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「ギリシャ危機」で有利なのは誰か:第一候補としての中国

六辻彰二国際政治学者
(写真:ロイター/アフロ)

債務危機をめぐる国際政治

7月6日、ギリシャの国民投票で、EUやIMFの求める緊縮策への反対が6割を超えました。しかし、国民投票で反対票を投じるよう呼びかけていたチプラス首相は9日、EUに新たな改革案を提出しましたが、そこでは年金削減などを含め、債権団のほとんどの要求が反映されていました。これにより、ギリシャ情勢はより混迷の度を深めています。

債権団の中心にいるドイツは、国民投票の結果を受けても、あくまで緊縮策を要求する姿勢を崩していませんでした。ただし、ドイツをはじめEU主流派は、債務の返済を促すとともに、EUの結束を重視しています。それぞれの国内世論もあって債務減免には応じにくいものの、これを突っぱねてギリシャがデフォルト(債務不履行)に陥り、挙句にユーロ圏から離脱させてしまえば、既に下落しているユーロへの信頼がさらに損なわれるだけでなく、各国で台頭するEU離脱派を勢いづかせかねないというジレンマがありました。

チプラス首相は、このジレンマを見透かし、周辺国にとって最悪の結果となり得る「ギリシャの破綻とユーロ離脱」そのものを人質に、EUやIMFに譲歩を迫ったものといえます。弱者が弱者であることを逆手に取る手法は、国際政治学で「弱者の恫喝」と呼ばれます。ただし、ギリシャにしても債権団から追加融資を受けなければ、本当に破綻しかねません。チプラス首相が一種のチキンゲームに臨み、それを少しでも有利にするための材料として国民投票を位置付けていたとするなら、EUやIMFの要請に事実上応じる改革案を提出したことは、さして不思議でもありません。

いずれにせよ、今回の国民投票を含めてギリシャ危機は多くの論点を含んでおり、ギリシャが残留するなら最大の支援国ドイツが逆にユーロから離脱するというシナリオすらささやかれています。今後の展開は予断を許しませんが、その中で一つ重要なことは、今後どのように展開したとしても、西欧諸国が混迷することは確かで、それで笑う者がいるということです。

それに関して、ロイターなど英語圏メディアでは、ウクライナ情勢などを巡って欧米諸国と対立を深めるロシアが挙げられることが多いのですが、中国にとってもこの情勢は大きな意味を持つといえます。ギリシャ危機の影響もあって上海市場が大崩れし、海外の関心はそちらに集中しがちです。しかし、中国政府にとってギリシャ危機は、自らの勢力を拡大させる一つの突破口にもなり得るとみられます。

ギリシャ危機の深淵

ギリシャの債務危機が表面化したのは、2009年でした。不透明な会計処理により、ギリシャの財政赤字がGDPの12.9パーセントにのぼっていたことが発覚。国債で支出を増やしていたギリシャにとって、これは事実上、返済不可能な水準に近いものです。その後、ギリシャの歴代政権が、IMFやEUから金融支援を受けるのと引き換えに、公務員の削減や年金の減額といった緊縮策を実施してきました。

この危機の背景には、大きく二つの要因がありました。一方にはギリシャ政府の放漫財政と透明性の低さが、他方にはグローバル金融市場の猛威がありました。

長くデフレが続いた日本はともかく、2000年代の世界は、対テロ戦争によって一時冷却化したものの、全体的に好景気のもとにありました。1989年の冷戦終結後、米国を中心とするグローバルな金融市場が成立したことは、その一つの原動力だったといえます。旧共産圏を含め、世界中で証券取引所が開設されました。それにともない、開発途上国を含む多くの国にとって、海外からの資金移動の中心は「援助」という名の公的資金から、海外企業や投資家による民間資金に変わったのです。

各国政府がいわば人為的に提供する公的資金は、実際のニーズとかけ離れたものになることも珍しくありません。ただし、同時にその流れは人工的にコントロールしやすいものです。これに対して、民間資金は需要に合わせて供給されます。その意味で、効率的な資金利用が期待されたとしても、不思議ではありません。ただし、過剰な資金供給が生まれた場合、それを人工的にコントロールすることは困難です。

1998年に発生した、タイを震源地とするアジア通貨危機は、「儲かりそうな場所」に過剰に資金が集まり、突発的な値崩れなどを引き金に、これが一斉に引き上げ、その結果として一国の経済が破綻の淵に追い込まれかねない時代の幕開けだったといえます。英国の国際政治経済学者S.ストレンジが、流動的な資金が集まる量によって実体経済が左右される様相を指して「カジノ資本主義」と呼んだことは、決して大げさでないといえます。ギリシャの場合も、グローバル金融市場の影響を看過することはできません。

もともとギリシャは、帝国主義時代の1821年、ギリシャ独立戦争で英仏が「ヨーロッパ文明の発祥の地」としてオスマン帝国から独立させました。その後も英国は、ロシア帝国の南下を阻む東地中海の要衝としてギリシャを支援。覇権国の地位が英国から米国に映った後も、ギリシャは主に地政学的、文化的な理由からNATO加盟国、EU加盟国に加えられました。その一方で、一人当り所得などで先進国中最下位に近い同国には、2000年代の世界的な「カネ余り」のもとで、「伸びしろのある国」として、2004年のアテネ五輪の前後を中心に、欧米諸国の証券会社をはじめ、世界中から投資が集まったのです。

好景気のなか、ギリシャ政府は年金や公務員給与を引き上げ、歳出は膨れ上がりました。ところが、その状況が一転したのは2008年の世界金融危機でした。利益を確保したい投資家が一斉に資金回収に向かったことで、過熱していたギリシャの景気は急速に悪化。財政収支が悪化するなか、しかしギリシャ政府はそれを隠蔽し続け、それが2009年に発覚しました。こうして、ギリシャは債務危機から抜け出すため、EUやIMFからの金融支援を受けることになったのです。

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図1で示したように、2000年代のEU加盟国では、ギリシャをはじめとする中小国や、バルト三国など旧共産圏ほど投資が集まっていたことが分かります。しかし、それら全てがギリシャのような危機的な状況に直面していないことに鑑みれば、好景気のもとで財政規律を失い、しかもそれを隠蔽していたギリシャ政府の責任は免れないことは言うまでもありません。ただし、もともとガバナンスに問題があると指摘されていたギリシャに、グローバル金融市場が大量の資金の流入を許したこともまた、この事態の遠因となったことも確かといえるでしょう。

米国一極体制のなかでのEU

それでは、ギリシャ危機には、国際政治の観点から、どんな意味が見いだせるのでしょうか。これを考える際、大前提として確認すべきは、時期によって温度差があるとはいえ、西欧諸国が米国にとって重要なパートナーであり続けてきたことです。S.ハンチントンが『文明の衝突』で、(オーストラリアやニュージーランドとともに)北米と西欧を「西欧キリスト教文明圏」と括ったように、そこに文化的な共通性が高いことは言うまでもありません。

もっとも、「欧米」諸国は常に足並みを揃えてきたわけではありません。1958年に、西欧の全般的な経済統合を進めるヨーロッパ経済共同体(EEC)が発足した際、これが「自由貿易を阻害するもの」と米国が難色を示し、ヴェトナム戦争に多くの西欧諸国が反対したように、冷戦期でさえ両者の間には微妙な確執がありました。

現代では、西欧人のなかにより一層、「すぐ銃に訴える」米国との違いを強調する向きもあります。2003年のイラク戦争で、フランスとドイツがこれに反対したことは、冷戦期以来の大西洋同盟の亀裂を大きくしました。その後、グアンタナモ基地での拷問問題など、米国より「法の支配」と「人権」を尊重する立場を鮮明にしたことも、これに拍車をかけました。また、EUがマイクロソフトを独占禁止法の対象にしたように、経済的にも西欧は米国と常に足並みを揃えてきたわけではありません。冷戦終結後に米ソ二極体制が崩壊し、米国一極体制が鮮明になるなか、EUは独自の存在感と発言力を求めてきたといえます。

ただし、その方向性が全く同じでないにせよ、「欧米」諸国が政策を共有することもまた稀ではありません。ISに対する有志連合には、多くの西欧諸国が加わっています。ウクライナ情勢をめぐっては、米国ほど強硬にではないものの、EUが対ロシア経済制裁の一角を担っています。

特に開発途上国に対する態度において、両者の立場は一致することが目立ちます。今回のギリシャ危機でも登場するIMFは、世界銀行とともに「ブレトン・ウッズ機構」と呼ばれ、出資額に比例して発言力が決まる意思決定システムを備えています。そのため、必然的に「欧米」諸国の意思が強く反映されます。

例えば、1974年の石油危機の後、やはり債務危機に直面したラテンアメリカやアフリカの各国に対して、やはりIMFや世界銀行は融資の条件として、緊縮財政とともに規制緩和を求め、相手国の経済政策に深く立ち入るようになりましたが、この点において欧米諸国の間に大きな差異はありませんでした。また、冷戦終結後には、開発途上国に対する援助の前提条件として、人権保護や民主化が求められるようになりましたが、この点でも総じて、欧米諸国の間に大きな温度差は見受けられません。

すなわち、西欧諸国は米国との差異を意識しながらも、多くの場合、経済、安全保障の両面でパートナーシップを維持してきたといえるでしょう。それによって、「米国が引っ張り、西欧がそれを制動しようとするが、一度合意ができれば両者で管理する」という、広い意味で「欧米主導の国際秩序」が冷戦終結後に生まれたのです。その意味で、米国からみて西欧、特に「言うことを聞かないことが目立つ」フランスやドイツは、時に目障りで、警戒の対象であったとしても、自らを中心とする国際秩序の維持にとって、少なくとも他よりは当てになる存在といえます。

この観点からすると、EUの繁栄が損なわれる事態は、米国にとっても「口やかましい小姑が転んだ」と笑っていられない状況を生みます。「少なくとも他よりは当てになるパートナー候補」の混迷は、「欧米主導の国際秩序」の求心力を損ない、ひいては米国のパワーの低減につながるからです。

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図2は世界のGDPのシェアを示しています。世界金融危機が発生した2008年の前後から、西側先進国のシェアは軒並み長期的な低下傾向を示していますが、なかでもEUのそれは顕著です。その一つの大きな要因に、ギリシャ問題に端を発するユーロへの信頼の低下があることは、言うまでもありません。経済力がパワーの全てでないとしても、経済力ぬきのパワーはあり得ません。今回のギリシャの混迷とEUの停滞は、「欧米主導の国際秩序」のタガをますます緩める導火線になり得ると言えるでしょう。

むき出しの市場経済と民主主義の果てに

ただし、「欧米主導の国際秩序の求心力が低下するとしても、それが自動的に中国の利益になるとは限らない」という批判もあり得るでしょう。実際、ギリシャ問題に端を発するヨーロッパ経済の低迷は、冒頭で触れたように、中国経済にも少なからず悪影響を及ぼしています。多くのエコノミストが指摘するように、上海市場の底割れを防ぐため、中国政府は約半数の銘柄の取引停止を含め、あらゆる手段を動員していますが、これが習近平政権の強調する「改革路線」に逆行することは確かです。

しかし、「なりふり構わない」政策の実施は、少なくとも短期的には、相応の効果をもたらすとみられていますダイヤモンド・オンラインによると、これまた多くのエコノミストは、上海総合指数で3400ポイントを節目とみており、様々な政策の効果により、現時点では3200~3400ポイントで踏みとどまるのではないかと捉えています。この見方に従うなら、将来的にはともあれ、少なくとも今回、中国が被るダメージが表面化する可能性は小さいといえるでしょう。

パワー関係とは相対的なものです。劣位にあるAが力を落とす間に、優位にあるBがそれ以上に力を落とせば、結果的に双方の力の差が詰まることになります。言い換えると、ギリシャ危機が長期化した場合、欧米諸国が被るダメージの方が中国の被るそれより大きくなり、結果的には2008年以降の世界で急速に進む多極化が、一層加速し得るといえます。

その場合、注意すべきは、「ダメージ」とは経済的損失のみを意味しないことです。むしろ重要なことは、ギリシャ危機が「市場経済と民主主義」という冷戦終結後の欧米諸国が唱道してきた価値観に対する信頼に、ひびを入れるものであることです。

既にみたように、世界的なカネ余りのもとで、ガバナンスに問題がある国にまで過剰な資金が海外から流入し、突発的な事態を引き金に投資家が資金を一斉に引き上げたことが、ギリシャ危機の引き金になりました。資本の過剰な流入・流出は、その国の経済にとって深刻なダメージとなりますが、資本移動を制限することは、世界貿易機関(WTO)のルール上、多くの場合困難です。

市場経済が効率性で優れていることは、改めて言うまでもありません。しかし、ひたすら規制緩和を求め、資本の自由移動を容認することが、一国の経済を破綻の淵にまで追いやりかねないことを、ギリシャ危機は改めて想起させたといえます。これは翻って、「ワシントン・コンセンサス」と呼ばれる米国-IMF-世界銀行の三者による市場経済化の要求にさらされてきた多くの開発途上国にとって、欧米諸国が求める路線への懐疑となり得ます。

同様の事態は、過去にもありました。アジア通貨危機の後、IMFは今回のギリシャと同様、タイや韓国に対して、緊縮財政と規制緩和を軸とする政策条件をつけた構造調整融資を行いました。その際、米国やIMFは「アジア型の縁故資本主義(Crony Capitalism)が限界を迎えた」と強調し、一段の市場経済化を求めたのです。一方、マレーシアは通貨危機の後に資金の出入りを量的に規制しましたが、これを米国やIMFは「市場経済の原則に反する」と批判。結果的に、マレーシアは米国/IMFと鋭く対立しました。しかし、結果的には、市場経済の原則に必ずしも則さないマレーシアの方が、構造調整融資を受けたタイや韓国より早く回復したのです【吾郷健二,2003,『グローバリゼーションと発展途上国』,コモンズ,第6章】。

今回の場合、アジア通貨危機と異なり、融資をテコに経済改革を迫るものと迫られるものは、いずれも西側先進国、より厳密には西欧諸国同士です。すなわち、アジア通貨危機のとき以上に、多くの開発途上国にとって、欧米諸国の経済モデルに対する信頼を低下させたとしても不思議ではありません。

これに加えて、「緊縮財政反対の是非を問う」国民投票は、少なくとも形式上は国民の意思を問うもので、その意味で民主的といえるでしょうが、ギリシャ以外の国から好意的に受け止められているとは考えられません。さらに、冒頭で触れたように、国民投票で「緊縮反対」を叫びながらも結局はEU/IMFの要請に沿ったチプラス首相の改革案は、その内容が現実的であるにせよ、国民投票そのものを形骸化させるものでもあります。

冷戦終結後、「欧米」諸国は市場経済とともに、「普遍的価値」として民主主義の重要性を喧伝し、開発途上国に対する援助の前提条件としてきました。しかし、今回のギリシャの状況は、その信頼や魅力を損なうものと言わざるを得ません。それは、ひいては「欧米」諸国のいわゆるソフト・パワーを低下させるといえるでしょう。

ワシントン・コンセンサスと北京コンセンサス

「国家資本主義」とも呼ばれる、政府が経済活動に深く関与する中国の開発モデルは、欧米諸国からは評判の悪いものです。さらに、相手国の人権保護や民主化にかかわらず援助を提供することも、欧米諸国からの批判の対象になっています。

しかし、多くの開発途上国、なかでも貧困国の政府は、「面倒なことを言わないで効率的に経済を成長させる」中国型開発モデルに必ずしも否定的な態度を示していません。中国もまた、その国際的な足場を固めるため、多くの開発途上国にアプローチしています。その急激な経済成長を背景に、中国が各地域の開発途上国を定期的に北京に招き、それらをネットワーク化していることは、米国などで「北京コンセンサス」への警戒感を強めています。しかし、欧米諸国の圧倒的な影響力にさらされてきた開発途上国にとって、中国はかつてのソ連と同様、バランスをとる存在、いわゆるカウンターバランスでもあります。その意味で、日本では概ね警戒感をもって受け止められるAIIBに、多くの国が参加していることは不思議ではありません。

それに加えて、7月8日から開催されたBRICS会議では、昨年の会合で設立が正式に合意された金融機関「新開発銀行」が始動することになりました。同銀行は開発途上国への融資を基本的な業務とします。AIIBと異なり、BRICS5ヵ国が出資金を均等に負担する形式ですが、実際の運用資金は、他の4ヵ国の合計とほぼ同じGDPをもつ中国によるものが多くなると見込まれています。

新開発銀行は、IMF/世界銀行と競合するものです。これらブレトン・ウッズ機構は1980年代以降、開発途上国に向けた融資で大きな比重を占めてきましたが、融資にあたって規制緩和などの経済改革を要求し、さらに冷戦終結後は人権保護などを暗黙の前提としてきたため、いきおい相手国のない政府深くかかわることになり、当の開発途上国の間で必ずしも芳しい評価を得てきませんでした。新開発銀行の設立はその不満を吸い上げた格好ですが、同時にそれはIMF/世界銀行のなかで中国など新興国が発言力を抑えられたことにも起因します。

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先述のように、IMF/世界銀行は出資額に比例して発言力が決まり、歴史的に日本を含む西側先進国がその意思決定を左右してきました。しかし、図3で示すように、世界金融危機の後、EU諸国はその負担の軽減を希望するようになり、入れ替わりに新興国が出資額を増やしました。ただし、IMF/世界銀行はグローバル金融の要であり、覇権国・米国にとっては重要なパワーの源泉でもあります。そのため、米国は新興国の出資額の増加を抑え、その発言力が大きくなりすぎないようにしたのですが、これが結果的に新興国側の反発を強めました。既存の金融機関のなかで発言力を伸ばせなかった新興国、なかでも中国は、新開発銀行やAIIBの設立を加速させていったのです。これに象徴されるように、米国の牙城ともいえるグローバル金融の分野においても、西側先進国と新興国なかでも中国の角逐は激しさを増しているといえます。

この状況は、「欧米」主導の国際秩序の流動化をさらに加速させるものです。つまり、かつての冷戦時代のように、「資本主義対共産主義」といった明白なイデオロギー対立でないにせよ、現代では欧米諸国と中国の間で経済発展や統治に関する方針の違いが鮮明になっており、多くの開発途上国はそれらを選べる立場にあります。もちろん、中国型モデルに関する否定的な見解は、多くの開発途上国でも聞かれますし、長期的には問題もはらんでいます【六辻,2015,「アフリカにおける中国のソフト・パワー構築」】。ただし、冷戦終結後に「欧米」諸国が提起し続けてきた「普遍的価値」に大きな傷がついた以上、それは翻って中国型モデルに関する評価の相対的な向上につながり得ます

すなわち、ギリシャ危機が国際秩序に大きく影響を及ぼすとすれば、それはEUの経済的混乱といった物質的な側面よりむしろ、目指すべき世界像に関する精神的な側面が大きいといえます。言い換えるならば、ギリシャ危機をできるだけ速やかに処理できければ、「市場経済と民主主義」に対する信頼感、ひいては西側先進国主導の国際秩序の求心力が低下し続けるとみた方がよいでしょう。その場合、長期的に「漁夫の利」を得る確率が最も高いのは、中国に他ならないといえるのです。

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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