中国に出荷されるミャンマーの花嫁―娘たちを売る少数民族の悲哀

「一帯一路」国際会議に出席したスー・チー氏と習近平国家主席(2017.5.15)(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

  • 最新報告によると、2013年からの5年間で中国人男性との結婚を強いられたミャンマー人女性は7500人、出産を強いられた女性は5100人にのぼる。
  • その背景には、一人っ子政策によって「あぶれる」男性が中国で多いことがある。
  • その一方で、連れ出される女性のほとんどはビルマ人ではなく少数民族であり、そこにはミャンマー国内の問題もかいま見える。

 ミャンマーは70万人以上にのぼるロヒンギャ難民の流出で注目されたが、この国ではそれ以外の少数民族も困苦のなかにある。最新の報告では、少数民族カチンやシャンの多くの女性が中国への人身取引の犠牲者となり、そのほとんどが「子どもを産むための道具」として扱われている実態が明らかになった。

子どもを産むための道具

 アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学ブルームバーグ公衆衛生研究科(JHSPH)が12月7日に発表した報告書は、2013年から2017年までに、ミャンマーから中国へ17万1000人が移住し、このうち7500人の女性が中国人男性との結婚を強制され、5100人が子どもを産むことを強制されたと報告した。

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 結婚や出産を強制された女性のほとんどは、中国との国境に面したカチン州やシャン州北部から中国に入国しているが、そのほとんどがミャンマー人口の7割以上を占めるビルマ人ではなく、少数民族のカチン人やシャン人とみられる。しかも、そのなかには子どもを産まされた後、ミャンマーに戻っても、再び中国に連れ出されるケースさえある。

 JHSPHがタイに拠点をもつNGOカチン女性協会との協力により、中国に移住して戻ってきた経験をもつ女性を対象にカチン州、シャン州北部で行った調査と、カチン州、シャン州出身者女性を対象に中国で行った調査では、39.8パーセントが中国人男性との結婚を、30.2パーセントが出産を、それぞれ強制された経験をもっていた

 報告によると、65.6パーセントでブローカーが介在しており、ここからミャンマーと中国の間に人身取引ルートができていることがうかがえる。

 これに加えて、親の指示に逆らえない文化も、女性たちを追い詰めているとみられる。JHSPHの報告書によると、回答者の14.7パーセントの場合、親が中国へ渡ることを命じており、こうしたケースでは娘の意志にかかわらず、ブローカーから親に金銭の授受があるものとみられる。

一人っ子政策の影

 なぜ、中国にミャンマーから数多くの女性が「輸出」されるのか。そこには、中国が抱える一人っ子政策の影がある。

 1979年から2015年まで中国で実施された一人っ子政策は、膨張する人口を抑制することが最大の目的だったが、その副作用として男性人口が女性人口を上回り続けてきた。この背景には、一人しか子どもを持てない場合、男の子が好まれる傾向が強いことがある。

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 しかし、その結果、例えば20~40歳代に限っても、世界銀行の統計によると男性(約3億3286万人)は女性(約3億1235万人)より2000万人以上多く、必然的に「あぶれる」男性が生まれやすい。とりわけ、農村在住、年齢が高い、病人、障がい者といった場合はなおさらである。

 ただし、親の求めや世間体もあり、子どもを求める風潮も根強くある。

 こうした背景は、たとえ違法(あるいは合法か怪しいというレベル)であっても、外国から女性を連れてきてでも子どもを出産させたい需要が発生する土壌となっている。

 そのため、JHSPHの報告によると、「子どもを産むのに適している」とみられる20代前半以下、場合によっては10代の若い女性が好まれる傾向があり、20歳以上離れた相手と結婚させられるケースも珍しくない。

 なかには家族の一員として迎えられることもあるが、身分証を取り上げられたり、日常的にドメスティック・バイオレンスにさらされたり、あるいは子どもを産めない場合に「転売」されたりすることも珍しくない。その逆に、子どもを産めばそれ以上は必要ないために「転売」されることもあると報告されている。

「売る側」から「買う側」に移った中国

 この問題は、世界全体を取り巻く人身取引の一部であり、中国はその経済成長によって「消費者」としての立場を強めてきた。

 人身取引の利益は年間およそ1億5000万ドルで、そのうち約1億ドルはセックス産業でのものとみられる。

 その多くは「貧しい側」から「豊かな側」への移動で、例えばイタリアとベルギーのセックスワーカーの60パーセントはナイジェリア出身とみられる他、日本でも特に風俗店などで働く東南アジア系などの女性には人身取引の犠牲者も少なくないと国連は報告している。

 このサプライチェーンのなかで中国は従来、海外に人を送り出す立場にあった。そのうえ、「国内市場」向けの子どもの誘拐が社会問題化していた。

 しかし、近年では経済成長にともない、中国でも女性の「輸入」が増えている。そのなかにはウクライナなど経済状況の思わしくない東欧諸国まで含まれており、ミャンマーの事例はその一端といえる。

忘れられた戦争

 こうした中国側の事情の一方で、ビルマ人ではなく少数民族の女性が集中的に連れ出される背景には、ミャンマーの抱える問題も見過ごせない。

 ミャンマーでは1988年にクーデタで権力を握った軍事政権のもと、少数民族をその居住地から力ずくで追い出し、その土地にビルマ人を住まわせる「ビルマ化」政策が進められた結果、ミャンマー東部に暮らすカチン人やシャン人などの少数民族は、西部ラカイン州に多いロヒンギャと同じく迫害されてきた。

 ジャーナリストのガイ・ホートン氏とオランダ開発協力省が国連に提出した報告書によると、2005年段階で少なくとも40万人が居住地を追われていた。この報告書は、軍によって無差別に殺傷された者が少なくないだけでなく、居住地を追われた少数民族が貧困に苦しむなか、国外に逃れたり、バラバラになったりすることで、民族として死滅しつつあると指摘し、「ゆるやかな大量虐殺」と表現している。

 東部の少数民族のなかには麻薬を栽培・販売して軍資金を調達し、武装組織を結成してミャンマー政府と敵対するものもあり、この一帯では現在も散発的に戦闘が続いており、ロヒンギャ危機に注目が集まるのと対照的にほとんど関心が払われないことから、「忘れられた戦争」とも呼ばれる。

 この背景のもと、少数民族の生活が困窮する状況は、人身取引ブローカーが暗躍しやすい環境になっているといえる。

スー・チー政権の隘路

 ミャンマーでは2011年に選挙が復活し、2015年に政権が交代してアウン・サン・スー・チー氏を事実上の責任者とする政府が発足したことで社会・経済の安定が期待された。しかし、議会の議席の4分の1を軍人が占め、さらに5141万人の人口に対して約40万人の兵士を抱えるなど軍が大きな影響力をもちつづけるなか、スー・チー政権はこれを管理しきれていない。

 これはロヒンギャ危機でもみられたことだが、東部の少数民族の危機的な状況についても、ほぼ同じことがいえる。

 ミャンマー東部には、天然ガス産出国であるミャンマーから中国へのパイプラインが伸びており、さらにミャンマーの港と中国の雲南省を結ぶルートにあることから「一帯一路」構想にとっても重要な立地条件にある。これに加えて、カチン州は近年「世界最大のヒスイ生産地」として注目され、各国からの投資も相次いでいる。

 つまり、「ビルマ化」政策を継続する軍と「一帯一路」を掲げる中国政府の意向を前に、スー・チー政権は東部の少数民族の置かれた状況の改善に着手できておらず、これが結果的に女性の人身取引を促しているといえる。言い換えると、ミャンマーの少数民族の女性たちは、人間を商品として扱う市場と冷徹な政治の被害者として売られているのである。