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アフリカの子どもに銃を取らせる世界(3)米国の銃は世界中で乱射されている―中央アフリカ

六辻彰二国際政治学者
銃規制を求める集会でスピーチするエマ・ゴンザレス(2018.3.24)(写真:ロイター/アフロ)
  • 米国の銃の輸出額は戦車のそれに近い
  • 米国をはじめ兵器の大輸出国によって安価な銃が世界中で大量に出回り、非力な子どもでも兵士になりやすくなった
  • 中央アフリカでは少女の子ども兵も多い
  • 米国の銃規制反対派は中ロなどとともに国際的な規制に抵抗し、この状況を黙認してきた

 3月24日、全米で100万人が銃規制の強化を求めてデモを実施。2月にフロリダ州の高校で19歳の犯人が17名を殺害した乱射事件を生き残った17歳のエマ・ゴンザレスの沈黙のスピーチは世界中で大きく報じられました。

 その一方で、意識されにくいことですが、米国の銃はむしろ米国の外でより多くの若者や子どもに銃を取らせてきました。規制の遅れは米国の銃輸出を増やし、非力な者でも簡単に人を殺せる銃が大量に出回ることは戦場で子ども兵を生みやすくしているのです。

 同じく若者や子どもが加害者や被害者になっているにもかかわらず、日本を含めた各国で、この問題が米国の乱射事件ほど関心を集めないところに、生命の格差を思わずにはいられません。

実際に多くの人を殺してきた兵器

 「市民の武装する権利」を強調する歴代の米国政府は、国内で銃規制に消極的な一方、国外には銃の輸出を促進。それは紛争地帯の火の手を大きくしてきました。

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 ピストルや自動小銃をはじめ、一人で持ち運びできる兵器を「小型武器」と呼びます。その犠牲者は開発途上国の戦闘で殺害された人の約半数を占めるため、実際にはほとんど使用されない核兵器などを念頭に「実際の大量破壊兵器」とも呼ばれます。

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 世界最大の兵器輸出国、米国の輸出に占める小型武器とその部品・弾丸などの合計金額は、戦車にせまる規模です。ただし、米国の代表的な自動小銃M16が1丁1000~2000ドル(新品)なのに対して、米軍の主力戦車M1A2 SEP エイブラムスは1台約850万ドル。単価の安さは、普及しやすさを意味します。

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 安価で操作しやすい小型武器の蔓延は、大人と比べて体力に劣る子どもでも兵士として動員される条件を整えてきました。とはいえ、その原因は米国だけでなく、その他の輸出国にもあります。その一つの例として、中央アフリカ共和国をみていきます。

中央アフリカの子ども兵

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 その名の通り、アフリカの中央部に位置するこの国では、2013年12月がムスリム勢力「セレカ」が政府に攻撃を開始。その後、セレカ以外にもキリスト教徒勢力「アンチ・バラカ」など合計14の武装組織が林立。2018年1月現在56万人(全人口の約12パーセント)以上が難民となる事態は「世界から最も無視された危機」とも呼ばれます。

 一方、中央アフリカは2017年に国連が報告した「子ども兵の徴用が深刻な国」の一つ。国連によると、この国の子ども兵は約1万人と推計され、そこにはより非力な少女も含まれます

 世界に30万人いるといわれる子ども兵の約40パーセントは少女とみられ、中央アフリカでも武装組織の徴用や人身取引の犠牲者だけでなく、自発的に戦闘に加わる者が少なくありません。

 2017年12月、ニューズウィーク誌のインタビューに応えた中央アフリカの17歳の少女(エマ・ゴンザレスと同い年)は、住んでいた村を襲ったセレカに父親など家族の多くを殺害された後、姉とともにアンチ・バラカに参加。その動機を「実際に父親を殺した者が分からなくても、とにかく誰でもセレカのメンバーを殺すと決めたから」と説明しています。実際、子どもでも訓練を受ければ、小型武器を扱って敵を殺すことは難しくありません。

死の商人の顧客

 このような中央アフリカに多くの国から小型武器が流入することは、子ども兵の活動を支える条件になっています。

 内戦発生直後の2013年12月、国連は中央アフリカへの武器禁輸を決議。しかし、その後もこの国では小型武器が蔓延してきました。

 武器禁輸の対象はあくまで公式の市場で、ブラックマーケットの規制は事実上不可能です。内戦発生以前から中央アフリカには政情が不安定なスーダン、チャド、コンゴ民主共和国などの周辺国から小型武器が流入していると報告されていましたが、武器禁輸が導入された後は特にスーダン、中国、イラン製の武器・弾薬の密輸が目立ちます。

 冷戦終結後の1990年代以来、小型武器は「需要のあるところに供給が発生する」という市場の原理に沿って取引されてきました。多くの戦闘が発生するアフリカは武器を違法に売買する業者にとって格好の市場。内戦が泥沼化する中央アフリカは、その一つに過ぎません。

 これに加えて、正規ルートでの流入もゼロではありません。2017年12月、武器禁輸の一部が緩和。ロシアが中央アフリカ軍にアサルトライフル5200丁などを供与することが認められました。これは治安回復のため正規軍の建て直しを図る中央アフリカ政府と、軍事協力を通じてアフリカ進出を加速させたいロシアの利害が一致したものです。

 ただし、アフリカでは汚職がひどく、正規軍の装備がブラックマーケットに流出することは、これまでたびたび報告されてきました。そのため、正規軍の強化は必要ですが、ロシアの軍事援助が中央アフリカ内戦をさらに加熱させる懸念も拭えません。

誰が笑うか

 中央アフリカに限らず、多くの問題を抱えながらも国際的な取引の規制が進まないまま、小型武器はアフリカに流入し続けてきました。

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 中古や違法製造、公的機関から流出した小型武器がブラックマーケットにあふれている以上、実効性ある規制をするためには製造・輸出元を制限するしかありません。

 ところが、国連で2000年から小型武器の国際的な取引を規制することが検討されてきたものの、ロシアや中国だけでなく、国内での銃規制反対と国外への銃輸出がセットになっている米国も、これに強硬に抵抗してきました。そのため、売買記録の徹底など「買い手の良識」に任せる形式的な規制しか導入されず、結果的に世界中で小型武器が出回る状況は全く改善されませんでした。

 言い換えると、全米ライフル協会をはじめ米国の銃規制反対派は、兵器輸出を国策として重視する中ロとともに、アフリカで子どもが銃を取りやすい状況を黙認してきたといえます。

 ただし、それは裏を返すと、米国で銃規制が進めば、兵器取引の国際的な規制も強化される転機になり得ることを意味します。その意味で、銃規制に消極的なトランプ大統領だけでなく、銃規制を求める米国の若者たちもまた、世界を揺り動かしているといえるでしょう。

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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