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韓国代表は通算505盗塁のイケメン元プロ選手 手打ち野球「ベースボール5(ファイブ)」って何だ?

室井昌也韓国プロ野球の伝え手/ストライク・ゾーン代表
ベースボール5韓国代表のイ・デヒョン氏(写真:大韓野球ソフトボール協会)

「手打ち野球」の国際大会に韓国の元プロが参戦

大韓野球ソフトボール協会は8月に行われるベースボール5(ファイブ)の国際大会、「第1回 WBSC-ASIA Baseball5 アジアカップ」(マレーシア・クアラルンプール)に参加する韓国代表メンバーを発表した。

選手兼コーチを務めるのは2019年限りで現役を引退した、元プロ野球選手のイ・デヒョン氏(38)。同氏は盗塁王を4度獲得し、通算盗塁505個はかつて中日でもプレーしたイ・ジョンボム(現LG2軍監督)に次ぐ歴代3位を誇る。「スーパーソニック」という愛称と、スタイリッシュなルックスで注目された人気者だ。

その元プロ選手が参加する「ベースボール5」がどんなスポーツかご存じだろうか。簡単に説明するとバットとグラブを使わず、ゴムボール1つでプレーする5人制の競技。言わば「手打ち野球」だ。

「元盗塁王が手打ち野球をやったら、バントヒットで楽々セーフでは?」と思う人もいるだろう。しかしベースボール5はルールがとてもよく出来ていて、俊足、プロ出身だからといって必ず出塁出来るわけではない。

筆者は先日「Baseball5リーグTOKYO」が主催した、子供たちが参加のジュニア・カップ大会を訪れ、ベースボール5に初めて触れた。

バント、ホームランなし。スピーディーな試合展開

ベースボール5に投手と捕手はいない。5人全員が内野手だ。打者は「ノック」をするように自らボールを上げて素手で打つが、ホームベースの前、ファールラインの4.5メートル(※)の位置から引かれた直線の内側で、打球がバウンドした場合はアウト。つまり、ちょこんと当てるだけで走り出したり、ボールを叩きつけて一塁セーフを狙うことは出来ない。

※以前は3メートル。現在も子供やスペースに限りがある場合は3メートル

ホームベース前に線が引かれ、ライン内側にバウンドした打球はアウト。そのため鋭い打球が飛ぶ(写真:ストライク・ゾーン)
ホームベース前に線が引かれ、ライン内側にバウンドした打球はアウト。そのため鋭い打球が飛ぶ(写真:ストライク・ゾーン)

またベースボール5には「ホームラン」がない。自分で上げたボールは思いっきり叩けば簡単に遠くに飛ばせるが、打球がフェンスを越えるか直接当たるとアウトが宣告される(フィールドは18メートルの正方形)。そのため攻撃は、強く低い打球が大半でとてもスピード感がある。

バッターボックスは一辺3メートルの正方形で野球よりも広く、ステップを踏んで勢いをつけて打つことが出来る。だが打席のラインを踏むか、越えたらアウト。またファールボールも1球でアウトだ。5イニング制の試合は2、30分程度で終わり、展開はとてもスピーディーだった。

打者は打つ前に意思表示として「使用する予定の手」を挙げなければならない。打つのは手のひら、こぶしどちらでもよいが、こぶしで打つのは女子の方が多かった(写真:ストライク・ゾーン)
打者は打つ前に意思表示として「使用する予定の手」を挙げなければならない。打つのは手のひら、こぶしどちらでもよいが、こぶしで打つのは女子の方が多かった(写真:ストライク・ゾーン)

中学生が大人に勝利。勝因と魅力は?

筆者は大会の主催者・川島敏男代表の計らいでプレーに参加させてもらった。急造チームのメンバーは筆者を含め、少年野球のコーチ経験のある20~40代の男性6人(同時出場は5人)。対するは中学1年生男女のチームだ。大人たちはベースボール5初体験とはいえ「中学生には負けない」と思っていたが、結果は8-10で敗れてしまった。

埼玉県幸手市から参加の中1生たちは勝因について「相手守備の間を抜ける打球を打つには、どうしたらいいか?ということと、打球に緩急をつけることを意識した」、「逆に守る時は間を抜かれないように、守備位置を考えた」と「作戦面での工夫」を語った。

野手の間を狙い逆方向への打球を打とうとする中1生の打者(写真:ストライク・ゾーン)
野手の間を狙い逆方向への打球を打とうとする中1生の打者(写真:ストライク・ゾーン)

彼らの中で野球チームに所属しているのは2人。チームの方針で雨の日の練習メニューにベースボール5を取り入れているという。塁間が野球の半分ほどの13メートルと短く、素手でボールを捕るため、捕球から送球までの俊敏さと正確性が養われるからだ。

一方の大人チームは初めてのベースボール5をどう感じたか。吉本興業所属のピン芸人で弘前実業高野球部では外崎修汰(西武)のチームメイトだった、漢咲(おとこざき)コータローさんは「野球をやったことがない人に勧めたい」と話した。

「野球は『バットにボールを当てる』というのが一番のネックで難しいですが、ベースボール5だったら同じ年代に限らず女の子や、シニアでも和気あいあいと楽しめそうです。学校の授業や、会社の上司と部下でやるというのもいいと思います」

また他のメンバーからは「見ているよりハードだった」という声が上がった。飛び入り参加した筆者はワイシャツ、スラックス姿だったせいもあるが、20分程のプレーで汗だくだく。そうなった理由の一つが「捕手がいない」ことだ。

ベースボール5では相手走者を得点圏に置いた際、打球を処理していない野手が素早くホームのベースカバーを行わないと簡単に生還されてしまう。そのため守備時は絶えずに前後左右に動き回っていた。そして5人制ということで、攻撃時にはすぐに打順が回ってくる。休んでいる暇などなく、結構な運動量となった。

筆者は以前、中学男子生徒の母親から「小学生の時は野球をやっていたけど、中学からはバスケをやっています。野球が嫌いなわけではなくて、ずっと動いているのが好きなんだと思います」という話を聞いた。もしかしたらベースボール5であれば彼の希望を満たせたかもしれない。

一塁ベースは衝突を避けるため、野手用(フェアゾーン、写真右)と打者・走者用(ファールゾーン)の2つ。走者はベースから1.5メートルのセーフエリア内に留まらなくてはならない(写真:ストライク・ゾーン)
一塁ベースは衝突を避けるため、野手用(フェアゾーン、写真右)と打者・走者用(ファールゾーン)の2つ。走者はベースから1.5メートルのセーフエリア内に留まらなくてはならない(写真:ストライク・ゾーン)

野球の五輪復活への足掛かりとなる存在

ベースボール5は世界野球ソフトボール連盟(WBSC)が、17年に野球とソフトボールの振興の一環として発表した新しいスポーツだ。日本での事業は、全日本野球協会と日本ソフトボール協会が合同で行っている。ベースボール5には将来的にどんな可能性があるのか。

全日本野球協会の長久保由治事務局長は「ベースボール5は素手で捕って痛くないボールが1個あれば、道具を買わなくてもすぐに楽しめます。そして30分くらいでゲームが終わるという、今の時代に合ったショートコンテンツです」と手軽さに今後の広まりを期待する。

ベースボール5公認球。天然ゴム製で柔らかい。大きさは直径66センチで、少年野球で使う軟球のJ号よりひと回り小さい(写真:ストライク・ゾーン)
ベースボール5公認球。天然ゴム製で柔らかい。大きさは直径66センチで、少年野球で使う軟球のJ号よりひと回り小さい(写真:ストライク・ゾーン)

「男女でチームを作る競技なのでこれまで野球をやったことがない人、例えばバレーボールやラクロスといった他のスポーツをプレーしたことがある人にも、興味を持ってもらえるかもしれません。それが結果として『野球、ソフトボールって面白いね』となれば、競技人口が減っていくということはなくなると思います」(長久保事務局長)

野球、ソフトボールは東京オリンピック(五輪)で3大会ぶりに正式競技として復活するも、24年パリ五輪では除外となった。一方で世界80か国以上でプレーされているというベースボール5は、15~18歳までのアスリートを対象としたユース五輪の26年ダカール大会(22年から延期)の公式種目に決定している。

ベースボール5の公認球を国内で唯一、製造、販売するナガセケンコーの営業統括部・牧野公保次長は「ストリートバスケが発祥の3人制バスケットボール『3x3』が東京五輪で採用されたので、将来的にベースボール5が五輪種目になることを期待しています」と先を見据える。

また、前出の全日本野球協会・長久保事務局長も「3x3がショッピングモールで行われるように、ベースボール5も将来、神社やお寺の境内といった街に溶け込んだところで、大会が出来たらいいなと思っています」と夢プランを語った。

ベースボール5の存在は、アーバン(都市型)スポーツに新たな価値を見いだしている国際オリンピック委員会(IOC)への野球、ソフトボールの五輪復活へのアピールとしても大きい。

日本代表決定戦が新宿で無料で見られる

韓国代表のイ・デヒョン選手兼コーチはベースボール5について、「野球より気軽に出来るし、5人のチームワークが必要な魅力的なスポーツです。たくさんの人に知ってもらえたら嬉しい」と話した。

現役当時のイ・デヒョン氏(写真:kt wiz)
現役当時のイ・デヒョン氏(写真:kt wiz)

その韓国代表と8月のアジアカップで顔を合わせる可能性がある、日本代表を決める戦いが7月17日(日)に行われる。場所は東京・新宿住友ビルの全天候型イベント会場、三角広場だ。

「たかが手打ち野球」ではないスピード感あるプレーと、日本代表が選ばれる瞬間を目撃出来る機会となる代表決定戦。観覧は無料で開始時間など詳細は近日、Baseball5日本代表オフィシャルサイトで告知される予定だ。

Baseball5日本代表オフィシャルサイト

※代表選考前につき候補選手のコメント掲載は控えました。取材へのご協力ありがとうございました。

映像:ベースボール5のルールについて、WBSC公認インストラクター・六角彩子さんがわかりやすく説明している動画(6分41秒。Baseball5 JAPAN)

韓国プロ野球の伝え手/ストライク・ゾーン代表

2002年から韓国プロ野球の取材を行う「韓国プロ野球の伝え手」。編著書『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑』(韓国野球委員会、韓国プロ野球選手協会承認)を04年から毎年発行し、取材成果や韓国球界とのつながりは日本の各球団や放送局でも反映されている。その活動範囲は番組出演、コーディネートと多岐に渡る。スポニチアネックスで連載、韓国では06年からスポーツ朝鮮で韓国語コラムを連載。ラジオ「室井昌也 ボクとあなたの好奇心」(FMコザ)出演中。新刊「沖縄のスーパー お買い物ガイドブック」。72年東京生まれ、日本大学芸術学部演劇学科中退。ストライク・ゾーン代表。KBOリーグ取材記者(スポーツ朝鮮所属)。

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