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今オフ引退の愛すべき韓国元代表選手 遠征先のホテルで日本人夫婦の部屋にちん入の過去

室井昌也韓国プロ野球の伝え手/ストライク・ゾーン代表
2009年のWBC、二塁ベース上で西武・片岡易之(治大)と交錯するチョン・グンウ(写真:ロイター/アフロ)

11月23日の本欄で長年韓国代表の二塁手として活躍したチョン・グンウ(38、LG)の現役引退を、元同僚の中日・門倉健コーチの思い出とともに紹介した。

(関連記事:巨人も注目した韓国代表の二塁手が38歳で引退を決断 元同僚・中日門倉健コーチが思い出を語る

身長172cm(公称)の体をフルに使ってグラウンドを駆けまわる姿はまるで小動物。陽気な性格で誰からも愛される存在、それがチョン・グンウだった。

日本語で笑わせる高度なトークテクニック

先日の記事で門倉コーチが「打たれると日本語で『ダイジョウブダヨ』とか『ガンバリマショウ』と言ってくれる温かさがありました」と語っていたように、チョン・グンウは言葉を操るセンスに長けていた。

チョン・グンウがハンファに在籍していた2016年。高知で行われた春季キャンプでは、「世界一練習時間が長い」ことで知られるキム・ソングン監督(現ソフトバンク・コーチングアドバイザー)の下、密度の濃い練習が続けられていた。

一方で監督不在のサブグラウンドに流れていたのは緩やかな空気。その中心にいたのはチョン・グンウだった。

内野手の守備練習でチョン・グンウはイージーゴロをさばくたびに、居酒屋で耳にしたのか日本語で「ヘイ、イラッシャイマセ~」、「ハイ、モウイッチョウ」と声を響かせた。

高知キャンプでのチョン・グンウ(写真:ストライク・ゾーン)
高知キャンプでのチョン・グンウ(写真:ストライク・ゾーン)

延々と続くノック。守備コーチが韓国語で「練習時間あと5分」と言うと、チョン・グンウは守備位置で大きく手を振り、拒否する姿勢を見せてコーチに向かって大声でこう叫んだ。

「チガウ アト1プン! ハヤク オワラナイト センシュ ミンナ シンジャウ!」

その言葉に練習を補助する地元のアルバイトスタッフたちは、手にしたグラブを震わせながら笑いをこらえていた。チョン・グンウの周りはどんな時も明るかった。

試合後のホテル、日本人の部屋で「コンニチハ!」

チョン・グンウの愉快なキャラクターが招いた珍事もあった。

11年前の夏、筆者が企画しガイド役を務めた日本出発の韓国プロ野球観戦ツアーでの出来事。場所はツアー2日目、テグ球場でのサムスン-SK戦を観た後のホテルだ。

試合は6-4でSKが勝利。この後「事件」は起きた。右から2番目がチョン・グンウ(写真:ストライク・ゾーン)
試合は6-4でSKが勝利。この後「事件」は起きた。右から2番目がチョン・グンウ(写真:ストライク・ゾーン)

ツアー参加者の日本人夫婦が部屋に入ると、洗面所にタオルが一組しかなかった。すぐにフロントに電話しそのことを伝えた夫婦は、ホテルマンの到着を扉を開けて待つことにした。

しばらくして夫婦の部屋にやって来たのは、明らかにホテルマンではないTシャツ姿の男性。ズカズカとベッドルームに侵入してくる男性に夫婦があっけにとられていると、彼は間違って日本人の部屋に入ったと気づいたのか、とっさに「コンニチハ!」と言い残して飛び出して行った。

夫婦は突然のことに驚くと同時に、夫は妻にこう言った。「今のチョン・グンウだよ!」

夫婦の部屋を出て行った男性(チョン・グンウ)は隣の部屋へ。壁の向こうからは彼が失敗談を仲間に語ったのか、大きな笑い声が聞こえてきた。

ツアー一行が泊まったホテルには当時チョン・グンウが所属していたSKの選手たちも宿泊。夫婦の隣の部屋は選手がマッサージや治療を受けるトレーナーの部屋だった。チョン・グンウは日本人夫婦の部屋をトレーナー室と勘違いしたのだ。

この夫婦は韓国野球に詳しい方ではなかったが、チョン・グンウのことは知っていた。なぜなら前日に観戦したインチョンでのSK-トゥサン戦でチョン・グンウは2安打2打点と活躍。夫婦はチョン・グンウのユニフォームを買う程のファンになっていたからだ。

夫婦は少し迷いながらもチョン・グンウのユニフォームを手にし、隣室のドアをノック。すると夫婦はチョン・グンウとトレーナー陣に笑顔で室内に迎え入れられた。チョン・グンウは夫婦が差し出した背番号8のユニフォームに快くサインをし、束の間の語らいの時間を持った。

通算371盗塁の魅力にあふれた選手

ツアー一行が観戦したサムスン戦で、SKのチョン・グンウは4回表に二塁へシーズン43個目となる盗塁を決め、三塁走者となった2死満塁の場面でホームスチールに成功。さらに試合後はホテルで日本人夫婦の部屋を落とし入れる珍プレーでその日を締めくくった。

チョン・グンウはプロ16年間で歴代6位タイの通算371盗塁を記録。数々の大舞台で常に先の塁を奪う俊足を誇った。そして韓国国内のファンはもちろん、日本の人々のハートも盗む球界きっての魅力の持ち主でもあった。

韓国プロ野球の伝え手/ストライク・ゾーン代表

2002年から韓国プロ野球の取材を行う「韓国プロ野球の伝え手」。編著書『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑』(韓国野球委員会、韓国プロ野球選手協会承認)を04年から毎年発行し、取材成果や韓国球界とのつながりは日本の各球団や放送局でも反映されている。その活動範囲は番組出演、コーディネートと多岐に渡る。スポニチアネックスで連載、韓国では06年からスポーツ朝鮮で韓国語コラムを連載。ラジオ「室井昌也 ボクとあなたの好奇心」(FMコザ)出演中。新刊「沖縄のスーパー お買い物ガイドブック」。72年東京生まれ、日本大学芸術学部演劇学科中退。ストライク・ゾーン代表。KBOリーグ取材記者(スポーツ朝鮮所属)。

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