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ささやき声をリアリティたっぷりに聴かせてくれるfinal E500は、新しいイヤホン市場を開拓しそう

武者良太ガジェットライター
ASMRやシチュエーションCD好きの方も注目のVR向けイヤホンE500 筆者撮影

2000円台の格安イヤホンが一部ユーザーの間で盛り上がっている

イヤホンやヘッドホンで聞くと、異様といえるほどにリアルで艶めかしいサウンドが聴けるASMR動画が流行中です。

ASMR動画とは別名音フェチ動画とも呼ばれるもので、音そのもののリアリティを追求したコンテンツ。気持ちよさを感じるサウンドと、音を鳴らしているところの動画をあわせたもので、その中には耳もとでささやかれる、耳かきをしてもらう、背後から足音が近づいてくるなど、音場におけるHi-Fi性を追求したコンテンツもあります。

これらのコンテンツは主に、イヤホンやヘッドホンでのリスニング時に忠実な音場を再現できるバイノーラルマイクを使って録音されたものが主流。そして現代はイヤホンやヘッドホンでのリスニングがスタンダード。シチュエーションCDと呼ばれる一種のドラマCDの製作にも使われています。

1980円の有線イヤホンfinal「E500」の音の鮮明度が高くてASMR聴くのに最高

で、ですね。ASMR動画やシチュエーションCDをこよなく愛しているリスナーが注目しているイヤホンがあるのですよ。それが2007年に生まれた日本国内のオーディオブランドfinalのE500です。

E500の商品パッケージ(筆者撮影)
E500の商品パッケージ(筆者撮影)

女性からも注目されているイヤホンはめずらしい

僕はfinalが開催した「イヤホン・ヘッドホンがもっと楽しくなる音響講座」に参加したときに、来場者へのお土産としてこのE500を頂いたのですが、本来はOculusやPlayStation VRで楽しむVRコンテンツ向けに開発されたイヤホンと聞いていました。

ところが後日、finalを率いるS'NEXT代表取締役社長の細尾満氏にお話を聞くと、「女性の購入比率がいままでにないくらい高い」というじゃないですか。「女性のお客さんが、シチュクラ(シチュエーションCDクラスタ)の方にオススメもしていた」というじゃないですか。

旧来からオーディオ機器の購買層は男性が中心でした。しかしE500は女性のお客さんからの引き合いも強いとのこと。Twitterなどで調べてみると、シチュエーションCDなどを楽しんでいる方も注目しているとあって驚いたそうです。

従来のイヤホンだと違和感が残るVRコンテンツのサウンド

しかしVRコンテンツ用イヤホンというのは珍しい。普通のイヤホンではなにか問題があるのでしょうか。

S'NEXT代表取締役社長 細尾満氏(筆者撮影)
S'NEXT代表取締役社長 細尾満氏(筆者撮影)

「耳の外側にマイクがついたバイノーラルマイクの音を聞くと、嫌な感じのする高域の響きがあるんです。独特のバイノーラル録音の音っていうものが出てしまって没入しきれない。これは音の研究者によって昔から知られていたことなんですけど、その問題を解決するためにはイヤホンの精密度を高めればいいんじゃないかと思ったんですね」(細尾氏)

そこで社長である細尾氏が自ら「私ならコンプライアンスの問題が生じないので(笑)」と実験台となり、耳の奥、鼓膜の近くまでマイクを差し込み様々な実験を繰り返したそうですが、ある段階からいくら精度を高めても聞こえる音が気持ちの悪いものになってしまったと。

「不気味の谷現象でしょうか。測定値と聴感が合わなくなってしまったんです」(細尾氏)

精密度を高めれば高めるほど、かえって音が悪くなってしまったことからいったん挫折をしてしまった細尾氏。ですが、現在特許取得中とのことで詳細はお話しいただけなかったのですが、別の仮説を思いついて試してみたとのこと。

「普通のバイノーラルサウンドはソフトウェアで録音信号を処理しているのですが、これを聴いても不自然感が残る。だったら、この信号処理に適したハードウェアがあるんじゃないかと考えて作ったのがE500なんですよ」(細尾氏)

イヤホンの新しい市場を切り開く可能性をもった商品

スタンダードな見栄えの有線イヤホンだが、従来製品とは異なるアプローチで作られている(筆者撮影)
スタンダードな見栄えの有線イヤホンだが、従来製品とは異なるアプローチで作られている(筆者撮影)

結果としてE500は、直販価格2020円という安価なイヤホンにしては広大な音場再生が得意で、左右の音のセパレーションにも優れたイヤホンに仕上がりました。普通のイヤホンより高域がスッキリと聴こえてきて、音の鳴っている方向をつかみ取りやすいため、確かにE500はVRコンテンツ向きだと思えるサウンドをもたらしてくれるものでした。

特に中音域の聞き取りやすさに優れており、議事録や取材録音データからの文字起こしとか、英会話のリスニング教材を聴くのにもいいかもな、と思っていたのですが、まさかシチュエーションCDクラスタに注目され、ASMR好きのハートも射止めることになるとは。

これはイヤホンの新しい市場を切り開く可能性をもった商品といえるでしょう。Oculus Quest用に、分割プラグ・ショートケーブルのモデルをリリースしてほしい気もしますが「Facebookさんに連絡しているのですが、返事がないんですよね(笑)」。

上位モデルの開発にも意欲的

ただし、価格帯的に仕方ないとは思うのですが、複数の音が重なり合うと明瞭感が薄れるところがあります。

そのため「今後は同じ発想を生かした上位モデルも開発します」そうです。おお。これは期待度高い。

「Hi-Fiなサウンドをバイノーラル録音したものと、ゲームサウンドのように立体音響レンダリングで作られたものだと聴こえ方が違うんです。だから爆発音やヘリコプターのローター音がリアルに聞こえるもの、ささやき声がリアルに聞こえるものなど、いくつかのバリエーションを出すかもしれません」(細尾氏)

イマーシブオーディオ好きにも刺さりそうです。

ガジェットライター

むしゃりょうた/Ryota Musha。1971年生まれ。埼玉県出身。1989年よりパソコン雑誌、ゲーム雑誌でライター活動を開始。現在はIT、AI、VR、デジタルガジェットの記事執筆が中心。元Kotaku Japan編集長。Facebook「WEBライター」グループ主宰。

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