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大統領選挙を前に過激化するボコ・ハラム:掃討が困難な背景

六辻彰二国際政治学者

2014年4月に200名以上の女子生徒を誘拐し、一躍その名を世界に知らしめたボコ・ハラムは、昨年末からそれまで以上に攻撃をエスカレートさせています。1月3日、北東部のバガの街が襲撃されて数百人が殺害され、これまでで最悪の被害を出しました。なかには分娩中の女性もいたといわれます。そのうえで、ナイジェリア、ニジェール、チャドの各国部隊が使用していた基地が占領され、多くの武器がボコ・ハラムに渡りました。さらに、1月25日には軍事上の要衝であるモングノの基地も奪取されました

最近では、女性がテロの実行犯になるケースも増しています。昨年12月には、北部カノでボコ・ハラム支持者の両親から自爆テロを強要された少女が保護されました。AFPは、年長女性の場合は、ボコ・ハラムに対する思想的共鳴や政府軍に夫や息子を殺害されたことへの報復として、自発的に自爆テロに関わることが多いが、若年層の場合は強制されることが多いという見方を紹介しています。

ボコ・ハラムが、これまで以上に攻撃をエスカレートさせている要因として、2月14日に行われる予定の大統領、議会選挙があげられます。ナイジェリア現体制の打倒を叫ぶボコ・ハラムにとって、選挙前に国内が混乱する状態は、グッドラック・ジョナサン大統領をはじめとする政府への国民の信頼を失墜させるうえで、格好のタイミングになっているのです。

「イスラム国」に劣らない凶暴さ

2002年に設立され、2009年から本格的に当局と武力衝突を繰り返してきたボコ・ハラムは、「イスラム国」/ISILなどと比較して、高度な戦闘訓練を受けたり、メディアを利用して相手を心理的に揺さぶったりする、テロ組織としての成熟度という点では及びませんが、逆に凶暴さ、見境のなさという点では、これを凌ぐといえます。

米国務省の報告によると、2013年度の主なテロ組織による襲撃のデータは、下記の通りです(名前、襲撃件数、殺害人数、一回の襲撃当たりの殺害人数)。

  • タリバン:641回、2,340人、3.65人
  • ISIL:401回、1,725人、4.30人
  • ボコ・ハラム:213回、1,589人、7.46人

これらワースト3のうち、ボコ・ハラムは襲撃件数や殺害人数でタリバンやISILより少ないものの、一回の襲撃当たりの殺害人数はその約2倍に及びます。

殺害だけでなく、女子生徒誘拐事件に代表されるように、ボコ・ハラムは頻繁に誘拐事件を起こしています。油田地帯を確保している「イスラム国」/ISILと異なり、ボコ・ハラムは財政的に必ずしも豊かでなく、その資金源のほとんどは誘拐の身代金、人身売買を含む密輸、ナイジェリアの一部の富裕層からの「献金」とみられていますが、その見境のなさは、誘拐の仕方からもうかがえます。

ボコ・ハラムの活動拠点であるナイジェリア北部は、農業とともに牧畜が主な産業です。ボコ・ハラムは各地の村を襲い、集団で女性を誘拐し、身代金の代わりに牛を要求することが珍しくありません。ボコ・ハラムは昨年8月、「イスラム国」/ISILのように、北東部のグウォザでの「建国」を宣言しましたが、活動地域の支持者でない住民の財産を根こそぎ奪おうとする貪欲さにおいて、前者は後者を凌ぐとさえいえるかもしれません。

また、その名を広める契機となった集団誘拐に関しても、計画性のなさを示す情報が伝えられています。先述した1月3日のバガ襲撃で、ボコ・ハラムは数百人の女性と子どもを、彼らが占拠した寄宿学校に拘束していましたが、そのうち100人以上が14日に解放されました。AFPによると、解放された一人の女性は「拘束され、ボコ・ハラム戦闘員らの身の回りの世話をさせられていたが、精神に破綻をきたす人が出始めると、彼らは人質を持て余して解放した」と話したと伝えられます。その一方で、ボコ・ハラムからみて人身売買などで「利用価値の高い」若い女性は、決して解放されなかったといわれます。

この計画性のなさと打算的な態度からは、目的のために手段を問わないプロのテロ組織というより、見境なしに暴力的な手段に訴える野盗集団に近いボコ・ハラムの特徴をうかがうことができます

ナイジェリア政府への批判

選挙を目前にした時期のボコ・ハラムの猛攻に、しかしナイジェリア政府は充分対応できておらず、国内では政府に対する批判も小さくありません。

もともと、ナイジェリアは大陸最大の産油国で、この10数年の資源ブームによって投資が相次ぎ、空前の好景気のもとにありました。しかし、もともと石油産業は雇用を多く生むものでなく、さらに同国の油田の多くは南部の沿岸部にあり、北部は好景気から取り残された感もありました。さらに、ナイジェリアでは汚職が蔓延しており、例えば2014年3月にはナイジェリア国営石油(Nigerian National Petroleum Company)が過去19ヵ月にわたって収益のうち毎月10億ドルを過少申告していたという疑惑が浮上しました。この背景のもと、大陸最大の1億7,000万以上の人口を抱える同国では、約80パーセントの人口がいまだに1日2ドル未満の所得水準にあります

生活に由来する政府への不満は、ボコ・ハラムの台頭を促し、さらにその過激化はより一層の政府批判の呼び水にもなっています。2009年に初めて当局と大規模な衝突をする以前、治安機関はボコ・ハラムが武器を大量に集めていることを把握していませんでした。さらに、昨年の女子生徒集団誘拐事件の後、ナイジェリア政府が「治安上の理由から」国内での “Bring back our girls”デモを禁止したことも、「政府批判を抑え込もうとしている」という批判を招きました。

これに加えて、ナイジェリア政府がボコ・ハラムとの戦闘に関して、虚偽の情報を流したことも、政府批判をより高めました。2014年6月、首都アブジャと最大都市のラゴスで爆破テロ事件が相次いで発生しましたが、当初当局はこれを「調理用ガスボンベの爆発」と発表。しかし、ボコ・ハラムが後に犯行声明を出したことで、ナイジェリア政府の虚偽の発表が明るみに出たのです。

同様に、9月末に政府はボコ・ハラムの指導者で米国政府が700万ドルの懸賞金をかけているアブバカル・シェカウ容疑者の死亡を宣言しましたが、10月初旬にインターネット上の動画で、シェカウ自身がこれを否定。さらに10月には、政府が「ボコ・ハラムと女子生徒の解放と停戦に関して合意した」と発表した後にボコ・ハラムがこれを否定するなど、政府による虚偽の発表とボコ・ハラムの否定という不手際が相次ぎ、これは国内の政府批判を広げることになったのです。

ナイジェリア軍の不満

市民からだけでなく、ボコ・ハラムに直接的に対峙しなければならないナイジェリア軍からも、政府への批判が出ています。

2014年10月9日、ナイジェリア軍の参謀長は「ボコ・ハラムはISILと同じくらい危険だが、みんなシリアに向かっている」と述べました。これは米国主導の有志連合が「イスラム国」/ISILに関心を集中させることへの不満ですが、それは裏返せばナイジェリア軍だけでは手が足りないことを示唆するものです。

大陸最大の産油国であるナイジェリアは、アフリカ全体のGDPの約15パーセントを握る、南アフリカに次ぐ地域大国です。また、1990年代に西アフリカ各国で内戦が相次いだ際、その軍事力をもってそれらの鎮圧に少なからず貢献してきました。ナイジェリアが西アフリカの「長兄」(big brother)を自認することは、故のないことではありません。

しかし、そのナイジェリア軍の参謀長が体面抜きに窮状を吐露し、「外国の支援不足」を公の場で述べることは、外国政府だけでなく、ナイジェリア政府に対する批判をも暗に含むとみられます。2014年12月、武器の不足を理由にボコ・ハラム掃討作戦への参加を拒絶した兵士54人に、軍事法廷は「反乱罪」により死刑判決を下しました。各地の駐屯地などを襲撃するなかで、ボコ・ハラムは携帯式ロケット弾など破壊力の高い兵器を手に入れ、武装を強化しています。これに対して、末端兵士からは「武器の不足」への不満が噴出しているのです。

ボコ・ハラムとの戦闘が激化するにつれ、ナイジェリアの軍事予算そのものは増加しています。

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ただし、投資の流入によって促されたインフレ率の上昇は、一時期よりそのペースが衰えたとはいえ、以前として10パーセント前後あります。インフレの加速により、軍事費の名目金額上の増加は相殺されがちです。

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ナイジェリア政府の「メンツ」

その一方で、「イスラム国」/ISILあるいは中東と比較して、ボコ・ハラムあるいはアフリカに対する国際的な関心が低下していることも、やはり否めません。ただし、国際的な支援が必ずしも十分でないことは、ナイジェリア政府自身にも原因があります

2014年4月の女子生徒誘拐事件の直後、世界的に関心が高まった際、米国や英国などは航空機や偵察衛星による捜索といった協力を行いました。しかし、ボコ・ハラム掃討に対する直接的な軍事支援は、ほとんど行われていません。1月31日、ボコ・ハラムに占領されている北東部ガンボルを、ナイジェリア軍は自力で空爆しました

イラクやシリアと異なり、欧米諸国なかでも米国が直接的に関与しない背景には、ナイジェリアとアフリカに特有の事情があります。もともと、植民地支配の歴史もあり、アフリカ諸国には外国なかでも欧米諸国の軍隊が駐留することを忌避する傾向があります。もちろん、例外もあり、フランス語圏の小国にはフランス軍に安全保障を依存する国も珍しくなく、2012年末に分離独立運動が顕在化したなかでフランス軍に介入を要請したマリなどは、その典型例です。

とはいえ、先述のようにナイジェリアには地域大国としてのメンツがあります。1990年代以降、地域の安定を担ってきた自負が強いため、おいそれと直接的な軍事支援を要請することは、ナイジェリア政府にはほぼ不可能といえるでしょう。

ナイジェリアと欧米諸国の隙間風

ただし、ナイジェリア政府は直接的な軍事支援に触れない一方で、米国政府との間で兵員の訓練や武器供与といった協力に関する協議を続けてきました。ところが、2014年12月1日、米軍によるナイジェリア軍の訓練が突如中止になりました。それに先立つ11月には、駐米ナイジェリア大使が、米国がナイジェリアに対する攻撃ヘリAH-1コブラを含む武器の輸出に合意しないと批判していました。

米軍のうちアフリカを管轄する米アフリカ軍(AFRICOM)の最高司令官ロドリゲス将軍はナイジェリア情勢への懸念を示しています。それにもかかわらず、当の米国政府がナイジェリアへの武器輸出を認めない背景には、「ナイジェリア軍にはコブラなどハイテク兵器の維持・管理はおろか使用もできない」という懸念だけでなく、ナイジェリアの人権状況があるとみられます。

ナイジェリア国内では、もともとボコ・ハラムの一件とは別に、政府に批判的な市民に対する弾圧が珍しくありません。さらに、武器・弾薬が十分でないままボコ・ハラムに対峙することを求められるなか、軍隊の士気と規律の低下も指摘されています。そのなかで、ナイジェリア軍によって「敵」とみなされた人間に対する扱いが非人道的という批判を受けることも、稀ではありません。2014年8月、アムネスティ・インターナショナルは、ナイジェリア軍や政府を支持する民兵組織が行っている、ボコ・ハラムやその支持者に対する「裁判を経ない処刑」が、「戦争犯罪」にあたると批判しました。

米国は人権状況に問題がある国の軍隊に武器を提供することを、国内法で禁じています。対テロ戦争が始まって以来、テロ対策と人権尊重は常に二律背反する課題としてあり、グアンタナモ基地での拷問や、パキスタンなどでの無人機攻撃など、米国も常に人権尊重を優先させているとはいえませんが、少なくとも駐ナイジェリア米国大使は「ナイジェリア政府はハイテク兵器の輸入より、末端の兵員が訴える弾薬不足の解消など、もっと基本的な事柄に力をいれるべきだ」と主張しており、米国の対ナイジェリア武器禁輸の意思は固いものとみられます。

対テロ戦争の「ローカル化」

ボコ・ハラムによる攻撃がエスカレートするなか、1月25日にケリー米国務長官が急きょナイジェリアを訪問。ジョナサン大統領、対立候補のブハリ元最高軍事評議会議長それぞれと会談しました。しかし、ケリー長官は暴力によって選挙が混乱することを避ける必要を強調し、ボコ・ハラムを非難しましたが、それまでの経緯もあり、伝えられている範囲で、軍事支援についての協議はなかったとみられます。

直接の軍事支援に消極的であるだけでなく、米国はナイジェリアが第三国から自国兵器を輸入することも認めていません。1月26日、イスラエルのイェルサレム・ポスト紙は、米国政府がイスラエル政府からナイジェリア政府に対する大型輸送ヘリCH-47チヌーク売却計画を中止させたと報じました。チヌークなど米国製のハイテク兵器は、それを輸入した国が第三国に売却する場合、米国の同意が必要になります。この場合、米国政府は「米国の政策的一致」の観点から、ナイジェリアへの売却を認めなかったのです。

米国をはじめ欧米諸国が総じて武器提供に消極的な状況のなか、ナイジェリア政府は闇市場から武器を調達しようとしているとも伝えられています。2014年11月、930万ドルの現金を積んだ飛行機が南アフリカ当局に制止されました。これはナイジェリア政府が南アフリカで武器を調達しようとしたものといわれます。さらに、南アフリカからは100名以上の民間軍事企業関係者がナイジェリアに向かったとも伝えられています。

その一方で、やはりボコ・ハラムの直接の被害を受けている、近隣のカメルーン、チャド、ニジェールは、ナイジェリアとの軍事協力を強化しています。なかでも、近年とみにその軍事力を強化しているチャドは、2月4日、ナイジェリア領にまで初めて部隊を進め、ボコ・ハラム戦闘員200名以上を殺害したと発表しました。

いくつもの条件が重なるなか、アフリカにおける対テロ戦争は、ほぼアフリカ勢だけで対応せざるを得ない状況にあるといえます。独立期以来、アフリカ各国は植民地支配の型家から、アフリカ内部の紛争はアフリカ内部で解決することを目標にしてきました。1990年代に各地で内戦が吹き荒れた時期に、国連などのバックアップのもと、その方針はより強化されました。その意味で、ボコ・ハラムにアフリカ各国だけで対応することは、本来アフリカが望んでいた方向性かもしれません。

しかし、ナイジェリア政府自身が撒いたタネという側面があるにせよ、必要な武器・弾薬さえも調達がおぼつかなくなり、政府が闇市場に手を出すところにまで至っている状況は、ボコ・ハラム対策の将来の暗雲を象徴します。2月14日の選挙でいずれの候補が勝つにせよ、ナイジェリア政府がこれまでの不手際を相殺するほどの成果を今後出せないようであれば、政府不信がさらに国内に広がり、それはボコ・ハラムをさらに活気づかせることになるといえるでしょう。

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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