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シリア国民連合の設立-内外の架橋は成るか

六辻彰二国際政治学者

シリア国民連合とシリア国民評議会

11月11日、カタールの首都ドーハで、シリアの反体制派が結集した「シリア国民連合」の設立が合意され、穏健派のイスラーム聖職者アフマド・モアズ・アル・ハディブ(Ahmad Mouaz al-Khatib)が代表に選出されました。これはシリア情勢において、どんな意味をもつのでしょうか。

これまで、アサド政権と対立する諸勢力の代表格として、特に欧米諸国から認知されてきたのは、亡命した在外シリア人たちを中心に構成され、トルコのイスタンブールに拠点をもつ「シリア国民評議会」でした。在外シリア人たちのなかには、欧米や湾岸諸国でビジネスに成功したひともあり、その資金は国民評議会を通じて、シリア国内で政府軍と戦闘を続ける自由シリア軍へも、軍資金として渡ってきました。

しかし、国民評議会はかねてから、内外の反アサド勢力を結集する力を疑問視されてきました。その最も大きな要因として、国民評議会の主要メンバーのほとんどが長くシリアから離れ、国内との緊密な関係が薄いことがあげられます。のみならず、国民評議会はシリア国内の基準からすれば、多分に欧米志向が強いことも、その一因でした。

外部エリートの集団としての国民評議会

2011年8月に、国民評議会の初代議長に就任したブラン・ガリアン(Burhan Ghalioun)は、もちろんシリア人ではありますが、1969年にフランスに移り、学位を得た、パリ大学の社会学教授。スンニ派のムスリムで、シリアの反体制派に欧米諸国との安易な協力を戒め、内部からの改革を訴えてはいましたが、やはり国民評議会に所属するムスリム同胞団幹部は、ガリアンの議長就任が「シリア騒乱のなかでイスラーム主義者の勢力が広がるのを恐れた欧米諸国に受け入れられるものだったから」と述べています。この証言に象徴されるように、一般的なシリア人の目に、ガリアンがあまりに西欧化されすぎ、自分たちからかけ離れた存在に映ったとしても、不思議ではありません。

結局、ガリアンは在外シリア人をもまとめきれず、それに代わって今年6月に議長に就任したのは、スウェーデンを拠点に、シリアの少数民族クルド人の権利回復運動を行ってきた、アブデュルバセド・シダ(Abdulbaset Sida)です。クルド人はトルコ、イラン、イラク、シリアなどの一帯で暮らし、固有の文化からいずれの国でも自治権を要求しながらも、各国政府から弾圧されてきた、「世界最大の少数民族」です(米軍によるイラク攻撃後のイラクでは、新憲法のもとで各州に高い自治権が付与され、クルド人の政治的権利も保障されている)。欧米諸国で同情を集めるクルド人を議長に据えたことも、少なくとも結果的には、対外的なイメージ向上に寄与しました。

一方で、議長がクルド人であるにも関わらず、国民評議会にはシリア国内のクルド人勢力とほとんど結び付きがありません。シリア国内でクルド人の権利回復と民主化を求めているクルド民主党(Kurdish Democratic Party of Syria)からは、やはり少数民族としてのクルド人の権利を制約しているトルコから支援を受けていることを念頭に、「国民評議会にはトルコの影響が強すぎる」とも評されます。結局、欧米諸国を中心に国際的な認知を引き出したとはいえ、国民評議会は反アサド勢力を結集するには至らなかったのです。

シリア国民連合の設立がもたらし得るもの、もたらし得ないもの

これに鑑みれば、今回ドーハで、アメリカ国務省やカタール、トルコなどの仲介のもと、シリア国民連合が結成されたことの意義は小さくありません。議長のハディズは、2011年と2012年に反体制蜂起を支援したとして逮捕されたことがあり、3カ月前までシリア国内にとどまっていました。そのうえ、どの政治組織にも属さず、ムスリム同胞団などイスラーム政党との関係もないとみられています。その議長就任は、海外と国内、世俗と宗派のバランスからみた場合、ごく順当とさえ言えるかもしれません。少なくとも、これによって内外の反アサド勢力が、より結集しやすくなったのは確かです。

ただし、シリア国民連合が、全ての反アサド勢力を結集することは基本的に不可能と思われます。内戦発生以来、シリアには近隣諸国から反アサドのスンニ派、親アサドのシーア派の民兵がそれぞれ流入しており、その多くは立場こそ違っても、厳格なイスラームの教義に基づく国造りを志向する点で共通します。これらが半ば自律的に活動することが、シリア情勢を複雑にしているのですが、いずれにせよ、欧米諸国やトルコ、湾岸諸国から支援されるシリア国民連合に、周辺国から流入した、スンニ派の急進的な民兵が合流することは予想しにくいのです。

とは言え、リビアのケースをみても分かるように、反体制派の結束は、戦闘の観点からだけでなく、国際的な支援や認知の確保の面からも、極めて重要な意味をもちます。今後の展開は予断を許さないものの、シリア情勢は反体制派の有利に、さらに傾いたと言えるでしょう。

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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