2017年、ブルキナファソの他、チャド、ニジェール、マリ、モーリタニアの5カ国(G5)とテロ対策の強化で合意。G5は国境を超えるテロ組織に共同で対処することを目的にしており、フランスはこれに訓練や兵站などで支援してきた。

 サヘルの国にはかつてのフランス植民地が多く、いわばフランスの縄張りでもあるが、これにはやはり難民増加を懸念するドイツやカナダなども協力している。

 しかし、他の多くの国は、サヘルでのテロ対策に必ずしも熱心ではない。中東と異なり経済的な利害関係が少ないことが、その大きな要因といえる。サヘルのテロは、いわば世界から見放されてきたのである。

テロ組織同士の抗争

 世界から半ば放置されたサヘルの状況は、ISとアルカイダの縄張り争いによって、さらに悪化している。

 ISはもともとアルカイダから分裂した組織で、両者は直接衝突することは稀でも、基本的に関係がよくない。

 そのうえ、両者は資金源をめぐっても対立している。シンクタンク、国際危機グループによると、これらの組織はブルキナファソからマリにかけて広がる金の産出地帯を制圧しており、これをめぐっても争っている。

 今年11月には、ブルキナファソ東部で、カナダ企業セマフォが経営する金鉱山の系列の車列が襲撃され、この際も40人近くが死亡している。

 ISとアルカイダが少しでも相手と差別化して、存在感を誇示しようとした場合、一番分かりやすいのは目立つテロ事件を引き起こすことになる。こうした「レース」は、2015年に2度の大きなテロに見舞われたパリをはじめ、これまでにも世界の各地で発生してきたことだ。

 今月12日、フランス政府は来年初旬に開催予定だったG5との首脳会合を延期すると発表した。その直前に、G5の持ち回りの議長国であるニジェールで発生した、71人の兵士が死亡するテロ事件が理由だった。この事件ではISが犯行声明を出したが、これがアルカイダを触発したとしても不思議ではない。

 だとすると、今回のブルキナファソの事件がどの組織によるものだったとしても、この事件そのものが次の事件を誘発することは充分考えられるのである。

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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